WTO  
カンクン以後のジュネーブWTO
2003年11月11日


カンクン以後のジュネーブWTO本部の交渉

すでに、1ヵ月以上経ったが、ジュネーブ本部では何がおこっているのか。
本国から交渉担当者がすでに到着している「貿易に関するサービス」以外の項目について、ほとんどすべての交渉はキャンセル状態にある。

 10月14日に、代表団長(HoD)の非公式会議が開かれ、されに10月21日には、一般理事会(ジュネーブでの総会にあたる)が開かれたが、ほとんど見るべき発言はなかった。一般理事会にいたっては、2日間の予定であったところ、たったの1時間で終わってしまった。

 デルカスティヨ一般理事会議長とスパチャイ事務局長はWTO交渉を再開すべく努力している。2人は、「農業」「工業製品の市場アクセス(NAMA)」「綿花(カンクンでアフリカ4カ国が提案)」「シンガポール項目(投資)」の4項目について交渉の糸口をさぐっている。ただし、この場合は、2004年に交渉を再開するために、さまざまなグループ間の一致点をさぐることにある。そして、この打診のやり方はカンクン以前のジュネーブの方式をそのまま踏襲している。それは、非公式であり、議事録もなく、小グループ、あるいは国対国の打診である。これは、どこで、誰が、誰と、何を話し合っているのか、まったくわからない。これは、すでにカンクン以前に、不明朗な方式であるとして、非難されてきたものである。それでも、デルカスティヨ議長は、時々、非公式の議事録なしのHoD会議を開き、話し合いの現状について報告をしてはいる。

 カンクン直後、市民社会は、決裂の責任は米国とEUにあると非難した。一方、米国とEUは、途上国にあると非難した。
現在では、米国とEUは、交渉再開の責任は途上国にあるとする戦略をとっているが、途上国側は、ドーハ・ラウンドの下での交渉を続ける用意があると言っている。米国も再開に同意しており、のこる障害はEUのみである。

 EUは「交渉を再開する用意はない」と声明している。現在、EU内で貿易政策、とくにWTO政策についてのレビューが行われている、というのがEU側の弁明である。途上国側は、これは、途上国側がEUにいくらかの点について譲歩することを迫っているのだと解釈している。このEUの態度は問題である。なぜなら、カンクンでは、EUが頑固にシンガポールの4項目を一括して審議することを主張して譲らなかった。一方、途上国にとって死活問題であった農業項目について審議が遅れたのであった。これがカンクンでの交渉決裂の原因であった。
 カンクン以後のジュネーブでは、EUの多くのメンバーが4項目の内2項目(投資と政府調達)を外してよいといい始めているにもかかわらず、公式にはEUは4項目一括説を引っ込めていない。

 交渉再開についての米国の立場については、12月15日の一般理事会に待たねばならないだろう。現在、ジュネーブ駐在のアレン・ジョンソン農業問題交渉代表は、最近の朝食会のブリーフィングで、「米国はドーハ・ラウンドの再開を支持する」と述べた。
 米国にとっては、農業問題が最も重要な項目である。デルカスティヨ議長は、彼が提案した9月13日の草案を今後の交渉のベースにすることを打診している。しかし、これは8月13日の米国とEUの共同提案をなぞったものであり、またカンクンでは審議されなかったものである。一方、途上国の20カ国が、この8月13日提案に反対するものとして出した20カ国提案がある。途上国側が議長の提案を呑めるはずはない。

 米国には、2004年11月の大統領選挙という国内事情がある。多くの農産物を生産している州には、ブッシュ大統領の共和党支持基盤があり、価格の変動は選挙に大きく作用する。たとえば、大豆生産はミズリー、アイオワ、アーカンサス州であり、牛肉はカンサス、両ダコタ、そして南部である。オレンジはカルフォルニア州といったように。そして、ジュネーブで米国の通商代表が言ったこと、カンクンでどのような決議がされるか、は選挙に直接響く。まして、農業補助金の削減に言及することなど到底出来ないだろう。
つまり、途上国側は、農業については、2004年の大統領選挙後まで待たねばならない。その間、米国は農産物のダンピングを続けるだろうし、一次産品の値下がりは続くだろう。

 一方、2004年6月13〜18日、ブラジルで第11回国連貿易開発会議(UNCTAD)が開かれる。ここは、農産物のダンピングや一次産品の値下がり問題を議論する良い機会である。

(2003年10月29日、Alexandra Strickner(IATP)の記事より)