世界の底流  
米国の中東・アフリカへの軍事介入

2013年1月1日
北沢洋子

1.USAFRICOMの創設

 「米国アフリカ司令部(USAFRICOM)」は、2007年、ブッシュ政権時代のラムズフェルド国防長官によって創設された。司令部をドイツのシュツトガルドのケリイバラック米空軍基地に置いて、アフリカの53カ国を対象地域にしている。
 2007年2月6日、AFRICOM創設についてホワイトハウスの記者発表では、「アフリカの平和と安全を守るために、米国のパートナーとともに軍事行動をする」と述べた。しかし、実際には、最近とみに外交交渉やビジネス取引を通じてアフリカに進出している中国を駆逐するのが主な狙いである。
 アフリカ大陸は地下資源に恵まれている。それは、石油、ダイヤモンド、銅、金、鉄、コバルト、ウラニュウム、ボーキサイト、銀などであり、さらに熱帯木材、熱帯果物なども挙げられる。とくに最近では、石油資源が重要になってきた。西アフリカ地域だけで、米国は全輸入石油の20%を占めている。
 AFRICOMは、米企業の権益を守るために、紛争地域に軍事介入するための統合司令部である。そして、しばしば米国が紛争を作り出す。第1次オバマ政権の参謀総長であったRahm Emanuel 氏は、「すべての危機は、無駄にならない」というのがワシントンのモットーである、と述べた。

2.マリ紛争

 2012年4月3日、マリの北方地域でトァアレグ族の反乱が起こった。これはマリの中央政府に対して、サハラ砂漠のアザワド地域の独立戦争であった。結果は、遊牧民であるトァアレグ族分離主義者の勝利に終わった。
 しかし、トァアレグが独立すると、今度はAnsar Dineと称するイスラム原理主義がトァアレグ地域に侵入した。Ansar Dine は「イスラム・マグレブのアルカイダ(AQIM)」に所属している。彼らは、リビア革命中に手に入れた武器で装備し、最終的には、トァアレグ族を追放した。世界遺産に登録されていた「トンブクツー遺跡」はゴーストタウンになってしまった。そして、厳しいイスラム教の戒律(Sharia)を導入した。
 トァアレグ族は、イスラム教徒のなかでも唯一女性が強い。ここに、イスラムの戒律を持ち込んだことは、その摩擦が激しかった。
 同年3月21日、マリ南部の首都バマコで、民主的に選出されたAmadou Toumani Toure 大統領がクーデタによって打倒されるという事件が発生した。これは北部の独立問題の処理に不満というのが口実であった。軍事クーデタの張本人は、Amadou Haya Sanogo大尉であった。
 2012年3月23日付けの『ワシントンポスト』紙によると、「Sango はしばしば米国で軍事訓練を受けていた」と報じている。このクーデタの裏に米国の意向があったと思われても仕方がないだろう。
 これまで米国は、途上国の紛争に公然と軍事介入を行ってきた。それには様々な理由があった。冷戦時代は、共産主義の脅威から自由世界を守るため、あるいは米国企業を国有化から守るため、米大使館や米国人の安全を守るためなどが、その口実に使われた。
9.11以後は、「テロの脅威から民主主義を守るため」という口実が広く使われるようになった。さらに、「ボスニア・ヘルツゴビナ紛争」では、セルビアのベルグラードに対するNATOの空爆以来、「人道的軍事介入」という口実が用いられるようになった。
 しかし、この「人道的軍事介入」論には、まだ国際法上の理論づけが行われていない。そして、安保理の常任理事国5カ国の賛成が得られねばならない。

3.「人道的介入」

 AFRICOMは、1983年、米国が「緊急配備戦略(RDS)」を採択したときの軍事インフラであったUSCENTCOMのアフリカ版である。
 CENTCOMは、フロリダ州のタンパのMacDill 空軍基地に総司令部を置いている。 CENTCOMがカバーするのは、中東、北アフリカ、中央アジアなどの地域である。現在の総司令官は、James Mattis将軍である。前任者のPetraeus将軍とAllen 将軍は、ともに最近の総司令部とCIAの性スキャンダル事件で失脚した。
 新設されたAFRICOMは、CENTCOMのアフリカ大陸版「人道的介入」部隊である。
 一方、CENTCOMの中東版はカタールのドーハにあるAl Udeid空軍基地に司令部が置かれている。実際には、これまで湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などで戦ってきた。不思議なことに、エジプトは、AFRICOMではなくCENTCOMの下に置かれる。

4.トルコに対するミサイル供与

 2012年12月14日、パネッタ国防長官は、トルコに対して、ミサイル提供の書類にサインした。これはトルコに「パトリオット型ミサイル2基と100人の部隊を供与する」というものだった。パトリオット・ミサイルは地対空のミサイルである。だからこのミサイルは専守防衛の武器だという。
 George Little国防総省スポークスマンは、2012年12月4日付けの『US Air Force News』紙で、「トルコはNATOのメンバーである。米国はシリアの脅威に対するトルコの自衛行動を支援する。」と述べた。
 米国に続いて、ドイツとオランダがパトリオット型ミサイルをトルコに供与すると発表した。同じく、シリアの脅威に対してトルコを守るためだと言っている。

5.シリアにおける米ロ対決

 これらのことは、シリアの脅威を問題としているのではない。これはシリアにおけるロシアの軍事力に対するNATOの挑戦である。
 米国のトルコに対するミサイル供与に対抗して、ロシアは最新型Iskandorミサイルを供与し、すでにこれは戦闘態勢にある。Iskandorは、750キロの弾頭を載せて、マッハ6〜7の速度で380キロ先のターゲットを確実に当てることが出来ると言われている。
 これまでロシアはシリアに対して、地対地のPechora2Mミサイルを提供してきた。ロシアはこれを、地対空の専守防衛型ミサイルだといっているが、これまで空からシリアに向けてミサイルが飛んできたことはない。
 シリアをめぐって、米ロ対決の構図ができている