WTO  
WTOと環境
2005年8月15日


 ジュネーブのWTO本部で議論されているのは、農業問題だけではない。これに匹敵するほど重要な問題は「非農産物製品(NAMA)」の交渉である。NAMAとは工業製品のことで、NAMAの交渉とは、一口に言うと、途上国の工業製品に対する輸入関税を引き下げ、あるいは撤廃をはかるものである。
 しかし、このNAMA交渉には、先進国、途上国双方に大きな影響を持つ、ある隠された問題がある。NAMA交渉の中で、加盟国、あるいはその地方自治体が制定している環境保護の法律を貿易自由化の妨げになるとして、撤廃させようとするための「リストつくり」が進行しているという事実である。
 環境NGO「地球の友」は、4月18日、アルゼンチン、ブルガリア、キューバ、エジプト、日本、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ノルウエー、台湾、米国、ベネズエラ、そしてCAP諸国が、NAMA交渉の中で、食糧、漁業、木材、石油製品、省エネ、科学物質、エレクロニックス製品や車のリサイクル法などを潜在的な「非関税障壁」として撤廃しようとしており、そのヒット・リストを入手した。そしてこれまでにWTOのNAMA交渉で撤廃すべき項目として挙げられたのは72項目であるという。これは、正式に4月25−29日、ジュネーブで開かれたNAMA交渉に提案された。
 たとえば韓国の産業界は、これらの法律はあまりにも極端であり、非合理的でもあると非難しはじめた。一方米国は、他国が省エネを促進しているのを阻止しようとしている。たとえば、米国は、英国で実践されている小型車の所有者に税控除を与えるといった省エネ政策を他の国が採用するのを阻止しようとしている。
 有害化学物質の規制も対象になっている。EUの法律では有害な化学物質に挙げられているある種の染料、酸化水銀、酸化ニッケル、1,2ダイクロロエタンなどが規制撤廃の対象になっている。
 1960年以来、制定されている化学物質規正法も、その対象に挙がっている。日本は、NAMA交渉に中で、EUが新たに導入しようとしている「化学物質の規制、評価、許可法案(REACH)」の制定を阻止しようとしている。
 森林と漁業資源については、「エコ・ラベル」や認可制度の撤廃などが挙がっている。これは森林管理協会の証明書交付スキーム、政府木材調達スキーム、それにEUの不法伐採規制法など、輸入先の国の法的な許可証明書を必要とする制度をすべて崩壊しようというものである。
 エジプトとノルウエーは、漁業資源が枯渇に瀕しているにもかかわらず、どこで魚が捕獲されたかを示すラベルをつけることに反対している。漁業は、とくにWTOの自由化政策の中でも企業の大ヒット・リストに挙がっている。すでに世界の漁業資源の4分の3は枯渇、あるいは枯渇の危険に晒されており、また回復の兆しを見せている種類である。WTOのNAMA交渉は、何百万もの小漁民たちが沿岸漁業に依存しており、それが危機に瀕していることに無関心である。貿易がすべてに優先するのである。
 各国政府が進めている最低のリサイクル政策さえも攻撃に晒されている。アルゼンチンでは消費者にリサイクルの情報を伝えるために包装にしるしをつけることさえも、企業は費用がかかりすぎるとして反対している。一方、韓国では、車の製造業者と販売業者がスクラップになった車をリサイクルすることを義務づけた法律に反対している。EUでは、これは法律によって義務づけられている。
 NAMA交渉では、米国が宝石の原石、希少金属、ボーキサイトの貿易を自由化し、拡大しようという提案を出している。これが通れば、他のすべての天然資源に適用されるだろう。結局、より多くの鉱産物が市場に出回ることになり、価格の値下がりにつながる。これは、一部の企業は恩恵を受けることができるが、天然資源の枯渇につながるだろう。 
 NAMA交渉の中で、これらのヒット・リストのいくらかは、政府の反対に会って、引き下げられた。とはいえ、その多くは交渉項目として残っている。そして、WTOに企業が送り込んだ強力なロビー集団によって守られている。
 また残酷な狩猟方法で捕獲された動物の皮の輸入を禁止した法律も、撤廃するよう求められている。医薬品の許可に高い水準を要求した法律も、同じことが求められている。
 途上国政府が制定している自動車と石油産業への外国投資の規制の撤廃も求められている。 
NAMA交渉では、EUをはじめとするいくらかの先進国は自国内では環境スタンダードを守ることになるが、途上国では撤廃されることになるという危険性が残っている。
NAMA交渉において、WTOはその本性を明らかにした。WTOが社会、環境基準に対して、容赦のない攻撃を掛けているのだ。化学物質による汚染、地球温暖化、森林破壊、漁業資源の枯渇、廃棄物投棄などは、市場の拡大、より多くの利潤の追求など企業のあくなき要求の前には全く問題視されないのだ。