世界の底流  
低開発国からゆっくりと卒業する

2013年8月12日
北沢洋子

途上国の中でも「低開発国(LDCs)」と呼ばれる最貧国の数は、1971年には24カ国であったものが、現在49カ国に増えた。しかし、その中で、ゆっくりとだが、成長を記録し、一段上のランクの「途上国」入りを果たしている国がある。

これまで、LDCsのランクを卒業して、途上国の仲間に入った国は、アフリカのボツワナ、カーボベルデ、それにインド洋のモルディブの3カ国である。これに、2015年までに途上国入りを予定されているのは、ツバル、バヌアツ、キリバツ、アンゴラ、サモア、赤道ギニアなどの6カ国である。しかし、これらの国の中には、LDCsを卒業したがらない国もある。それは、LDCsの「輸出優遇関税」やODAの増加といった特権がなくなるからである。

いずれにせよ、LDCsが途上国入りを遂げる理由は、今年7月に発表された「国連貿易開発会議(UNCDAD)」の『2013年世界投資報告書』によると、昨年、LDCsへの直接外国投資(FDI)が20%も増え、これまで最高記録の260億ドルに上ったことによる。最もFDIが増えた国は、カンボジアを筆頭に、民主コンゴ、リベリア、モーリタニア、モザンビーク、ウガンダのアフリカ5カ国である。同報告書は、カンボジアが前年比で73%、民主コンゴが96%、リベリアが167%、モーリタニアが105%、モザンビークが96%、ウガンダが93%増となっている。

勿論、LDCsの中で、FDIが減少した国は、20カ国もある。たとえば、アンゴラ、ブルンディ、マリ、ソロモン諸島などが著しい。「LDCs」と呼ばれる国は、極端な貧困、経済の構造的弱体などの特徴を持っている。UNCDADは、これらLDCsは、しばしば、地理的不利、開発に必要な資源や人材の欠乏、外からのショックに脆いことを伴っている。

最近、LDCs49カ国の仲間入りをした国は、新しく誕生した南スーダンである。同国は、2011年7月、国連に加盟した。これで国連加盟国は193カ国となった。

LDCsの開発を専門的に取り組んでいるグローバルなNGO「LDC Watch」の代表Arjun Karki博士は、「なぜLDCsにFDIが増えているのか」という問いに対して、「シナリオははっきりしない」と答えている。そして、「途上国全体にFDIが減少している中で、LDCsだけ例外である」と述べている。しかし、FDIが増えているLDCsを見ると、それは民主コンゴ、リベリア、モーリタニア、モザンビーク、ウガンダなどといった資源に恵まれた国であることが判る。これらの国では、FDIは地下資源の開発プロジェクトに集中している」そして、「開発という視点から見ると、この傾向はよくない。なぜならLDCsにとっては、一次産品主導型の成長は持続可能でないからだ」と付け加えた。

通常、国連経済社会理事会(ECOSOC)の下にある国連開発政策委員会が、LDCsのカテゴリーにいる国を決定するのだが、その場合、人口、国内収入、その他経済的要因をもとにする。しかし、LDCsであることの最終的な決定は当事国にある。たとえば、ジンバブエなどは、国連開発政策委員会によってLDCの認定を受けたにもかかわらず、これを拒否した。

潘基文国連事務総長は、「FDIの増加は、国際社会が2015年のミレニアム開発ゴール(MDGs)の達成の最終段階に入っている時、重要な手段になっている。そして、MDGsの最大の目的は絶対的な貧困と飢えをなくすことである。そして、この2つはLDCsの最大の課題である。同時に、国連は2015年以後の開発アジェンダについてすでに準備している。したがって、FDIについての客観的、かつ信頼できるデータは、この2つの目標の達成に役にたつ」と述べた。

また、Karki 博士は、LDCsのための「2011〜2020年の10年間の新しいイスタンブール行動綱領」は、「これまでの一次産品主導型の成長から、LDCsの構造的経済変革を達成するために必要な生産能力を確立することに、わずかだが、変化が見られる。したがって、LDCsに対するFDIの増加が、製造部門、インフラ、医療、水、衛生、電気、通信部門といった基礎的なサービス部門に向けられるならば、歓迎すべきである。」そして、「FDIが、天然資源の開発にのみ向けられるのであれば、トリクル・ダウン(水が下に流れる)は起こらないだろう。この場合、利益を受けるのは、多国籍企業や投資国だけで、貧しく、周辺化されたコミュニティではない」、「格差の拡大、資源の再配分といった基本的な課題は、開発の重要な課題である。たとえば、リベリアやシエラレオネなど資源に恵まれているが、住民は絶対的貧困の下にある国ではなお更必要である。このように、持続可能な開発が出来ない場合、資源は地下に眠らせておくべきである」と述べた。

アンゴラ、ブルンディ、マリなどで見られる「ネガティブな成長」は、これらLDCsの政治不安に繋がっている。そのことは、FDIにとっても好ましいことではない。アフリカやアジアでは、FDIが急増している国は、独裁国家、あるいは弱体国家であることが多い。

一方FDIが減っているLDCsを見ると、利潤と略奪から自国民の利益と権利を守ろうとしている国が多い。