WTO  
OXFAMペーパーに対するWalden Bello論文
2002年5月
北沢洋子訳
 

(OXFAMの「Make Trade Fair」キャンペーンは、国際的な議論を呼んでいる。そのすべてを紹介することはできないが、バンコックFocus on Global SouthのWalden Belllo代表の批判論文は、代表的なもであるので、全文を翻訳する)

「OXFAM貿易キャンペーンの何が問題か?」         Walden Bello

 最近、OXFASMインターナショナルは、北の市場への途上国のアクセスを拡大させるキャンペーンを開始した。私はOXFAMを尊敬してきたし、このOXFAMレポートに書かれている多くの点に賛成する。しかし、このレポートは、現在決定的な時期に差しかかっている企業誘導型グローバリゼーションに対する抗議運動にとって、誤った焦点と方向へ導くものであると、私は考える。
 第1に、市場へのアクセスに焦点を合わせるのは、北の市場へのアクセスこそが、世界貿易体制の中心的ニーズであり、中心的課題であると、人びとに誤って思わせる。それは違う。中心的課題は、WTOが、休みなく世界貿易体制に導入しようとしている「自由貿易」というパラダイムなのだ。南の製品の市場へのアクセスが少ないことと、農産物への補助金問題は、南の経済にとって問題になっていることは確かだ。しかし、それ以上に、WTOが推進しているところの、産業、サービス、農業のすべての分野での貿易自由化こそが破壊的である。いわゆる新しい問題、あるいは、投資、競争政策、政府調達、貿易ファシリティなどWTOが、自由化し、コントロールしようとしている問題こそが、ラルフ・ネーダーが言うWTOの自由貿易"ユーバーアレス"(ヒトラーの「ドイツを世界に」)の最先端議題なのだ。これに反対することが国際市民社会の最大の課題であるべきだ。
 第2に、Food FirstがOXFAMレポートについて述べたように、市場アクセスに中心を置くことは、輸出志向型成長というパラダイムを推進することになる。農産物の輸出を北の市場にアクセスすることによって利益を受けるのは、農産物の輸出を独占している資本である。米やとうもろこしといった主食の農産物でさえ、恩恵をうけるのは小農ではなく、大きな中間業者である。北の市場に対する南の農産物のアクセスに中心を置くことは、その代償として、途上国の市場開放の圧力を高めることにつながる。したがって、この戦略は、南の大地主や大資本による輸出向け農産物生産から、小農による地域市場向けの生産に代え、また北からの補助金付けの農産物のダンピングと言う不公正な競争から、関税と数量制限制度でもって守ろうとしている農民運動に打撃を与えることになる。
 公平に言うと、OXFAMは、そのレポートの中で、小農による農業制度の将来に憂慮していると述べている。私は、OXFAMが心からそう思って欲しいと思う。しかし、北の市場へのアクセス拡大のキャンペーンに力点を置くことは、その憂慮とは反対のことである。
 世界貿易体制の改革するために、市場アクセスを中心課題に据えるということは、いかなる途上国も、また途上国グループも推進していない。私の知る限り、それは、Cairnsグループ(穀物輸出国)であり、そのなかでもトリオ、すなわち、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチンの3カ国である。実際、フィリピンとインドネシアの高官はCairnsグループから脱退しようと言っている。なぜなら、Cairnsグループは、市場アクセスの虜になっており、本来の課題がハイジャックされてしまったからだと言う。市民社会の一員であるOXFAMが、Cairnsグループの立場を政策提案するなど考えられない。
 『ワシントン・ポスト』紙は、OXFAMの市場アクセス重視政策は、OXFAMが自由市場陣営に加わったことを示すものだと書いた。そうは思わない。しかし、一方では、OXFAMが、悪魔払いとして、市場アクセスに重点を置くならば、『ワシントン・ポスト』紙の誤解は、全く理解できることだ。
 我々の課題は包括的である。それは、非代表的、非民主的、不透明な、そして貿易超大国に支配されている機関(WTO)が押し付けているネオーリベラルな貿易秩序である。「実施問題」を主張し、決定プロセスを暴露し、食糧主権を支持し、WTOの管轄権を『新しい問題』に拡大することを阻止しようとしている途上国政府の努力と市民社会の運動を支援することこそが、国際市民社会のキャンペーンの中身であり、方向である。この功績により、南北の「我々の世界は売り物ではない」キャンペーンは、この立場を取っている。私はOXFAMが同じ道を歩くことを薦める。
 同じく、残念なことに、OXFAMのレポートでは、企業誘導型グローバリゼーションに反対する運動の大部分を「Globophobes(グローバリゼーション恐怖症)」と決め付けている。このようなネーミングは良くない。事実、このいわゆるGlobophobesこそが、国際金融貿易機関を揺さぶり、OXFAMのような組織の見解を聞くようにさせたのだ。もし、OXFAMが、企業誘導型グローバリゼーションに反対する他組織を戯画化するのをではなく、上記の事実を認めたら、すばらしい。
 私は、この問題でOXFAMと意見を異にするのを公にするのは残念だ。とくに、私は、OXFAMの人道的活動、開発事業を大いに尊敬してきたゆえにである。しかし、パートナーと同盟者の間の議論と対話を通じてこそ、確実に前進することが出来る。