世界の底流  
ゴマの悲劇はいつ終わるのか

2012年12月12日
北沢洋子

1.M23のゴマ侵入と撤退

  11月20日、「M23(3月23日運動)」と名乗る反政府軍が民主コンゴ東部の北キブ州の州都ゴマを占領した。M23はその名の通り、今年3月23日に結成された反政府軍である。
しかし、なぜか11月28日、突然、M23は撤退し始めた。 
 その理由は明らかでない。M23が戦闘で劣勢になったこと、及び数千人の軍隊では人口50万のゴマを支配出来ないと言う説と、政府側がM23にゴマ北方のレアメタルのタンタルが豊富な地域にとどまることを許可したからという説もある。また国連安保理が「即時撤退」を求める決議をしたからということも考えられる。反政府軍は、ここで盗掘したレアメタルの鉱石をルアンダに運び、ルアンダで精製して、外国に輸出している。
 今年4月から始まったコンゴ東部での政府軍と反政府軍との戦闘で住民50万人が家や家畜を失い、国内外に避難した。08年に始まったこの地での紛争では、600万人が難民となっている。また女性に対するレイプ事件も頻発している。コンゴ東部の紛争は、犠牲者の数ではアフリカ大陸では最悪である。

2.民主コンゴの地政学

 地図で見ると民主コンゴの主要な都市は隣国との国境沿いにあることがわかる。首都キンサシャではコンゴ川の対岸に旧仏領コンゴの首都ブラザビルが見える。同じく紛争中のゴマも、ルアンダのギセニと国境を挟んで向かい合っている。M23が向かおうとしていたブカブもルアンダのチャンググとキブ湖を挟んだ対岸にある。
 このような地政学は、外国の侵入に晒され易い。とくに東部はレアメタル、ダイヤモンド、金など豊富な地下資源を抱えていることが外国の侵略の理由である。
 M23は、ゴマ占領後、南キブ州の州都ブカブへ進撃する様子を見せた。そして、その後、民主コンゴの首都「キンサシャへ向かう」とM23のスポークスマンKazarama大佐は 豪語した。これは、1996年、ジョゼフ・カビラ現民主コンゴ大統領の父ローラン・カビラ大統領が率いた「コンゴ解放民主勢力同盟(AFDL)」が、ルアンダ軍とウガンダの支援を得て、キンサシャに進撃したのと同じルートである。
 続いて、1998年、同じくルアンダとウガンダに軍事的、政治的に支援された反政府軍「コンゴ民主主義のための集会(DRC)」がルアンダから侵入して、ゴマを占領した。  
 しかし、DRCはカビラのAFDLのように成功しなかった。この時、ローラン・カビラ大統領はアンゴラとジンバブエの軍事援助でもってRCDを撃退した。やがて、RCDは、ルアンダ派とウガンダ派に分裂した。
 ルアンダに援助されたDRC一派は、キブ地域を占領したが、民意を掌握出来なかった。しかし、ブカブを占領し、東部の鉱山を占拠した。民主コンゴ政府側は、その後DRC軍は政府軍に統合されたというが、それは疑問である。いずれにせよ、1996年以来、コンゴの東部は、土地、住民、鉱山ともに、ルアンダの支配下にあったことは確かだ。
 ルアンダ政府は、「全く関係ない」と言って、これを否定している。しかし、M23の司令官の1人、あだ名が“ターミネター”のNtaganda将軍を例にとって見よう。彼はルアンダで生まれ、1990年のルアンダの内戦では「ルアンダ愛国戦線(RPF)」側で戦い、1994年に勝利した。コンゴ東部でAFDLが結成された時には、これにNtagandaは参加した。その後、ルアンダが民主コンゴに侵略した時、彼は2つの反政府軍(「イツリ・コンゴ愛国連合」)、「人民防衛国民会議)」のどれかにいた。M23が創立されると彼はこれに参加した。Ntagandaは国際刑事裁判所から「戦争犯罪」と「人道に対する罪」で逮捕状が出ている。彼はすべての戦闘にリストアップされている。
 Ntaganda の経歴は決して例外ではない。コンゴ反乱軍の司令官のすべてが同じような経歴を持っている。ルアンダ軍からコンゴ反乱軍に移り、しばしば、ルアンダ軍に戻ることもある。
 ルアンダは小国である。なぜルアンダが巨大な民主コンゴと戦えるのだろうか。
 第1に、1990年以後、ルアンダ軍は、良く訓練された規律のある軍隊である。
 第2に、カガメ大統領は米国のお気に入りである。なぜなら彼は米国の仕官学校に留学しており、政治問題を軍事的に解決するという軍人特有のメンタリティを持っている。
 第3に、10月18日にルアンダは、「アフリカ連合(AU)」の推薦で、国連安保理の非常任メンバーになった。これは外交面では有利だ。しかし、一方では経済的、軍事的に国際援助に依存しており、また、コンゴ東部から盗んだ富に依存している。これは非常に弱いことだ。
たとえば、ゴマ侵略の1ヵ月前の10月25日、コンゴ東部でもっとも良く知られ、尊敬されていたMukwege医師が暗殺されそうになった。このような事件はルアンダの犯罪を暴くことにつながる。ルアンダも隠しおおせることは出来ないだろう。
 第4に、国連が、東部に20,000人のPKOを派遣している。国連の年間予算は15億ドルに上る。にもかかわらず、PKOは、ゴマの女性や子どもたちを守ることが出来ないのか。ゴマ市内にもPKOが1,500人駐屯している。彼らはM23の兵士を見て見ぬ振りをしている。PKOは、「50万の市民を戦闘に巻き込むことになるからだ」と言い訳をしている。
 11月21日、国連はゴマを制圧したM23に対してルアンダとウガンダが武器供与など支援していると指摘する「専門家の国連調査報告書」を公表した。
 同報告書によると、ルアンダは、武装勢力への武器禁輸を定めた国連安保理の決議に違反して、武器や弾薬を提供し、徴兵や情報活動などでも支援している。そして、M23の指揮系統をたどると、ルアンダのカバレベ国防相につながった。またウガンダも、政府高官が兵士の訓練や武器供与、共同作戦の展開などでM23を支援している。
 今年7月には、M23が民主コンゴ東部ルマンガボ軍事基地を攻撃、占領した時にはルアンダ、ウガンダ両軍がM23に加勢したと、述べている。
 11月20日、国連安保理は、M23がゴマを制圧したことを受けて、「即時撤退」を求める決議案を全会一致で採択した。