世界の底流  

米・イラン核開発協議

2015年3月20日
北沢洋子

1.米・イランの核開発交渉のデッドライン

 3月15日、苛の核開発についての米・イランの協議が再開した。これは、今年1月以来、ケリー米国務長官とイランのザリフ外相との間で、非公式に行われてきた8回にわたる会談やEメールのやり取りなど粘り強い交渉の成果であった。場所はスイスのジュネーブ、2人はローヌ川のほとりを散歩しながら話し合った。
 2人の過度の密接さについては、イラン議会のタカ派が非難する声明を出したほどだった。国際法の博士号を持つザリフ外相は、イスラエルのナタニヤフ首相の訪米に合わせて交渉を再開することを目指していた。ケリー長官の肩の入れ方と時間の投じ方は、イラン以上であった。

2.NPTの下での最も重要な国際協定

  多分、イランと米英仏独中ロ6カ国間の核開発協定は、21世紀に入って、国連の核不拡散条約(NPT)の下での最も重要な国際協定になるだろう。なぜなら、核兵器を保有するインド・パキスタン、それにイスラエルはNPT未加入であり、北朝鮮はNPTを脱退している。またオバマ大統領は、「核兵器のない世界」をプラハで訴えて、ノーベル平和賞を受賞したが、それ以後、何の進展もないからである。
 そして、3月15日、ローザンヌで米・イランの2外相は正式な会談を再開した。これは、3月末までに「枠組み合意」と呼ばれる協定書にイランと6カ国間で合意することを目指している。双方ともに、「3月末」というデッドラインには、延長はない、と背水の陣を引いている。
 これまで、イランと6カ国との間には、2013年11月に、ウランの濃縮活動の一時的な制限などを盛り込んだ「第一段階の合意」を結んでいる。今回は、イランの核開発制限と引き換えにイランに対する制裁を解除する「最終合意」を今年6月末までに締結することになっている。
 実は、4月27日〜5月7日、ニューヨークの国連本部で、1995年以来5年ごとのNPT再検討会議が開かれる。しかし、その前に、イランの核交渉が決裂すれば、NPTにも大きな打撃を与える。NPTの存在そのものが問われるからだ。
 NPTは、国連安保理常任理事国の米英仏ロ中五カ国を「核兵器保有国」と認めて核軍縮を義務付けている。その他の国は、核兵器の保有を禁じているが、その平和利用を認めている。

3.何が議論されているのか

  イランはNPTに加盟している。つまり、イランとの交渉では、イラン国内で生産されている濃縮ウランの濃度と原爆製造やミサイルの技術が問題になってくる。
 @、国際原子力機関(IAEA)の今年2月の報告書によると、これまでに、イランは、原爆7発分に相当する高濃縮ウランを保有している。例えば、これを出力100万キロワットのブシェール原発で使用すれば、年間使用量の3分の1程度に過ぎない。またイラの最高指導者ハメネイ師は「核兵器はイスラムの禁忌である」と言った。したがって、現在イランが保有している濃縮ウランについては、今のところ、まず問題ない。
 A、問題はイランが遠心分離型のウラン濃縮器を9000器保有している点である。ここでは、2ヵ月で原爆1発分の高濃縮ウランを製造できる。米国は、原爆用製造が最低1年かかるようになるまで遠心分離器の数を減らして行こうとしている。そうすれば、たとえイランに政変が起こり、タカ派が政権をとり、協定違反をしても、1年間あれば十分制裁や軍事介入で対抗することが出来るという目論見である。
 B、交渉の難問である「査察」について、3月15日、イランはIAEAの抜き打ち査察を受け入れると米国に通告した。これは、米・イラン間の最大の争点だったので、交渉は進展するはずだった。だが、イランがこの見返りに、石油の禁輸と銀行の国際取引禁止などの制裁の解除を求めてきた。制裁の解除については、米国は数年かけるつもりであったので、受け入れられないと言っている。
 C、NPTの下での、イランと6カ国間の交渉を困難にしているのは、原爆と原発の間の線引きが曖昧な点にある。これを議論するためには、原爆用の濃縮ウラン問題にとどまらない。
 原爆には、それを爆弾として使えるミサイル諸技術が必要である。これらについてチェッキ・リスト約12項目ある。その中では、核弾道の発火装置について交渉しているだけで、あとの核実験装置、濃縮ウランを入れる特殊な金属、コンピューターのプログラミングなど技術的な問題が山積みしている。これらについては、イランはすでに保有していると疑われている。しかし、今まで議題にも上っていない。

4.イラン核協定行方

  ケリー国務長官は、イラン外相との話し合いにとどまらず、ヨーロッパの同盟国との会合に忙しい。問題はヨーロッパの英、仏、独だけがEUメンバーでないことだ。ブリュセルではことが済まない。そこで、彼は、ロンドン、パリ、ベルリンとヨーロッパの都市をシャトルしなければならない。これらの国の外相たちは、それぞれ勝手なことを言う。ケリー氏にとってみれば、大変エネルギーのいることだ。しかし、米欧の一致した態度でイランと交渉に臨まねばならない。
 さらに、6月末に締結されることになっている「最終合意書」をオバマ大統領がどのように扱うかがはっきりしない。なぜなら、共和党が多数をとっている上下院では、批准は難しい。したがって、オバマ大統領はこれを、単なる「合意」として、書いたものにしない可能性もある。