世界の底流  
米国ファースト・フード店でのストライキ

2013年8月13日
北沢洋子

1.ファースト・フード店労働者の史上最大のスト

7月31日早朝、ニューヨ−クとその他7都市で、ファースト・フード店で働く労働者たちが、4日間のストに入った。このような労組に加盟していない労働者(Non Union Workers)の大規模な闘争は、米国労働運動史上、はじめてのことであった。

ストに参加したケンタキー・フライド・チキン(KFC)の労働者Naquasia LeGrandは、ブルックリンのProspect 公園で開かれた集会に集まった労働者や、牧師、政治家に対して、「我々は、こんなひどい状況にうんざりしている。したがって、ニューヨーク市の労働者はストに投票した。なぜなら、我々は次の世代がひどい状態に置かれることを拒否したいからだ。彼らはもっとましな生活ができるようになってほしい。そのためにみんなが立ち上がってほしい」と演説した。 

2.昨年11月から闘争が始まっている

実はこのストには前史がある。昨年11月、ニューヨークのさまざまなファースト・フード店の労働者20人が、ストをしている。さらにこれまで4ヶ月にわたって、5つの都市で同じようなストが行われた。

今回のストは、2倍の規模になった。彼らのストは、「サービス部門労働者国際労組」と地区の労組の支援を受けている。労働者が掲げる要求は同じである。「時給15ドルまで増やせ。労組の結成を経営者が脅すのをやめろ」という内容であった。

3.低賃金と最悪の労働条件

今回のストはニューヨークをはじめ、シカゴ、セントルイス、デトロイト、ミルワーキー、それに新しくカンサスシティ、ミシガン州のフリントなどが加わった。シアトルではすでに5月にストを行ったが、シアトルのスポークスマンは、「我々は、今回、直接行動をエスカレートする準備している」と語った。

シアトルのマクドナルドの労働者Kereem Starksは「人手が足りないので、3人分も働かされている。しかし、賃金は1人分しか払われない。時給7.25ドルでは、家賃と2人の子どもを養っていかれない」と語った。また彼は、腕の傷を見せて「これはやけどを負ったのだが、マネージャーは知らん顔をしている」と付け加えた。

セントルイスのジミー・ジョーンズ(サンドイッチ店)で働いているRasheen Aldridgeは「アメリカよ。立ち上がれ」という全米キャンペーンに参加した。「5月に3人の仲間とストをした。その時はびくびくしていた。なぜなら、首になる危険があったからだ」と語った。しかし、いまでは、彼は恐れていない。大勢の仲間がいるからだ。

4.ファースト・フード業界は2次的職場

これまでのところ、マクドナルド、ウェンディーズなど大手のファースト・フード店はストに対してコメントしていない。ドミノのTim McIntyre副社長は「一生懸命働けば、このシスティムでは昇進の機会は誰でも平等にある。したがって、会社は、個人や個々の賃金問題には関心がない。また我が業界は、労働者にとっては、第2次的、腰掛け的な働き口である。したがって、組合はいらない」と答えた。

「全米雇用法プロジェクト(NELP)」は、このような「流動的な職場制度」を問題にしている。NELPは、センサスの統計に基づいて、「ファースト・フード業界では、他の業界に比べて、昇進の道は非常に限られている。ファースト・フード業界では、管理職、技術者、専門家などは全従業員の2.2%でしかない。ちなみに全米で全産業の平均値は31%である」と言う。そして、現場の労働者の平均賃金は時給8.94ドルである。

労働者の闘いが、単に昇進だけでなく、このような産業構造を変えることが出来るだろうか。

第1に、ファースト・フードの職場はる米国の労働者の未来を象徴している。たとえば、低い賃金、不安全な職場、常時お客に愛想を振りまく、そして、労組がないことなどである。

第2に、ブッシュ時代の10年近い経済的、法的、政治的攻撃戦略により、労働者側が有効な対抗手段を持たず、ただ、自然死するのにまかせてきたせいである。労働者の団結権を企業に認めさせることなく、また「反企業PRキャンペーン」に労働者を参加させることに失敗した。

5.米国の労働運動の活性化へ

このような正規の労組労働者の現状に対して、低賃金、労組非加盟の労働者がストを行ったのである。ストが危険であり、有効性を失っているとき、少数で、短期のストそ決行することは、労働者を勇気付け、活発化をもたらし、経営者を困惑させ、世論を動かす。そして、ストによって解雇される危険を防ぐことが出来る。

そして、このストは、これまでの労働紛争を有利に導かせた。例えば、シアトルであったいわゆる「賃金泥棒」問題から、マクドナルドが低賃金労働者にたいして課した「ノルマ制度」に至るまで、今回のストが明るみに出したのであった。

今回のストは、ファースト・フード産業の最大の財産である「ブランド名」を傷つけたのであった。今回のストは、ブルックリンのドミノ店で活動家のJose Cruzが、4月のストを理由に、解雇されたことに抗議して始まった。ドミノの労働者の90%が参加した。その結果、全店を閉めなければならなくなった。また、パパ・ジョンとマクドナルドもこれに加わった。

ファースト・フード産業は、公に解雇することをあきらめ、「非合法な解雇」をしてきた。これも、今回のストがマスメディアに取り上げられるようになってから、困難になっている。ストを理由に解雇されることは、出来なくなった。