世界の底流  
使い古したCIAのボリビア干渉作戦

2013年2月25日
北沢洋子

昨年6月、ボリビアで「米国からの科学者チーム事件」が問題になった。首都ラパスの米大使館は必死にもみ消そうとしたが、大スキャンダルに発展してしまった。

それは、50人のアメリカ人“専門家チーム”が、「人間の高地適応性、及びいかに早く戦闘に復帰できるか」を調査すると称してボリビア入りをした。

一行は、ボリビ政府の注意をそらすため、観光ビザで、少人数ごとに分かれて、ボリビアの国境を通過した。一部は、Yungasに、また他の一行は、Chacaltaya 山の麓まで足を延ばした。彼ら“観光客”はペルーやチリの国境地帯にまで出かけた。

この“調査”は数ヵ月に及んだ。このことについて、米国のメディアが一連の記事を載せたため、やっとボリビア政府は調査に動き出したという経緯がある。

ガルシア副大統領は、「ボリビア国内での米人科学者の行動は非常に疑わしい」と述べた。チームは、最初、高地での人間の適応力を調べると言った。次に、アフガニスタンでの米・NATO軍のために調査をしている、と言い換えた。しかし、アフガニスタンではすでに10年以上もタリバンとの戦闘が続いており、さらに、米軍の撤退するデッドラインが近づいているのに、ペンタゴンは急に、“高地での戦闘”に興味を持ったようだ。このような矛盾した説明があるところから、「チーム」は科学者ではない、と結論づけられる。

チームを率いているのは、表向き、コロラド大学のRobert Roach教授である。しかし、チームは、実質的には米軍情報局(DIA)の下にある。ボリビアでのチームの調整役は、米大使館の武官Patrick Mathes大佐である。彼がDIAから受け取った400万ドルがチームの活動資金に充てられている。

米国は、これまで半世紀に亘って、ペンタゴンであれ、CIAであれ、大規模な諜報員を第三世界の弱い環、あるいは、資源保有国に送りこみ、謀略工作を行ってきた。その結果、政権が倒れたのは枚挙にいとまない。しかし、現在なお、ボリビアに送り込んだのは驚きである。

このような作戦を、当事国の了解しに行うのは、「ボリビア政府に対する明らかな挑戦である。ボリビアの国内法に違反しているばかりか、ボリビアの主権の侵害であり、戦争行為である」と副大統領は述べた。

このようなボリビアの声明には、裏付けがある。まず、大使館の武官がMathes からDennis Fiemeyer大佐に替わったことがスキャンダルを予想させる最初の兆候だった。Fiemeyerはペンタゴンの中では、南アメリカのトップクラスの専門家であると言われていた。彼は、パラグアイとペルーに赴任しており、南アメリカの地政学に通じていた。彼は、内陸国ボリビアが太平洋へのアクセスを狙っていることも知っていた。さらに彼は、ボリビア軍の能力、軍の忠誠心、募集方法、反軍分子や反モラレス分子などを常時観察していた。

副大統領は、「これは、ボ・米間の完全な国交関係の修復の妨げとなる。このような侵略行為に黙っていられない。このようなことが2度と起こらないように、対処しなければならない。ボリビア政府は米大使館を常時監視下に置く」と抗議した。

米大使館は、2006年選挙、と2010年の再選の時、先住民のモラレスが大統領になることを妨害した。モラレスを追放し、ボリビアを米国の従属国にするために、米諜報機関は、テロリストを使った「ルールなき秘密作戦」を実行した。このグル―プは、モラレス当選後、米国に逃げ帰った。

米国はペルーのIquitos、チリのConcon、パラグアイのMariscal Estingarribiaなどボリビア国境沿いに、それぞれ米軍事基地を設けた。

パラグアイのFederico Franco現大統領は、米国の後押しを受けて、ALBAの結束を妨害している。また、彼は、「パラグアイにボリビア革命を輸出しようとしている」と非難している。

米情報機関は、ALBAの中では、ボリビアが弱い環だと考えている。それは、まず、ボリビアには低地の住民の中に分離主義者がいる。一方、伝統的なエリートたちは、先住民が大統領になったこと、「マルクス主義者」に統治されていることボリビアがキューバやベネズエラ化することを恐れて、過激化している、と見ている。

マスメディアが政府の腐敗を大きく書き立て、モラレス政権が達成した積極面を帳消しにしている。先住民と白人との間の紛争が米情報機関に利用されている。米政府は、モラレスがイランと友好関係にあり、中国と軍事関係を強め、それに、麻薬カルテルに対して消極的である、などの批判を常に繰り返している。

実は、ラパスの米大使館は、4年もの間、大使が不在である。Philip Goldberg大使は、ボリビア外務省によって、2008年、「ペルソナ・ノン・グラタ(好ましからざる人物)」として、追放された。彼が、分離主義者とコンタクトを持ち、“NGO”の陰謀計画に資金を供与したことが理由であった。

Goldberg前大使は、ボリビア政府が彼に手を掛けるとは夢にも考えていなかった。彼は、慌てて荷物をまとめ、本国に帰国した。

この事件でボリビアはさまざまなことを学んだ。Goldberg は、ボリビアに赴任する前は、「非友好国の政権転覆」の専門家として知られていた。これについて、Goldberg自身、認めている。

このような前例があるので、ボリビア政府は、次期大使に任命されたJames Nealon について調査した。幸いなことに、Wikileaksの国務省の通信暴露によって、Nealonのボリビアとモラレス大統領に対する反感を持っている事が判明した。

Nealon は、これまでチリ、ウルグアイ、ペルー、カナダなどを歴任してきた。っしかし、Wikileaksの国務省の秘密通信には、Nealon の定期的な通信は異常に少ない。このことは、Nealon が、国務省以外の機関CIAのために働いていたことを示している。モラレス大統領は、「Nealonは非常に危険な男」だと評した。

モラレス大統領の危惧は理解出来る。そして、実のところ、ボリビア政権は米大使をラパスに置く必要性を感じていない。ボリビアは現在、ボリビアと国境を接する国ぐにとの関係も良好ではない。しかも、国内には伝統的な分離主義者のほかに、新しい「第5列」が生まれている。

政府は国内のNGOの中で22団体の目標と活動を調査することになっている。中でも最近誕生した「恐怖に対する運動(MSM)」のGeoffrey Schadrack代表は、ボリビアのCIAのチーフであり、米大使館の政治アドバイザーである。MSMは右翼政党を名乗っているとも言われる。