世界の底流  
米国の新しい戦略:無人機攻撃(その2)

2013年2月13日
北沢洋子

2月5日付けの「世界の底流」欄に、国連が、(米国)の無人機による他国に対する軍事介入について、人権の立場で調査を始めた、という記事を載せた。

その後、無人機戦略をめぐって、議会、オバマ政権内部で議論が始まっているという記事が連日のように報じられている。

今や「無人機」問題は、かつての対人地雷やクラスター爆弾と同じく、人道に基づいた「使用禁止」の国際条約締結に向けたプロセスが始まっているようだ。

1.無人機による誤爆事件

昨年8月末、イエメンで、米軍による武装無人機(UAVs)の誤爆事件が起こった。イエメン東部のKhashamir村で、尊敬されていたウラマー(導師)Salem Ahmed bin Ali Jaber(40歳)が、モスクの礼拝で、アルカイダを非難する説教をした。

その2日後の夜9時、アルカイダのメンバー3人がモスクにやってきて、Jaber師との話し合いを申し入れた。そこでJaber師は従弟で警官のWaleed Abudulla を護衛にして、村の中心部のパーム・ヤシの木の下で議論をはじめた。その時、米軍のUAV攻撃を受け、5人と1頭のラクダが焼け死んだ。

これは明らかに誤爆であった。Jaber師 は米軍にとって、重要な人物であったが、殺してしまった。

2.UAVs作戦は安上がりで兵士は安全

「テロとの戦い」を最優先する米国にとっては、ブッシュ政権であろうと、オバマ政権であろうと、「アルカイダ殲滅作戦」には、このような遠隔操作による軍事攻撃は不可欠である。なぜなら、米国はアフガニスタンで犯した誤り、つまり大量の米地上軍を戦場に派遣し、高い戦費と人命を犠牲にするわけにはもはやいかない。そして、UAVsによる遠隔操作の殺害は、CIAの情報活動と一体になっている。

CIAの作戦はイエメンだけでなく、パキスタン、ソマリアなどですでに実行されている。しかし、これまで4年間、UAVs作戦について、オバマ政権内では全く議論されてこなかった。

3.UAVsの責任者はCIA長官

これまで、ホワイトハウスでの「対テロ作戦部」のチーフは、John O Brennanであった。彼はCIAの情報に基づいて、UAVsの「殺人リスト」を作成し、オバマ大統領に提出してきた。ちなみに彼は、2月7日、前任者が性スキャンダルで辞任したので、上院の承認を得て、新しいCIA長官に任命された。

多分Brennan は、国務省の「対テロ部局」よりも大きな権限を持っていただろう。Brennanは、ホワイトハウス入りの前には、サウジアラビアの首都リヤドで、CIAチームのチーフだった。この時期、彼は、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」に異常な関心を持っていた。そして彼は、「AQAP」には、アルカイダのSaid Ali al-Shihri副代表と米国籍のウラマーAnwar al-Awiakiという重要人物がいるという情報を得た。彼は、イエメンという貧しい砂漠の国をUAVsのテスト場にすることに決めた。

イエメンでの米軍内のUAVs作戦の現地責任者は、Stanley A. MacChrystal特別共同作戦司令官であり、CIAでは、Michael V. Hayden前CIA長官だった。しかし最近、彼らはUAVs作戦に不満を漏らしはじめている。この2人は、ロイター通信に対して、UAVsのターゲットが、最近では「アルカイダの小物になってきた。彼らは、米国に対して直接の脅威となっていない。むしろ、UAVsがイエメンにとって脅威となっている」一方、「UAVsに反対する国内外の声は大きくなっている」と警告している。

3.CIAと米軍が別々にUAVs作戦

これまで、イエメンで、CIAと特別共同作戦司令部が、なぜ平行して、それぞれUAVs作戦を行ってきたかについて、満足な説明がなかった。

というのも、オバマ政権の2009年12月、米軍がBLU-97型クラスター爆弾を積みこんだ巡航ミサイルで子どもや女性を含んだ民間人を殺した。その6カ月後、人気があった副知事を、UAVsで殺してしまった。これは、イエメンで大規模な米軍反対のデモを誘発し、同時に石油パイプラインが停止してしまった。明らかに米国の失敗であった。

一方、CIAは、ひそかにサウジアラビアで、イエメンのAQAPのリーダーの「殺しのリスト」を作成した。これを、オバマ政権の法務部が検討した。このリストは、「米国に対する脅威」だとして、イエメン政府の許可なしにUAVs攻撃をしても法的に問題ない、と言うお墨付けを与えた。

一方、米軍特別共同作戦司令部は、UAVs使用についてはイエメン軍の許可を必要とした。それに比べて、CIAはイエメン軍の「特別作戦部」と連携しており、そこでは一方的にUAVsを使用できることになっていた。UAVsをめぐってはこのような裏話がある。

今年に入って1ヵ月余り、すでにUAVsは5回出動し、24人を殺した。2009年以来、昨年末までの出動が63回だったことに比べると、かなりテンポが速くなっている。

一方、最近、イエメン政府軍が、米海軍との共同作戦で、反政府派ゲリラから奪った「ポータブル型対空ミサイル」を、ジャーナリストに公表した。これは、1月23日、イエメン沖を航海中の船から押収したものだとして、「イエメン軍と民間の航空機に対する大きな脅威」だと、説明した。ミサイルは中国製か、あるいはイラン製で、「赤外線誘導ミサイル」である。いずれにせよ、反政府派が、これらの対空ミサイルを持っていることは、UAVs作戦に大きな障害になるだろう。

イエメンの反政府派ゲリラはHouthiと呼ばれる。主として彼らは、イエメン北西部のZaydis部族で、イエメンの人口の4分の1を占める。戦闘的なシーア派イスラム教徒である。彼らは、イエメン政府軍と2004〜10年まで戦ってきた。彼らは戦闘経験が豊富で、武器は腐敗した政府軍から手に入れてきた。 

4.オバマ大統領がUAVsの公表を拒否

オバマ大統領は、第1期の4年間、ブッシュ大統領時代のCIAの尋問や拷問について、公表するように命令した。

ところが、テロリストの暗殺や遠隔殺人に関する司法省の法的解釈については、全く違った態度をとってきた。彼は、ホワイトハウス入りする時、最も透明な行政を行うことを約束したが、2011年のイエメンでのUAVs攻撃については、頑として公表を拒否した。

問題は、この攻撃で、米国籍のAnwar al-Awiakiを殺害したことにある。オバマ政権はこの問題を上院、下院の情報委員会にさえ隠し通した。さらにオバマ政権は、法廷でこの問題を審議することを拒み、この問題について公的に議論する道を封じたのであった。

しかし、2月4日、司法省が「アメリカ国籍」の遠隔殺害を認める文書を公表した。これによって、オバマ政権が敷いていたバリケードは崩れ去った。これは、ブッシュ政権時代の2004年に、NBC Newsが「大統領は秘密情報に基づいて、裁判なしに市民の死刑を命令できる」とした「白書」を発表した時、大きな与論の非難と激しい議論が巻き起こったことを思い起こさせる。

5.議会での議論始まる

司法省の文書は、上下院の情報委員会のメンバーを除いて、機密扱いになっている。しかも、これは議員向けに16ページと短い。

この文書には、アルカイダのトップの地位にある米国人が、「米国に対する暴力、かつ差し迫った脅威であり、しかも逮捕することが不可能であった場合」、「遠隔操作で殺害することの法的根拠」を述べていた。

情報委員会の議員たちは、Eric H. Holder Jr.司法長官に、なぜブッシュの拷問メモは公開されたのに、今回のUAVsは公開されないのかと、質問した。

さらに、ブッシュ大統領に任命されたばかりのBrennon CIA長官に対して、「差し迫った脅威」や「逮捕が不可能な」などという表現は、拡大解釈されがちであり、その法的根拠を問い質した。

議員たちは、UAVsの情報がすべて機密扱いになっていることに、いらだっている。そこで、Dainne Feinstein上院議員(カルフォルニア州選出・民主党)は、2月7日の公聴会で、情報委員会の議長として、「遠隔操作による殺人」を審議する「法廷」を設置すると、宣言した。彼女は、その詳細については明らかにしなかったが、アナローグとしては、米国内での盗聴を審議した「上院外務情報委員会法に基づく法廷」が挙げられる。

Brennan は、米特殊部隊によるパキスタンでのビンラディン暗殺を例に挙げ、「殺人作戦はホワイトハウスだけの権限」だと反論し、現在「米国はアルカイダと戦争状態にある」と述べた。またUAVsによる民間人誤爆について、Brennan は「このような誤りは公表されるべきだが、一方では許容されるべきだ」と述べた。

公聴会の終わりごろに、突然Brennon は、「オバマ政権がその種の法廷について内部で検討したことがある」という爆弾発言をした。しかし、現在の巨大なホワイトハウスの権力(大統領が米軍総司令官)に対する司法機関の弱体さを考えると、その結果は明らかである。

Saxby Chambliss上院議員(ジョージア州選出。共和党)は、CIAの水責め拷問について、すでに2002年、Abu Zubaydahの尋問に際して実施された拷問をめぐって50通以上のE-メールを受け取っている筈だと言って、当時CIAのナンバー3であったBrennanに対して、「知っているか」と質問した。これに対して、Brennan は、「拷問」という言葉を避けながら、「強制的な方法をとることはやむを得ない」と答えた。

Brennonの公聴会は、怒れる傍聴者に占拠された。彼らはBrennan に対して、「憲法の暗殺者」などと叫んだ。ある女性は「無人機が飛ぶと子どもが死ぬ」と書いた横断幕をぶら下げた。Feinstein議長は公聴会の一時停止を宣言し、その後、公聴会は誰もいない議場で開かれた。

Ron Wyden上院議員(オレゴン州選出・民主党)は「Awiakiを暗殺したのは馬鹿げており、かつ誤りである」と述べた。

しかし、米軍がアフガニスタンから撤退する日が近づくにつれて、UAVsの役割は大きくなるだろう。UAVsは、逮捕する代わりに殺す武器だ。そして、CIAとホワイトハウスが、検事、判事、陪審の3つの役割を同時に執行する。

6.イランがUAVを捕獲

2月6日、イランの国営テレビが、2011年12月4日、イラン領空で捕獲した米国のUAVのビデオを放送した。これは、精巧なRQ−170 Sentinel型であった。

米国にとって、これは非常に都合が悪かった。米国は、はじめ、イランが捕獲したことを否定した。しかし、それが通じないことが判ると、今度は「技術的なミスで、墜落した」と弁解した。しかし、アフガニスタン国境から225キロも離れた地点で捕獲されており、言い訳が出来ない。米国はイランに捕獲機の返還を求めたが、イランよって拒否された。そして、イランはテレビでの公開に踏み切ったのであった。

イランのテレビ放送局は、アフガニスタンのカンダハールの米空軍基地のRQ-170 Sentinelを同時に映し出した。イランの「革命防衛隊(IRGC)」の空軍司令官Amir Ali Hajizadeh将軍は、テレビのインタービュで「我々は米CIAのUAVsのすべての情報を手に入れ、それを撃ち落とす技術を持っている」と述べた。

革命防衛隊のテレビ「Fars News Agency」は、イランは捕獲した「UAVのコピイを製造することが出来る」と報道した。