WTO  
WTOドーハ1年後(その1)
2003年1月10日
 

1) 東京ミニ閣僚会議の開催

 2003年2月15〜6日の2日間、WTOは東京でミニ閣僚会議を開く。開催国の日本が、米、EU、カナダ、オーストラリアなど、定番の先進国をはじめ、中国、ブラジル、インド、南アフリカなどの一部の途上国、合わせて25〜6カ国の貿易大臣を招待して、WTOの懸案事項を議論する排他的な集まりである。日本からは、川口外相、大島農水相、平沼経産相の3人の出席が予定されている。
 東京ミニ会議の最重要議題は、「農業協定(AoA)」である。これは、ジュネーブで昨年11月18〜22日に開かれた交渉が失敗に終わった。AoA交渉のデッドラインが今年3月31日になっていることから、どうしても合意を取り付けなければならないという事情がある。

2)ミニ閣僚会議についてのNGOの立場

 NGOは、ミニ閣僚会議を、悪名高いWTOの「グリーン・ルーム方式」の海外版であるとして、非難している。その理由は、

(1) 招待される国の基準が明確ではない。
(2) 会議には議事録がなく、NGO、プレスもシャットアウト、招待されなかったWTO
加盟国に内容は知らされない。
(3) WTO一般理事会(総会)の外で議題が決められる。
(4) にもかかわらず、25〜6カ国の決定が145カ国のWTO全体の合意とされ、全WTO加盟国に影響を及ぼす。

 以上の理由から、NGOはミニ閣僚会議を、非合法であり非公式である、としている。
  (2002年11月14〜16日、シドニーのミニ閣僚会議におけるNGO声明より)
 2002年5月、ジュネーブで、途上国15カ国が、WTOの公正な政策決定過程に関する透明性問題について勧告を行ったが、今日に至るまで、回答はない。

3)シドニーのミニ閣僚会議

 2002年11月14〜16日の3日間、オーストラリアのシドニーで、ミニ閣僚会議が開かれた。
 ここには、オーストラリア政府の招待で、
米国、カナダ、EU、日本、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、エジプト、ケニア、レソト、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、中国、香港、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、シンガポール、タイ、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、トリニダッドトバコ、の26カ国とスパチャイWTO事務局長が参加した。

 シドニー会議の先立って、11月5〜6日の2日間、フランスのAnnecyで、ミニ閣僚会議が開かれた。ここには、米国、カナダ、EU、スイス、ニュージーランド、オーストラリア、ハンガリー、エジプト、ケニア、レソト、南アフリカ、ザンビア、チリ、メキシコ、ブラジル、ウルグアイ、中国、香港、インド、シンガポール、マレーシア、タイ、ジャマイカの25カ国とスパチャイWTO事務局長が参加した。
 これらミニ閣僚会議には議事録がない。シドニー会議で議長を務めたオーストラリアのMark Vaile貿易相と米国の通商代表Robert Soellickは会議後の記者会見において、ミニ閣僚会議は、「デッドロックに陥ったジュネーブでの交渉は、ここでは柔軟性を持って議論できたため、"ドーハ開発ラウンド"の進展に大きく貢献した」と自賛した。ということはジュネーブのWTO交渉が、納税者の巨額の税金が使われているにもかかわらず、無益であることを物語っている。 
 2002年9月、メキシコのリゾート地カンクンで開かれる第5回閣僚会議では、WTO全加盟国145カ国の閣僚が参加し、NGOが環境や社会的影響についてロビイすることが出来、ある程度の透明性は確保できる。しかし、これと違い、ジュネーブでは25〜6カ国の代表によるグルーンルーム方式による交渉が進められる。この非透明性をさらに加速したのがミニ閣僚会議である。
 これまで、シドニーに出席した代表から伝えられた情報をまとめると、以下のような議論が行われた。
 議題は、(1)TRIPSと健康(議長はレソト)、(2)特惠(S&D)待遇と貿易に関連した技術援助(TRTA)(韓国)、(3)市場アクセス(サービス、非農業/こう行製品)(シンガポール)、(4)その他の問題(シンガポール項目と環境)(南アフリカ)、(5)カンクンへの道(メキシコ)の5項目であった。
 シドニーでは、多くの時間が市場アクセスの中の農業に費やされた。ついで、TRIPsの議論があり、わずかな時間がS&DやTRTAの議論に廻された。シンガポール項目については45分、カンクンへの道には15分で終わった。

(1)農業の「市場アクセス」についての議論
 こらは"喧嘩"会議と渾名がつくほど、ホットな議論があった。日本、EU、スイスはブロックとなって、「独自の農業政策を持つ権利」を主張した。「農業補助金を減らすのではなく廃止を求める提案はドーハの権限を逸脱している」と言った。ラテンアメリカ、米国、オーストラリア、ニュージランドは、これに対抗して、関税と補助金の撤廃は必要であると主張した。アフリカなど他の途上国は、彼らが、先進国の工業製品の市場アクセスを保証することと、先進国が農業補助金を減らすこととバーターであると述べた。
 EUの通商代表Pascal Lamyは、工業製品の自由化と農業補助金の削減問題の関係を、最も明確に語った。「工業製品の市場自由化は、途上国にとって有利である。(1)なぜならば、工業製品の輸出は途上国の全輸出の70%に上っている。(2)EUの農業補助金問題は、相手側の工業製品市場開放の動向にかかっている。(3)EUの工業製品の市場開放は途上国にとって有利である。」と語った。一方ではLamyは、「農業の権益については、前提条件は何もない。EUはドーハのデッドラインを完全に守る」という矛盾した発言を行った。
 シドニーでEUは「12月はじめに農業についての提案を提出する」と声明した。ということは、ハービンソンAoA議長が「概論ペーパー」を作成するために、11月18〜22日、ジュネーブで「農業協定(AoA)」の最終交渉が予定されていた。EUは、途上国が議論できないように、ハービンソンのペーパーに、直接、EU提案を挿入する積もりであった。また、Lamyは、WTOの農業についてのいかなる決議も2013年まで実施されない、と漏らした。これにはEUの内部事情による。EU内の1国が2005年のドーハ・ラウンドに署名し、2006年に批准しても、EUが補助金の削減を決めるのは2013年だからである。
 また、Lamyは、WTOの争点の1つである「地理的指標(GI)」を持ち出した。これまで、GIはワインなど酒類に限定されていた。しかし、Lamyはフランスのロックフォール・チーズ(山羊チーズ)と南アジアのBasmati米など特定地域の銘柄が市場を独占する権限を持つことを主張した。しかし、これら製品の銘柄を持たない米国とラテンアメリカは、GIの拡大に反対した。Lamyは、EUにとっては、GIはAoA交渉に重要な議題であると主張した。
 ブラジル、中国、インド、エジプトは「農業は基本問題である」と言った。日本は、農業問題は「貿易外の関心事」つまり、「農業の多面的機能」を強調し、農産物の輸入国はこれ以上の貿易自由化から免除されるべきであると主張した。
  オーストラリアの議長は、ここで、議論を打ち切り、すべての発言者は2002年末までにそれぞれの提案を提出すべきであると締めくくった。

(2)新しい項目(シンガポール項目)と環境問題
 ここ問題はほとんど議論されなかった「カンクンへの道」に最も関連した議題であった。
 途上国は一様に、「ドーハ開発アラウンド」は、あまりにも広範な領域にわたっているので、ふんずまりを起こさないようにするためには、優先順位を決めるべきだと主張した。そのためには、議題をいくつかのグループに分け、議論を終了させ、次ぎに進むという方法を取るべきだということになった。
 ナイジェリア、タイ、ケニア、インド、マレーシア、それにシンガポールでさえ、「すべての項目について、2005年1月までに合意に達することは非現実的であると同時に仕事の量からして、不可能である」と言った。ケニア、インド、マレーシアは「シンガポール項目はドーハ開発ラウンドに入っていない」と言明した。
 これに対して、EUのLamyは、ドーハで投資、競争、政府調達、貿易促進というシンガポール4項目についてドーハでは交渉することに合意したかどうかという「ドーハ議長テキスト」を持ち出した。これはインドのArun Shouei投資保護大臣が「カンクンではシンガポール項目は明確な合意に至らないだろう」と語ったことにたいする反論であった。
 Lamyは非常に怒って、「シンガポール4項目は、ドーハ開発ラウンドの一部であり、ドーハでは交渉議題となっていた。したがって、カンクンでは単なる議論の方法を決めれば良い」と主張した。Shoueiは、ドーハで最も4項目に抵抗し、現在重病であるMarasoli Moran貿易相の代役であった。
 議長の南アフリカは、ここで介入し、1項目ごとに議論することを提案した。
 米国は、ミニ閣僚会議の閣僚たちは、ジュネーブの大使に対してより明確な指針を与えるべきだと言った。例えば、「貿易促進」はすべての国にとって良い項目であり、「政府調達」は透明性の問題である、と言った。米国にとって投資と競争はあまり重要ではないが、国内資本と外国資本との平等な取り扱いは重要である、と言った。また、投資協定の範囲は広く、単に外国投資に限定されないと言った。
 日本と韓国は、「反ダンピング」はシンガポール項目の中の重要な議題であると述べた。また各国は、中小企業を保護するために外国投資を規制する必要を強調した。シンガポールは、4項目がドーハ開発ラウンドの一部であることを認めた上で、市場アクセス問題は優先されるべきだと言った。
 ここで、スパチャイが介入し、シンガポール項目はWTOの貿易交渉委員会の議題ではなく、「シドニーでは、カンクンまでの期間の交渉項目に限定するべき」と述べた。

(3)特惠(S&D)待遇とTRTA
 途上国の多くは、2002年末までに、S&Dについての結論を出すべきだと主張した。だがどの項目を実施すべきであるかは特定しなかった。これには、87項目ある。米国は、そのうち2〜3の項目について合意が可能だと述べた。

(5) TRIPs
 先進国寄りの議長のレソトは、シドニー会議後の記者会見で、「多くの点で合意を見た」と報告した。そして、シドニー直後に新しい「議長ペーパー」が発表になった。しかし、ジュネーブでは、シドニーに参加しなかった100カ国以上の途上国が、この「議長ペーパー」を爆撃した。

(6) カンクンへの道
 メキシコのLouis Derbez議長が、「ミニ会議は多くの付加価値を得、カンクンの議論を助けた」と述べることで終わった。