WTO  
ドーハWTO閣僚会議の向けて その7
2001年9月
 

途上国声明(77カ国グループと中国)                北沢洋子抄訳

 WTO加盟国142カ国中、100カ国を超える途上国は、2001年10月22日、ジュネーブWTO本部で、ドーハ第4回閣僚会議に向けて、35項目にわたる声明を発表した。以下はその要約である。

1.途上国は、経済開発を推進し、グローバル経済に参加を促進し、貧困を根絶するには、ルールに基づいた多国間貿易制度と透明な政策決定プロセスが重要な手段であると、認識する。

2.多くの多国間貿易のルールは、途上国の貿易と開発の促進、均等な目的の達成に、よりよく対応できるために、改善される必要がある。

3.国際経済と貿易制度のシステミックな欠陥のために、多くの途上国は、グローバル経済の繁栄を享受できない。その上、グローバル経済の後退/不況は、途上国、とくに低開発国(LDCs)に重大な影響をもたらした。
(「実施」問題)

4.途上国にとくに関連深い部門の自由化は進んでいない。多国間貿易協定(MTAs)と市場アクセスの条件については、権利と義務の間のバランスが欠けている。世界貿易への途上国の参加がむしろ後退している問題も、緊急に取り上げるべきである。WTOが開発問題をとりあげることは、なによりも緊急課題である。

5.「実施」問題が実質的に進展していないことに、途上国は深い失望を表明する。すでに2000年5月、WTO一般理事会では、遅くとも第4回閣僚会議以前に、「実施」問題を取り上げ、決定することを、完全な合意でもって決議している。途上国は、すでに104項目にのぼる「実施」問題を提出した。それらは;
協定の文言と精神を不充分、あるいは故意に解釈したり、協定の内容を間違えて解釈したことから出てくる問題、さらに協定そのものに含まれている非整合性、不均衡から起こってくる問題などが挙げられる。
 ウルグアイ・ラウンド協定の完全、かつ忠実な実施、また協定の不均衡な部分の見直しは、多国間貿易制度の信頼醸成と、信頼回復への第1歩である。

6.ウルグアイ・ラウンド協定は、途上国と低開発国(LDCs)の輸出品が、先進国の市場へのアクセスを拡大することに繋がらなかった。先進国には、依然として、限界的数量制限、累進関税、あるいは非関税障壁が存在している。それは、途上国の関心が大きい繊維、縫製品、農産物、農業関連製品に対する、恣意的、かつ煩雑なルール、技術的な貿易障壁、保護主義を目的とした衛生規則、さらに、反ダンピング、報復関税、セーフガード措置などを指す。これらは、途上国、LDCsの貿易に、重大な否定的影響を及ぼしている。ドーハでは、まず第1に、これらの問題の解決に取り組まねばならない。
(最恵国待遇)

7.ウルグアイ・ラウンド協定に記載されている最恵国待遇(S&D)は、ほとんど形式であって、実体はない。WTO協定は、途上国、とくにLDCsの特別な開発のニーズを考慮に入れ、より意味のある、有効な措置を講ずるべきである。先進国は、途上国の開発、金融、貿易のニーズに対して、代償義務を課すことなく、積極的な政策を打ち出すべきである。最恵国待遇措置は、より詳細で、効果のあるもの、さらに、法的に強制力のある、実施可能であるべきで、単に「最大の努力目標」にとどまってはならない。ドーハでは、最恵国待遇措置に関するフレームワーク協定を締結すべきである。
(農業とサービス)

8.農業とサービスの分野での現行の交渉と見直し作業は、途上国の市場アクセスの向上と、公正な、均等なルールをもたらすものでなければならない。ドーハでもこれが確認されるべきである。

9.農業に関する貿易は、先進国が、高い補助金、さまざまな関税、非関税障壁を乱用しているのが特徴である。農業に関する協定(AoA)20条をめぐる現行の交渉が何の進展もないことに、途上国は深く憂慮している。ドーハにおいては、AoAの根本的な改革を達成できる決議がなされ、それがWTOのルールに盛られることを要求する。それには;

途上国の農産物の輸出を阻害する要因を取り除くために、有効な政策を採択する。
先進国は、限界的数量制限関税、累進関税を廃止する。限界関税を削減する。国内支援措置を削減する。すべての輸出補助金を廃止する。最恵国待遇を改善し、実行可能な、有効な、強制力のあるものとする。これらは、途上国の農産物の輸出を促進する上で、決定的に重要である。
 AoAの不均等な部分を見直す。途上国は「開発ボックス(Development Box)」を協定に採り入れることを要求する。また、貿易外問題、つまり途上国、LDCsの中の食糧輸入国に対する食糧安保と農村開発問題を取上げるべきである。

10.貿易特恵措置は途上国にとって国際貿易の中のシェア拡大に決定的に重要である。しかし、決してこれを貿易外のコンディショナリティに結び付けてはならない。

11.貿易に関連したサービスの分野では、途上国の参加が遅れている。2001年3月28日、貿易に関連したサービスについての理事会が採択した交渉のガイドラインと手続きの重要性を再確認する。
(貿易に関連した知的所有権協定(TRIPs)

12.技術移転、及び技術に関する知識を製造者と消費者が相互に享受するなどについてのTRIPsの条項を、実行可能なものにすべきである。またこれまで開発者が使用してきた伝統的な知識や遺伝子資源の恩恵を公正、かつ均等にシェアできるように情報公開するメカニズムを樹立すべきである。したがって、TRIPsは、生物資源の保護と、伝統的な知識と遺伝子資源を擁護する規律を促進すべきである。TRIPsの見直しは、開発の側面を考慮すべきであり、見直し期間中、加盟国は、途上国に対して、紛争仲裁機関に訴えることをしないと誓うべきべある。

13.TRIPsには、途上国政府が、公共の健康と栄養を守り、かつ基礎医薬品と救命医薬品を安価に供給することを、妨げるものではない。
(貿易に関連した投資措置協定(TRIMs)

14.途上国は、貿易に関連した投資措置協定(TRIMs)の議論は重要であり、同時に、TRIMsが途上国にとって、開発目標を達成し、土着化を含めた急速な工業化に必要であると認識する。途上国は、一般理事会の2000年5月8日の決議に従い、TRIMsの猶予期間をさらに延長することを要求する。さらに、途上国は、TRIMsの条項に、新たに追加をしてはならないと、強く要求する。そして、加盟国は、TRIMsの審議中、途上国に対して紛争仲裁機関に提訴しないことを誓うべきである。

15.緊急に、TRIMsの中に繊維と縫製品部門を加える必要がある。この部門では、貿易自由化が非常に遅れたおり、特別な数量制限が課せられているので、途上国の小規模供給者の市場アクセスを拡大する上で、必要である。ドーハでは、先進工業国の反ダンピングのモラトリアム、補助金とセイフガード措置の廃止などを採択するべきである。
(投資、競争、政府調達の透明性、貿易ファシリティ)

16.途上国は、貿易に関連した投資、競争、政府調達の透明性、貿易ファシリティなどは、重要だと認識している。しかし、これらの問題について、WTOが交渉に入る場合は、完全な合意に基づいた上でなければならない。またこれらの問題が、途上国に及ぼす影響と、途上国が交渉に入るときの能力を慎重に評価する必要がある。さらに、WTOが、新たな議題で交渉に入る前に、「開発赤字(Development Deficit)」問題に取り組むべきであるという途上国の提案を最優先的に取上げるべきである。
(債務、資金、技術移転)

17.途上国は、貿易と債務、資金、技術移転などの問題をドーハの準備段階、さらにはシアトル以前に、提起してきた。これらの問題は途上国にとって最高の関心事であり、その審議のメカニズムを設けることは、緊急に考慮されるねばならない。
(技術援助)

18.途上国には、多国間貿易協定に義務づけられ、かつその条項を十分に享受するために必要な国内法を制定するための技術と組織的な能力には、限界がある。先進国は、途上国、LDCsに対して、能力向上、その他の技術の援助についての義務を遂行すべきである。先進国は、突発性の需要と通常の必要資金の調達を推進するべきである。また技術協力については、WTOの通常の予算から支出されるべきである。この技術援助にはコンディショナリティを付けてはならない。
(経済制裁)

19.すべての国にとって、国内貿易政策と多国間貿易協定の間の整合性は確保されなければならない。この観点から、途上国に対する絶えざる威嚇的な経済措置を止めるよう呼びかける。たとえば、国際法に違反した、一方的な経済と貿易制裁、とくに、国内法を、国境を超えて適用することを目指した新しい試みなどは、国連憲章とWTO規約の侵害である。
(低開発国(LDCs)

20.国連第3回LDCs会議で採択された行動計画に盛られたコミットメントを実施する必要が緊急にある。とくに、コミットメント5の「開発における貿易の役割の強化」とコミットメント7の「資金の動員」に注目すべきである。先進国は、LDCsの輸出に対して関税免除、数量制限なしのアクセスを供与することは、強制力のあるコミットメントである。

21.先進国は、その他の途上国にたいしても市場アクセスについてのコミットメントを遂行すべきである。
(資金供与)

22.Integrated Framework(IF)は、LDCsに対して、貿易に関連した技術援助を行う義務を課している。IF信託基金には十分な資金が拠出されるべきであり、実施に当たっては、対象国の選択問題を含めて、より透明性の確立が必要である。

23.LDCsは、世界貿易では、ますます周辺化されている。WTO閣僚会議は、最近ザンジバルで開かれたLDC貿易相会議で採択された、LDCsが多国間貿易制度への参加を強化するという宣言の精神と勧告を考慮すべきである。

24.LDCのWTOへの加入については、柔軟で、合意した基準を基礎にして、一括審議すべきである。また、LDCsに有利な最恵国待遇をもとにして、LDCの開発の段階に応じた義務を課すべきである。LDCsが新たに加盟する際のコミットメントは、現在すでに加盟しているLDCsのコミットメントを上回るものであってはならない。
(労働と環境)

25.ILOは、労働基準に関した問題の審議については、資格のある機関である。したがって、途上国は、貿易と労働基準を関連付けることに、断固として反対する。また、保護主義の新たな形態である、環境基準を、WTOに導入することにも反対する。これら基準は、資格のある国際機関で取上げられるべきであって、WTOではない。

26.WTOが、ILOやUNEPなどの国連機関と関連させることは、保護主義の目的をもって、貿易と社会、環境問題をリンクさせることに使われる可能性があることから、注意しなければならない。

27.小規模な経済国の特別な問題に取り組むべきである。

28.内陸国と島嶼国が抱えている地理的な困難に注意を払うべきである。

29.途上国の地域、小地域統合は、周辺化するプロセスを逆転させるために必要である。ダイナミックなブロックの形成は、多国間貿易制度に有効に参加するのに必要である。

30.WTOとIMF、世銀との統合が進行中だが、それは、技術援助、資金援助、直接投資の流入、債務削減、貧困根絶など、開発目標に役立つものでなければならない。決して、途上国にコンディショナリティを重複適用することや、追加の条件を課するものであってはならない。

32.途上国の新規加盟国に対して、市場アクセスの拡大やそのたのコミットメントが行われたことを認識している。これは、これからの貿易交渉にも含まれる事項である。


33.電子商業の作業プログラムを続行する必要がある。デジタル・ディバイドを狭めるため、さらに途上国が最新技術にアクセスする際に、すべての規制が撤廃されることを要求する。

34.電子商業に関するWTOの適用ルールをすべての加盟国に明らかにすべきである。

35.途上国の地域機関、ならびに政府間組織が提出していた常任のオブザーバー資格の要請を、WTOはすみやかに採択すべきである。

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