WTO  
カンクン以後のジュネーブWTO その6
2004年5月13日


「WTOがロンドンとパリで連続ミニ閣僚会議を開催」

1. ロンドンのミニ・ミニ閣僚会議

2004年4月30日と5月1日の2日間、ロンドンで、WTOはミニ・ミニ閣僚会議(通常のミニ閣僚会議は20カ国ぐらいの規模)を開いた。出席したのは、米国のゼーリック通商代表、EUのラミー通商代表、それにブラジル、ケニア、南アフリカであった。

これは、ドーハ・ラウンドを開始するために必要な交渉の枠組みを、7月末までに決めるというデッドラインが危なくなったためで、それを何とか打破しようと、米国とEUのイニシアティブで開催したものであった。出席したブラジルのAmorim外相によると、「まだ多くの政治的、技術的な問題が未解決であって、理論的には、7月のデッドラインは可能だが、容易ではない」ということであった。

この会議の議論の多くは「農業」に充てられた。最も議論の激しかったのは「農産物の市場アクセス」であった。WTOの加盟国は農産物の関税の引き下げ率に最も関心がある。Amorim外相は、6月末には農業についての合意の可能性はあると予測している。シンガポール項目についてはEU・日本と途上国が対立している。

2. パリのミニ閣僚会議

2004年5月12〜14日、WTOはパリで開かれるOECDの閣僚会議に平行して、約30カ国のミニ閣僚会議を開く。この会議のホストは、米国のゼーリック通商代表である。彼は、2004年7月末に設定されているドーハ・ラウンド開始のための枠組みに合意するというデッドラインを何が何でも達成するために、今年はじめから激しく動き回っている。

これに先立って、5月10日、EUのラミー通商代表とフィシュラー農業委員会EU代表が農産物の輸出補助金を廃止することについて交渉する用意があることを発表した。

3. NGOがEUの輸出補助金廃止の声明を非難

5月10日、EUのラミー通商代表とFranz Fischler農業委員会のEU代表が共同で「EUが農産物の輸出補助金の廃止について交渉の用意がある」と発表したことに対して、NGOのCIDSEやCaritasなどが、5月13日、これはPR以外新しいものは何もない、と批判する書簡を2代表に送った。

輸出補助金の廃止については、すでにカンクンで、ラミーが「途上国に関心のある品目について廃止」することを提案している。しかし、途上国は品目のリストアップについては拒否している。しかもこの輸出補助金の廃止は、途上国側に「市場アクセスの解放、国内補助金を廃止する」ことを前提条件としている。途上国にとって死活的な「砂糖、乳製品、食肉」をEUが無条件に、期限付きで廃止することである。つまりヨーロッパの農業が輸出志向型からシフトするように改革することである。

以下はNGOの分析である。

EUの農業補助金総額は450億ユーロである。その中の8%が農産物の輸出補助金である。これまですでに輸出補助金はかなり削減されており、それは他の形態の補助金に代わっている。ジュネーブでは、最近ますます、開発に妨げになるその他の補助金(グリーン・ボックス)に議論がシフトしてきている。しかし、2人のEU代表は故意にこの事実に目をつぶっている。途上国はこのグリーンボックスの廃止を要求しているのだが、EUはこれを規制すべきでないと主張している。

4. WTOはどこへ行く

4月29日、ジュネーブでWTOは大島新議長の下で一般理事会を開いた。しかし、これはインフォーマルな性格にとどまった。

ここで明らかになったことは、WTOは7月末までにドーハ・ラウンドの枠組みに合意がなされても、2004年は「失われた年」に終わるだろうということであった。なぜなら、インドの選挙、米国の大統領選挙、EUのラミー通商代表の退任などがあり、交渉がスローダウンするだろう。

2005年も、スパチャイ事務局長の任期切れに伴い、後継者選びに取っ組み合い続けるだろう。そして依然として、カンクン以来の懸案である農業の枠組み、シンガポール項目、非農業製品の市場アクセス、綿花の4項目をめぐって対立を続けるだろう。

シンガポール項目についたは、「貿易の円滑化」だけを交渉項目にするならば、合意のチャンスは高いと見られているが、輸出入をコンピュータ化するコストをめぐって、途上国の中には保留がある。インド、中国、マレーシア、インドネシアなどは貿易の円滑化以外の項目が削除されることに積極的だが、EU、日本、スイスが依然として、これら3項目を研究項目として、作業プログラムに残すことを要求している。