WTO  
ローマFAO食糧安全保障会議
2008年8月2日


 さる6月3〜5日、食糧農業機構(FAO)の本部が置かれているローマで、食糧の安全保障にかんするハイレベルの国連会議が開かれた。国連用語で「ハイレベル」とは首脳会議(サミット)に準ずる重要な会議でしばしば首脳クラスが参加する。
 当初、FAOは、会議のテーマを気候変動とバイオ燃料生産の脅威を対する食糧の安全保障と考えていた。ところが準備の過程で食糧危機(価格の高騰と生産国の輸出制限)が勃発した。
 こうしてFAO会議は首脳たちが食糧危機を解決するための緊急集会と化した。フランス、スペイン、イタリア、ブラジル、アルゼンチン、チリ、エジプトなどの大統領や首相が会議に出席した。
 ローマ会議は、(1)食糧危機と生産モデル、(2)土地、水、エネルギー、バイオ燃料、
(3)気候変動、という3つのテーマで作業部会で議論された。
 一方、市民社会側は、Terre Pretaフォーラムという名の対抗会議を開いた、 Terra Pretaとは「黒い土」つまりアマゾン河中央部に住む先住民がつくる肥沃な土のことで、半永久的に再生する土である。
 市民社会のフォーラムには、農民、牧畜民、漁民、環境保護運動、人権運動、NGOなどが集まった。そして、地域のコミュニティの活動の報告、不正に対する闘争、そして、グローバルな食糧、エネルギー、気候の危機をコミュニティに根ざした、持続可能な解決のイニシアティブを提起した。
 
Jacques Diouf FAO事務局長のスピーチから
 
 2006年の統計によれば、先進国では、農産物の補助金として年間110〜120億ドルが支出され、人間が消費するべき1億トンの穀物が車の燃料に代えられ、先進国政府は農産物の輸出に年間3,720億ドルを支出し、先進国の1国だけで1,000億ドルの食べ物を廃棄し、先進国全体で200億ドルの食べ物を過剰消費している。一方では、武器の購入は1兆2,000億ドルに上っている。
 しかし、先進国は、メディアが途上国の人びとの飢えを報道しなければ反応しないという現状は残念である。
 食糧の安全保障問題の構造的な解決は、低所得の食糧輸入国での食糧生産と生産性を高めることである。FAOの協力をもって、途上国政府は、十分な資金さえあれば、食糧の安全保障を確立する政策、戦略、プログラムを策定できると信じる。年間3、000億ドルが供与されれば、8億6,200億人を飢えから解放することが出来る。
 
 国連食糧安全保障会議は、宣言と勧告を採択した。宣言文は、直ちに途上国の食糧危機に対処する行動をとること、小規模な生産者を支援することなどが謳われた。中長期のプログラムとしては、政府が人びと中心の農業政策の枠組みを策定すること、気候変動に対応した食糧体制を確立すること、バイオ燃料の生産と使用を持続可能なもの、そして食糧安全保障を考慮にいれること、などを盛り込んだ。これは、たやす獲得できるものではない。この宣言文の実施こそが問題である。
 行動勧告は、「食糧危機についての国連タスクフォース」の設置を決議している。これは小規模食糧生産者の支援、社会的安全網の増加、リスク対策の強化を目標としている。しかし、市民社会、とくに農民、漁民、牧畜民など食糧生産の担い手がタスクフォールに参加する道は閉ざされている。 
 ローマでは立派な宣言文や勧告が採択された。しかし、その実施を推進する国際的なメカニズムが強化されねばならない。それはFAO、IFAD、IAASTDなど国連機関を強化である。
 IMFや世銀、WTOなどは今日の食糧危機を招いた張本人である。しかし、ローマでは、その責任が問われるどころか、世銀などは、食糧危機の解決の資金をチャネルする役目を与えられてしまった。
 宣言文にはWTOのドーハ・ラウンドの急速な解決を謳っている。これは、食糧の安全保障とは相容れないものがある。
 
 Terra Pretaフォーラムでは国連の宣言文に対して強い批判が出た。「会議は種、肥料、化学会社などの企業の利益を擁護した」「コーヒ・アナンのAGRA財団が提唱した「アフリカの新緑の革命」を推進するものである。

 対抗会議では
(1)企業や機関、政府などが農業生産での種、肥料、農業機械などの投入物資や生産品の買い上げなどから得た巨額の利益を調査し、刑事裁判所にかけ、正義を行うこと。
 (2)国連の下に、食糧主権委員会を設置すること。
(3)改革のために我々自身のコレクティブな知識、分析、能力を高める。そしてFAO サミットの決議をモニターしていく。