WTO  
EUのGATS秘密交渉のリーク資料
2002年4月24日
 

 カナダのNGO「Council of Canadians」のMaude Barlow代表は、WTOのGATS(サービスに関する貿易協定)の交渉の中で、EUがカナダ政府に対して要求した秘密の文書を暴露した。
 一方、EUは、南アフリカ政府に対しても、GATS交渉において、同様の要求をしていたことが、南アフリカのNGOによって暴露された。
 これは、1997年にOECD内で秘密に交渉していた「多国間投資協定(MAI)」草案がNGOによって暴露されて以来の、大スクープである。同時にジュネーブにおけるWTOの自由化をめぐる秘密交渉の規模が想像を絶するものであることを物語っている。
 この秘密文書が暴露されたことによってGATS交渉が、我々の生活のすべてに及ぶものであることが明かになった。

 GATSは、1994年にWTOが設立された時のウルグアイ・ラウンドにおいて締結された。GATSのルールは160項目のサービス部門に亘っている。 
 今日、ジュネーブでのWTOのGATS交渉は、現行の協定文の拡大を図っている。WTO加盟国は相互に相手のGATSへのコミットメントの拡大を要求している。今回リークされたEUの秘密文書は、EU内でも草案の段階であるが、相手国のサービス部門の全面的な自由化を要求している。一方EUは、頑なに同種のサービス部門の自由化を拒んでいる。
 EUが、特に、水道事業の自由化を相手国に求めているのは、フランスにSuez Lyonnaise des EauxとVivendi SAという世界最大の水道会社が存在からである。

1) カナダの秘密文書

 Barlow代表は、「EUはカナダに対して、すべてのサービス部門の自由化を要求している。それは、水、文化、経済主権の権利に対する正面攻撃である」と語った。

(1)水道事業の自由化
 EUは域内の巨大水道会社の利益を代表して、カナダに対して、貯水、浄化、引込管からの配給サービスを含む水道事業のすべてを完全に外国企業に対して自由化することを求めている。
 かってカナダがNAFTAに加盟した時、米企業によって、カナダは環境保護政策を放棄せざるを得なかった。それはWalkertonn事件と呼ばれる。Barlow代表は、「水道事業のパブリック・コントロールの放棄は、Walkertonnの被害を上回るであろう」と語った。


(2)印刷物、出版事業の自由化
 カナダは、音楽の楽譜、オーディオとビデオのレコーディング、本、雑誌、新聞、定期刊行物、その他の印刷物などの外国資本の参入を禁止している。また、通信社、出版業への外国資本の参入も禁止している。カナダはこれらの分野を、GATS協定の例外事項に指定している。EUの秘密文書では、これらカナダの例外事項の廃止を求めている。   
 「Ciouncil of Canadians」のScott Sinclair上級研究員は、「EUはカナダのすべての例外事項の撤廃を求めている。例えば、カナダはこれまで、外国人の土地所有、主要なエネルギー・プロジェクトの現地優先措置、外国人がカナダの銀行所有を10%までに制限するなとといったものまで含まれる。重要なことは、EUの要請がカナダの多くの政策を廃止に追い込むばかりでなく、かなだの連邦、州、自治体政府が将来同じような政策を取ることをも禁止していることである。これは、カナダの民主主義のフレキシビリティを著しく侵害するものだ」と語った。
 EUはカナダの年金基金の民営化を要求している。EUはサスカチュワン、ケベック、ブリティッシュ・コロンビア州での自動車保険業を外国企業に開放することを求めている。プリンス・ルパーとト州では通信公社が、安い、かつどこえでもインターネットにアクセスできるサービスを提供してきたが、EUは、これを廃止し、外国企業が参入できるようにしろと要求している。
 カナダでは全国でアルコールの販売はパブリック・コントロールの下に置かれているが、EUはこれも廃止を要求している。 
 公営のカナダ・ポストは郵便と小包の配達を全土的に行っているが、NAFTA以来、UPS社がカナダ政府を2億2,000万ドルの損害賠償を要求して、告訴している。
 煙草の販売については、EUはカナダばかりでなく、中国やメキシコといった途上国にたいしても自由化を要求している。しかし、自由化は、当然煙草の消費増につながる。煙草による死者の数は、NAFTA以来、カナダでは急増しており、1990〜2020年間に、死者の数は4倍になると推測される。

2) 南アフリカの秘密文書

 EUは、WTOのGATS交渉において、南アフリカに対して要求している秘密文書がNGOにリークされた。
 SOWETO電力危機委員会によると、「これは、国際貿易の原則を交渉するのではなく、経済的テロである」と非難している。『南アフリカに対するEUとその加盟国の要請』と題した文書は、「南アフリカの国家主権に対する戦争だ」と言っている。
 EUは、南アフリカにとって、聖域であり、水道、電力、通信、郵便サービス、建設、エンジニィアリング、銀行、保険、株式取引所などといった鍵となるサービス部門の規制緩和と、外国資本の参入を要求している。
 EUは、南アフリカの水道、ゴミと廃棄物処理、自然と景観の保護サービス、などの自由化を要求している。
 実際、SOWETOではすでに水道の民営化が行われたが、失業した女性の所帯の水道代が、彼女の収入の半分に達したという報告が、SOWETO電力危機委員会に寄せられている。しかも、民営化後の水道水は汚染されている。