WTO  
ドーハWTO閣僚会議の向けて その6
2001年9月
 

      消費者インターナショナルの声明            北沢洋子訳
     「WTOに対する消費者ラウンドを要求」

Pro-Consumer(消費者優先)のラウンド(多国間貿易交渉)とは?

 消費者インターナショナルは、ドーハの第4回閣僚会議で、消費者ラウンドを開くようWTO加盟国に呼びかける。消費者ラウンドは、WTOのこれまでの諸協定の「実施」にともなう多くの不平等、不充分さの改善に着手すべきである。WTOの交渉で消費者が恩恵を受け、消費者の権利が擁護され、強化されることが、その第1の目的である。

ウルグアイ・ラウンドの不平等の改善

 シアトルの失敗を繰り返さないために、ドーハの閣僚会議は途上国と市民社会の関心事項を取り上げるべきである。新しい議題を導入する前に、むしろウルグアイ・ラウンドの未解決の「実施」問題に取り組むべきである。それは、途上国が実施する時に直面している問題、あるいは先進国が公約を実施していないために起こっている問題を指す。中でも緊急に解決しなければならない「実施」問題は、すでに締結されたAoA(農業協定)とTRIPs(貿易に関連した知的所有権協定)である。
 その他、解決をしなければらない問題は、補助金、数量制限、関税などである。先進国が、中でもとくに農業や繊維の市場を開放するのを拒んでいるために、先進国、途上国を問わず消費者は不利益を蒙っている。途上国はこれを強く要求しているが、先進国は関心を示していない。むしろ先進国側は、途上国に輸入と投資の自由化を迫っている、のが事実である。

大国は誠実なコミットメントを

 もし、先進国が多国間貿易制度を開発に役立つ道具と見なしているなら、実効的な政策を打ち出すべきである。先進国は;

1. 農業部門での保護主義と補助金制度を中止する。それは農産物の輸出補助金と信用供与をすべて撤廃することである。また、中でもとくに弱い消費者の食糧安保に関する国家の権利を尊重することである。
2. 途上国が輸出するすべての工業製品と農産物に対する関税と数量制限を撤廃する。2005年というターゲットを設定する。
3. とくに途上国が輸出する農産物、繊維と縫製品に対する累進関税と最大数量制限を2004年までに廃止する。
4. 途上国の輸出品、とくに繊維など最近自由化された部門での、不適切な反ダンピング行動を止める。
5. 途上国の要請があれば、競争、消費者保護制確立について、技術協力する資金制度を設ける。

貿易自由化による影響の評価

 政策作成者は、グローバリゼーションが進むにつれて、各種国際機関と各種利益グループのニーズとの関係を理解し、高度な対応を迫られる。消費者インターナショナルは、WTOが持続可能な開発に貢献するという議論は多いが、実際には、なんらの進展もないことに失望している。これは、他の国際機関(訳者註:ILOなどの国連諸機関)との関係を改善することであり、また、貿易自由化を進めるよりは、むしろその影響を評価することの方が、解決に近い。さらに、国際NGOのWTOへの参加を促進すべきである。

とくに、ドーハにおいては?

 消費者インターナショナルは、適切な国内消費者政策、とくに最も貧しい消費者のニーズに応えた政策がある場合には、貿易自由化が消費者の福祉の向上につながると確信する。消費者の福祉の向上には、国内、地域、グローバルなレベルで協調した政策が打ち出されなければならない。そのためには、以下にのべる分野の議題が取り上げられる;

1. 農業協定(AoA)

 途上国の輸出品の市場が確保されていないのに、輸入自由化が行われ場合の影響を考慮に入れ、AoAは、弱い消費者の食糧安保強化をめざす交渉を設定しなければならない。

2. 貿易とサービスの一般協定(GATS)

 サービス部門の自由化は消費者に大きな影響を及ぼす。とくに影響が大きいのは電気、水、通信などの基礎的なサービス部門である。
 GATSでは、自由化について加盟国にOpt-In(自由加入)制度を設けている。しかし、消費者に対して十分な規制制度が設けられることなくして、いかなる部門も自由化されないという保証が与えられるべきである。消費者優先の、効果のある規制を設けた場合、自由化の恩恵が消費者に保証され、消費者の権利が侵害されたり、これらサービスへのアクセスが制限ことがない。
 さらに、GATSに盛られた「自由化の不可逆性」を見直すべきである。

3. 貿易に関連した知的所有権協定(TRIPs)

 消費者インターナショナルは、ウルグアイ・ラウンドにTRIPsを含めることに反対した。根本的な解決は、TRIPsをWTOから除外すことである。しかし、これは、すぐには実現しないだろう。TRIPsと保健との関係が明確化されていない現状では、同協定が「公共の保健政策を擁護するものである」という、明確、かつ拘束力をもつ公約を、ドーハ閣僚宣言に盛り込むべきである。消費者インターナショナルは、TRIPsについてのアフリカ・グループ(30カ国)の立場を支持する。

4. 競争

 WTO加盟国の中で、独占禁止法を制定していない国は半数近い。したがって、国際規約について交渉に入るのは時期尚早である。しかし、競争規約と政策が市場の乱用を防ぐことが有効に行われる場合には、消費者は恩恵を受ける。大企業がその市場の優位性を乱用したり、カルテルを結成して価格をつり上げた場合、最も損失を受けるのは、消費者と小企業主である。有効な競争規約は、製薬会社のような重要な分野での知的所有権の乱用を防ぐことが出来る。
 このような観点に立って、WTO内で、競争規約と政策についてのより積極的な議論がなされることが望ましい。競争規約と政策について議論する常設の作業部会が設けられる方向が望ましい。常設部会は、どのような機構が望ましいか、また消費者政策と競争の文化を促進する消費者組織の重要な役割を検討するフォーラムとして機能すべきである。

5. 衛生と植物衛生(Phytosanitary)基準(SPS)、貿易の技術障壁(TBT)などの協定

 消費者の健康と安全は保証されねばならない。保護主義の目的に利用されない限り、WTOでは、防止措置の原則は尊重されるべきである。そのためには、基準設定機関にはより多くの消費者が参加すべきだし、新しいSPSやTBTが途上国の輸出品に課せられる時には、最低12ヶ月の猶予期間が与えられるべきである。

6. ガバナンス

 WTOが持続可能な開発を達成する機関であるならば、WTOの役割とその他の国際機関の役割との整合性について、最検討すべきである。
 WTO設立条約第5条には、一般理事会は、NGOと諮問、協力をすべきであると書かれているが、これを実行しなければならない。WTOは、これまで国連が行ってきたのをモデルとして、国際機構を持った民主的なNGOを選択し、また地域間のバランスとNGOの関心が、WTOに反映されるように努力すべきである。そのようなNGOはWTOの審議により大きく参加し、修正案を提案し、文書を加盟国代表に配布し、定期的な政策対話を行うことが認められるべきである。

消費者の福祉を第一義に
 ドーハ閣僚会議は、消費者優先と開発優先の課題を議論するよい機会である。しかし、それには、大国が、平等、かつ規約に基づいた多国間貿易制度を尊重すると公約することが、前提になっている。すべての加盟国が参加し、消費者の利益が考慮されるという、消費者優先、開発優先のラウンドの道は遠い。WTO加盟国がこれを公約した暁には、消費者インターナショナルは、新ラウンドの交渉開始を支持する。

連絡は:
Jayanti Durai
Senior Coordinator
Consumers International
jdurai@consint.org <www.cosumesinternational.org

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