WTO  
カンクン以後のジュネーブWTO その3
2004年5月13日


1.2004年1月末、スイスのダボスで「ミニ閣僚会議」を開催

WTOの先進国代表とスパチャイ事務局長は、カンクン以後、ジュネーブでの交渉が全く進展しなかったため、さまざまな試みをした結果、ついに、1月末にスイスのダボスで開かれる「世界経済フォーラム(WEF)」にスイス大統領の招待という形をとって、20カ国からなる「ミニ閣僚会議」を開くことになった。

1月11日、ゼーリック米通商代表が、WTO加盟国の各貿易大臣に書簡を送り、一般理事会の次期議長や他の委員会の議長の選出などを提案していた。スイスのミニ閣僚会議では、これにもとづいて、議論されたに違いない。

たとえば、2004年の一般理事会の議長はアジアの番だというので、日本の呼び声が高かったが、ゼーリック書簡では、伝統を破って、「開発問題が最大のテーマである」ので、途上国から選出することを提案した。さらにブラジル、チリ、パキスタン、南アフリカといったG20の国、そしてシンガポールの国名を挙げた。スイス会議では、G20はこれに反対した。それはもし議長を引き受けると、これからのG20としての交渉が困難になるというものだった。途上国にとって、2005年の一般理事会の議長を握るほうが有利であると判断した。また、2005年9月にはスパチャイの事務局長の任期が切れるので、その後継者の選出作業が2005年1月にははじまるという背景もある。またEUやスイスもゼーリック代表の意見には反対であった。

スイスのミニ閣僚会議に非公式に出された問題の1つに、もし、一般理事会が2004年2月末までに決定しないと、2004年末に予定されている2年毎の第6回閣僚会議を香港で開くことが出来なくなる、という情報であった。香港では民間の会議場を事前に予約しなければならないからである。
さらに、同じジュネーブに本部のある国連貿易開発会議(UNCTAD)が今年6月13〜18日、ブラジルのサンパウロで第11回UNCTADを開催する準備をしており、それにWTOの途上国代表は代表を兼ねていて、手が一杯という状況にある。

ここに香港に対抗して、オーマンが立候補している。

米国とEUは「農業」について、戦術を変えたようだ。目的は、G20を分裂させることについては変わらない。しかし、カンクン以後、米国とEUはカンクンを失敗させたのは途上国であり、G20や、G90=3極同盟(アフリカ連合AU=ボツアナが代表、後発途上国LDCs=バングラデシュが代表、アフリカ・カリブ海・太平洋諸国協定APC=モーリシャスが代表、が合体したもの)だと言ってきた。そしてG20に対して分裂させようとして、大きな圧力をかけてきた。米国はグアテマラ、エルサルバドル、ペル、コロンビアなどをG20から脱退させることに成功したが、グループの分裂はなく、以前より団結は強まった。

米国とEUの新しい戦術は、彼らの間の相違を声高に宣伝することだった。ゼーリック米代表が書いた1月の書簡では、2004年を「失われた年」にしたくないので、市場アクセス問題に焦点を絞ると書いた。これが事態を前進させる、とした。そしてソフトな口調で途上国の憂慮を思いやり、すべての輸出補助金を早期に廃止することを呼びかけることによって、EUとの違いを強調した。EUはこれに全面的に反対している。
しかしながら、ゼーリックがEUのラミイ通商代表と事前に書簡の内容について打ち合わせしていたことは間違いない。

一方EUは2月の一般理事会直後にG20と会合を持つ予定である。

2005年1月には、貿易交渉を開始するというデッドラインが守れると信じているものはいない。

2.2月ジュネーブでWTO一般理事会開催

2月11日、ジュネーブで開かれた一般理事会では、2004年のWTO交渉の議長が決定した。一般理事会の議長は日本の大島正太郎大使が選出され、ウルグアイの前任のペレス大使と交代した。
紛争解決パネルの議長はケニアのAmina Mohamed大使、農業委員会議長はニュージーランドのTim Gros大使が選出された。

シンガポール項目に関しては、合意に達せず、議長選出プロセス自体がなかった。ということは、この問題の作業部会が開かれる見通しはなくなった。シンガポール項目は、抹殺されたわけではないが、途上国にとっては、これは勝利であった。

この問題については、カンクンの最後の段階で、EUが投資、競争、政府調達の透明化の3項目を交渉から外すと言い出して、途上国の間に大混乱を生じさせた。メキシコの議長は、投資と競争を凍結させるという提案をした。これを、アフリカ連合が拒否したのであった。そして、2003年12月、G90は「シンガポール項目のすべてを交渉の項目から外すべきだ」という共同声明をだした。

しかし、シンガポール項目の1つの「貿易の円滑化」については、Goods Coundilの特別別議題としてXerxa副事務局長が引き続きインフォーマルな交渉を続けることになった。

ゼーリック米代表は、2月20日、記者会見を行って、「投資、競争、政府調達の透明化問題は、アフリカや他の途上国がドーハ・ラウンドの枠組みに合意するよう、“Off the Table”とすることを発表した。また彼はケニヤのMukhisa Kituyi貿易相が、貿易の円滑化について、アフリカ諸国の合意を取るべく動いていることを示唆した。

一方、ラミーEU代表は2月26日の記者会見で、政府調達の透明化と貿易の円滑化はドーハ・ラウンドの一部であるという意見が広い支持を得ていると述べた。そして投資と競争についてはドードーハ・ラウンドの枠外で関心のある国が交渉をすればよいと語った。かれはまたゼーリックが政府調達の透明化をドーハ・ラウンドの議題から取り外したことを批判した。

また、次のWTO閣僚会議を年内に開くかどうかについての長いやり取りがあった。年内開催に熱心なのは米国、EU、カナダ、モロッコ、シンガポール、タイなどで、反対はキューバ、中国、ジャマイカなどで、交渉がまだ始まっていないのに、年内の開催は時期早々であるとした。

いずれにせよ、2月の一般理事会では、年内開催を決議することができなかった。そのため、香港での第6回閣僚会議が2004年中にひらかれる可能性はなくなった。