WTO  
ドーハWTO閣僚会議の向けて その5
2001年9月
 

WTOのひどい話

 11月9日から、カタールのドーハで第4回WTO閣僚会議が開かれる。2年前、シアトルの第3回閣僚会議が流会になったのは、反WTOの巨大デモもさることながら、ジュネーブのWTO本部でもめ、閣僚会議の草案がまとまらないまま、シアトル会議がはじまってしまったことも、その理由の1つであった。
 今回はどうだろうか。
 ジュネーブのWTOは、8月に1ヶ月という長い休暇をとった。その間、EU、日本、米国などが、新ラウンドについて、途上国を個別に説得することになっていたが、失敗した。
 9月26日、WTOの(一般)理事会のStuart Harbinson(香港)議長が閣僚会議の第1次草案を発表した。これについて、途上国から厳しい批判の声が挙がった。1ヶ月後にドーハ閣僚会議がはじまるが、またシアトルの轍を繰り返すのだろうか?
ここでは、WTOの内部を覗いてみよう。

1.WTOの南北格差

 WTO加盟国がそれぞれジュネーブのWTO本部に代表を常駐させている人数は、先進国1国当たり平均7.38人であるのに比べて、途上国は平均3.51人である。途上国でも、インドは6人、モザンビークは1人と格差がある。
 そればかりでない。ジュネーブに代表を置いていない途上国の29カ国にのぼる。これらの国は会議そのものに出席しておらず、したがって意見を表明していない。しかし、これらの国は審議に「合意」していると、見なされている。
 WTO事務局のスタッフは先進国出身が410人、途上国からは94人である。
 WTOでは、毎日、10の定例会議が開かれている。その多くは、時間が重なっている。その結果、小人数の代表団は、定例会議にすら出席できない。
 WTOでは、アフリカ・グループとLDCsを合わせると、約半数を占める。
 アフリカ41カ国は、先進国に対抗するため「アフリカ・グループ」を結成し、ジンバブウエを代表に選んでいる。しかし、アフリカ・グループを代表してジンバブウエが発言しても、それはジンバブウエ1カ国の発言だと見なされる。
 低開発国(LDCs)30カ国もまた、団結し、タンザニアを代表に選んでいる。しかし、タンザニアがLDCsを代表の発言は、多くの場合、バングラディシュ、ジブチ、ギニア、配置、レソト、セネガル、ウガンダ、ザンビアの6カ国の同意を得ているのだが、あくまでタンザニア1国の意見としてしか取り上げられない。
 LDCs委員会の議長はなぜかLDC国ではない。また閣僚会議の草案に中に含まれているLDC草案を書いたのもLDC代表ではないし、また草案が発表されるまで、LDCsに知らされなかった。内容も非常に弱い。

2.WTOの不文律 その(1)「グリーン・ルーム」のまやかし

 WTOは、米、日本、EUなどが投票権を独占しているIMF、世銀とは異なり、加盟国(142カ国)がジュネーブ本部に代表を常駐し、1国1票制にもとづいて、一般、及び個別議題の理事会(複数)で議事が進められる。このように、一見WTOには、国際民主主義が保証されているようだが、これはまやかしである。
 WTOの不文律は、「すべての決議は参加者の協議と合意に基づく」、しかし「その場にいない者、またその場にいても、発言しない者は合意と見なす」である。
 しかし、その「協議」のプロセスは、これまでは「グリーン・ルーム(楽屋)」、最近では「Small Open-Ended Meeting(開放型の小会議)」と呼んでいるようだが、内容は変わらないインフォーマルな会合で行われる。
 「グリーンルーム」とは、モアWTO事務局長が、議題ごとに設定したインフォーマル会議に代表を呼び込んで、決めていく。この会議の常連は、先進国では米国、EU、日本である。
 シアトルで最も非難されたのは、この「グリーン・ルーム」の非民主性、不透明性であった。理事会の議長の選出も不透明である。

3.WTOの不文律 その(2)「Small Open-Ended Meeting」の真実

 この会議には、議事録はない。今年から、この会議に出席しなかった国に対して、事務局がブリーフィングをすることになった。しかし、ブリーフィングがあることを知らされた国だけが聞くことが出来る。
 このブリーフィングの内容も、事務局、議長、あるいはモア事務局長の見解であって、会議の報告ではない。そもそも、議事録がないので、ブリーフィングが会議の内容を反映したものかどうか、チェックすることができない。しかし、シアトル以前は、ブリーフィングすら無かったことを考えると、前進だと言えよう。
 この「グリーン・ルーム」会議は「Open Ended(公開)となっているにもかかわらず、「招待制」になっている。議長や事務局が「必要」と思う国を招待する。しばしば、声の大きい代表が呼ばれる。この会議の開催は決して公開されない。
 多くの場合、いくつもの会議が重なっている。直前に会議を知らされる。前の会議でアナウンスされることもある。途上国の代表の多くは、口コミ、あるいは、廊下で小耳にはさんで知る以外には、会議が開かれていることすら知らない。

ジャマイカの経験:
 今年7月、ジャマイカは、草案の第7付随文書「補助金問題」に提案を出していた。しかし、ジャマイカ提案を審議した「グリーン・ルーム」会議は、ジャマイカ抜きで行われた。

移行国2カ国の経験:
 加盟国が特定の議題で開かれる「グリーン・ルーム」に出席したい時は、事務局に通告すればよいことになっている。そこで、市場移行国の2カ国が事務局に通告した。事務局は、「招待状を送るから」と答えたが、その招待状は決して届かなかった。

2つのミニ閣僚会議での経験:
 これまで、メキシコとシンガポールで、ミニ閣僚会議が開かれた。別名「空飛ぶグリーン・ルーム」である。ここでは、WTOのごく一部の加盟国が出席して、WTOの閣僚会議に向けてさまざまな議題を議論した。しかし、一体、誰がこれらの会議を開催したのか、どうして参加国が選ばれたのか、知るものはいない。

ドミニカとベネズエラの経験:
 シンガポール会議には、ドミニカとベネズエラが招待された。にもかかわらず、ある会合に出ようとすると、拒否された。2カ国は全体会議で抗議した。しかし、マスメディアも決して報道しなかった。
「Open‐Ended Meeting」は「合意醸成」を目的としたWTOの重要な機能だと言われている。しかし、これら非公開会議こそが、加盟国の協議を抜きにした「合意」の実態である。

閣僚会議草案の中の「農業」草案:
これは、10月5日に開かれた極く小人数のメンバーでの非公開会議で作成された。全加盟国がこれを知ったのは、10月8日であった。

「投資」と「競争」草案:
 10月7日に「投資」問題、10月8日に「競争」問題で小人数、非公開会議が開かれた。10月8日、ある途上国代表がたまたま、その「グリーン・ルーム」を発見し、すでに2日目であることを知った。しかもそこで配布されていたペーパーを見て、それは、誰も知らない書類であることを知った。そこに出席していたのは、先進国の中の大国だけだった。
 WTOには、あまりにも多くの種類の会議がある。「グリーン・ルーム」、「小公開会議」、「インフォーマルズ」、「超インフォーマルズ」「2国間」「非公開」など数え切れない。加盟国間にとって、これら会議の規定はないし、不文律である。