世界の底流  

ISISとは何か(その2)

2015年3月10日
北沢洋子

 1.私の見たイスラム

 「イスラム教は最も寛容な宗教である」というのが、若い頃、私が10年間、中東で過ごした時の感想である。偶然、カイロ市内にユダヤ人コミュニティがあることを発見した。当時エジプトは英・仏・イスラエル軍に攻め込まれた「スエズ戦争」の直後で、街頭では、若者が「イスラエルを海に突き落とせ」などと叫んでデモしていたにもかかわらず。
 しかしカイロのユダヤ人は、敵国人である筈なのに、平和に暮らしていた。彼らは「第2次大戦中のほうが、ナチの空爆の標的だったので怖かった」と言っていた。
 現在、「砂漠の宗教」という固定観念になっているイスラム教は、「サラセン時代」と呼ばれ、地中海全域で1000年続いた一大文明であった。「野蛮な宗教」ではなく、高度な学問が花咲いていた。彼らは、地動説も地球が丸いことも知っていた。都市は上下水道が完備され、人びとは清潔で、快適な生活を享受していた。

2.「イスラム国」のイスラムとは

 現在、シリア、イラクに跨る「イスラム国」は正統なイスラムではない。同じく、アフガニスタン、パキスタンの「タリバン」もイスラムではない。ソマリアの「シャバブ(イスラム法廷連合)」もイスラムでない。ナイジェリアのポコ・ハラムもイスラムではない。これらは、イスラムを名乗っているが、邪宗派である。
 「イスラム国」の起源は隣国のサウジアラビアである。サウジアラビアのイスラムは過激な原理主義のワハブ派ある。最近でも、著名なブロガーが、穏健な民主化を唱える記事を載せたら、裁判なしに、投獄、罰金に加えて、1000回のむち打ち刑を科せられた。サウジアラビアの移民労働者は、裁判で、アラビア語の通訳も付けてもらえず、自分がどうして投獄されたのか理解出来ないでいる。公開の斬首刑もあり、手首の切り落としの刑など日常的に起こっている。姦通罪は、女性だけが砂に首まで埋められ、見物人が石を投げて殺す。このような残忍な無法がまかり通っていても、サウジアラビアは、長い間、米国の中東最大の同盟国であるので、沈黙してきた。

3.「イスラム国」はネットワーク型

 「イスラム国」は、今日、テロ組織と呼ばれている。これは正確でない。たしかに、「アルカイダ」と同様に、フランスでの週刊誌襲撃事件など、先進国内でのテロ攻撃事件を起こしている。しかし、これは彼らの本業ではない。都市でのテロ攻撃には、爆弾の製造をはじめ特殊な技術がいる。これはイエメンのアルカイダなど、占領地をもっている組織でなければ不可能である。
 アルカイダは明瞭に反資本主義を標榜しているが、イスラム国はそのようなイデオロギーを持っていない。イスラム国は中東全域にカリフの国を建設するのが目的である。ただし、両組織に共通しているのは、統一した司令部を持つ組織ではなく、それぞれが独立している緩やかなネットワーク型であることだ。すでに、ポコ・ハラム、シャバブなどがイスラム国を名乗っている。

4.空爆でイスラム国を壊滅出来るか

 昨年8月8日、米国は、今回も国連安保理をバイパスして、有志連合でイスラム国に対する空爆を開始した。米、英、仏、独、カナダ、オーストラリア、トルコ、イタリア、ポーランド、デンマークなどNATOの10カ国に、ヨルダンをはじめ中東10カ国が加わった。今年2月12日の時点で、空爆回数は2,300回を記録している。すでに7,000人の戦闘員を殺したと米軍は言っている。しかし、主として無人機による爆撃で、民間人の犠牲が大きいことは、言うまでもないだろう。イラク軍は腐敗が激しくて、敵のイスラム国に武器を売ったりしている。シリアは、有志連合がアサド政権の退陣を求めており、穏健な反政府の「自由シリア軍」に武器を供与し、同時に訓練をしなければならない。したがって、地上部隊を送り込まねばならないが、これは、オバマ大統領の禁じ手である。
 イスラム国は、イスラムの邪宗派ゆえに社会基盤を失って自滅してゆくかも知れない。同時に、その本拠であるイラク、シリア、イランの多数派のシーア派と戦わねばならない。すでにシリアの北部のコバニでは、クルド軍に撃退されている。これはイスラム国の最初の敗北であった。