WTO  
WTO 05年7月一般理事会
2005年8月15日


 WTOは、2005年7の月27日と29日、ジュネーブにおいて、一般理事会を開催した。真ん中の7月28日には貿易交渉委員会(TNC)が開かれた。一般理事会は、ジュネーブに駐在する加盟国の代表団の長によって構成されるもので、2年ごとに開かれる閣僚会議に次ぐ、高いレベルの会議である。この一般理事会に先立って、7月12〜13日、中国の大連で、非公式のミニ閣僚会議が開かれた。ここでは、先のパリのミニ閣僚会議で見られたような"成果"はなかった。

 昨年7月、同じくジュネーブで開かれた一般理事会では、ドーハ"開発"ラウンドに入る前のWTO交渉の枠組みが合意された。これは「7月枠組み」と呼ばれる。今回の一般理事会はこの「枠組み」の内容を書き込むことになっていた。ちなみに、ドーハ・ラウンドの終了期限は2006年末になっている。
 
 今回の一般理事会の議長は、ケニアのAmina Mohammad大使であった。しかし、昨年のように、閣僚クラスの出席はなかった。
 スパチャイ事務局長の言葉を借りれば、一般理事会を前にしたWTO諸交渉は、決裂の「アラームのボタンを押すほどではないけれど、指がその上をさまよっている」状態にあった。
 一般理事会は8つの分野について交渉することになっていたのだが、何といってもその中で、主要なのは農業とNAMA(工業製品の関税引き下げ)の2分野であった。この2つは相互に連動しており、いわばバーター取引になっている。結論から言うと、農業交渉が進展しないかぎり、NAMAの交渉も進展しない。
 農業交渉では、農産物の関税の方式についていくらかの進展が見られたが、7月までに鍵となる項目についての合意はなかった。そして、8月にはWTOは休暇に入るので、12月の香港での第6回閣僚会議に間に合わせることは不可能に近い。
 さらに悪いことに、農業もNAMAも、7月末にそれぞれの議長の任期が切れ、新しい大使に交代をするというハンディキャップを抱えている。たとえば、農業委員会では、これまでニュージーランドのTim Groser大使が議長であった。これは、今のところ、同じくニュージーランドの新任のCrawford Falconer大使、あるいは現在サービス交渉の議長であるチリのAlejandro Jara大使が候補に挙がっている。しかし、新任のラミー事務局長はEUの「共通農業政策(CAP)」の熱心な支持者であることから、Groser よりも、大きく農業交渉のスピードアップに指導権を振るい、介入すると見られている。
NAMA交渉のほうも、香港の閣僚会議前に、現在のノルウエーのStefan Johanessen大使の任期が切れる。
いずれにせよ、これらの議長が決定するのは、9月の休暇明けのことであり、ぎりぎりになって選任されるのが通常である。したがって、集中的な交渉は10月半ばから11月半ばの1ヶ月間になるだろう。
最近の興味深い現象は、かつて、WTOの最も強大な4カ国「QUAD」であった米国、EU、カナダ、日本に代わって、米国、EU、ブラジル、インドという「ニューQUAD」が台頭してきたことである。これはFIPsからもじってQUIPsとも呼ばれる。かれらは、農業の分野にとどまらず、WTO全般にわたって、交流を深めている。QUIPsの会合は9月早々に開かれる。

一般理事会は、すべての分野において、合意に至らず、何の進展もなく、文書も出さずに終わった。ただ、どの国がどのような主張をしているかについては明らかになった。

1) 農業
 一般理事会が始まる2日前から「FIPs+9」の14カ国が会合を持ってきた。そこで争点となったのは関税引き下げのフォーミュラでありまた関税率の最高値を決めるか否かの問題であった。
G20(農産物輸出の途上国連合)は「先進国に150%」「途上国に100%」の関税率を上限とすることを要求した。米国はこれを支持し、EUは反対した。EUは休暇明けまで農業交渉を延ばす作戦である。とくに市場アクセスとこの関税率の上限を設けることについては、NAMA交渉の進展がない限り、妥協をすることをしないと決めているようだ。

2) NAMA
 一般理事会の2日前、NAMA議長は、ブラジル、中国、EU、エジプト、インド、ジャマイカ、日本、ケニア、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ノルウエー、パキスタン、米国を呼んで、関税引き下げのフォーミュラについて、非公式の打診を行った。
各国はこれまでの立場を全く変えなかった。したがって、議長が「第1回近似値文書」を作成することが不可能になった。

3)サービス(GATS)
 Euは途上国に対して、サービス部門での10の基調セクターのリストを提示した。途上国がそれぞれその中から6〜7セクターを選び、それらのセクターについて、自由化の最低のコミットメントをするというのである。EUの要求は、途上国が、少なくとも、GATSの枠外のサービス部門ですでに自由化しているレベルまでこれらセクターの自由化を達成するか、あるいはそれ以上の自由化をめざすべきだと要求した。
 このEU提案に対して、ほとんどの途上国が反対した。

4)特別の、差異のある待遇(S&D)
 これは、ドーハ開発ラウンドの「開発」の中心分野であるはずのものが、脇に追いやられている。すでに途上国は88の実施項目を提出しているが、一般理事会の議題に提出されたのは僅かにLDCsの5項目でしかない。 
その低開発国(LDCs)に対するSDTについての交渉の中での最も紛糾している問題はLDCsが提案した「LDCsから輸出品に対して、先進国は、確実な(bound)関税免除と数量制限なしの市場アクセスを提供する」というセンテンスがあるが、これに対して、米国とEUは、Bound を削除することを主張した。彼らは、WTOにおいて、このような市場アクセスをLDCsに対して保証することを拒否している。彼らはこの問題は2国間ベースで交渉すべきであるといっている。

5) TRIMs
 「貿易に関した投資基準協定(TRIMs)」はもう1つの紛争分野である。LDCsはこれまでの基準を永久に残し、新しい基準を一時的なものにすることをテキストに書き込むことを要求した。一方、先進国は、LDCsに対して、これまでの基準を一時的なものとすることを要求している。
 
 一般理事会は、加盟国全員が一同に会して議論する場である。しかし、相変わらず、WTOは一部の選ばれた国による非公式の会合が盛んである。ここで重要な議論が行われ、合意があり、それを全体会議で強引に決議しようという手法である。
 今回の一般理事会中でも、場外で、農業について、米国、EU、ブラジル、インド、オーストラリアの5カ国によるFIPsの閣僚レベルの会合があり、農業とNAMAについての非公式会合があり、日本を含むG10の会合も持たれた。ここで、何が起こるかわからない。したがって、貧しい途上国の中には、どの会合が開かれているのか、どれに呼ばれているか、全くつかめず、イライラが募っている。
 一般理事会に決定権をもつ閣僚級の代表が送られれば、会議をスムーズに進行する。しかし、インドネシアやフィリピンのように、公然と一般理事会の先行きが不明だということで、ジュネーブに閣僚を送らなかった。