世界の底流  
ダーバンでBRICS首脳会談(その1)

2013年4月15日
北沢洋子

1.BRICS開発銀行の設立

今年3月26〜27日、南アフリカのダーバンで、BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳会議が開かれた。

会議の結論は、@ 米欧の多国籍企業に比べて、BRICSはインフラ、鉱山、石油、農業などにより良い投資をすることを公約した。A BRICSサミットに、18カ国のアフリカの首脳が招かれた。(その中には、悪名高い独裁者が含まれている)。B BRICS5カ国が500億ドルを出資して、「BRICS開発銀行」を設立する、などに合意した。

議論の中で、ロシアが出資を他の4カ国よりも少ない額を申し出、また南アフリカが

BRICS銀行の所在地の候補として名乗りあげが、賛成したのは中国だけだった。結局、ダーバンでは、国別の出資額、銀行の所在地など詳細な項目について決まらなかった。今後、実務者間で協議を行う。

これまで、「BRICS銀行」の設立を唱えてきたのは、中国であった。所在地がワシントンに置かれ、米国が主導してきた世界銀行やIMFが、融資先の途上国の意向を無視して、融資の条件として一方的に構造調整プログラムを押し付けてきたことに不満の声があった。とくに、アフリカの資源開発と市場開拓を狙っていた中国が、以前から世銀・IMFに代わるものを模索していた。

今回のサミットで、BRICS開発銀行の設立の合意をみた。これは、BRICSが、自ら出資し、運営する開発銀行の設立である。サミットの主催国である南アフリカのズマ大統領は、サミットの会場で、「アフリカには、向こう5年間で、4,800億ドルのインフラ需要がある」と述べた。中国は、BRICS銀行は、「融資に特別な条件をつけるべきではない」と語った。

BRICS開発銀行は、政府の拠出金と金融市場でのBRICS銀行債の発行で運営される。実は、01年10月、ナイジェリアの首都アブジャで開かれたAUサミットでNEPADが採択されて以来、総額640億ドルに上る20件の大型インフラの開発プロジェクト案.があった。

02年7月、Anglo -American、BHP Billiton、Absa Banking Groupなどに率いられた187社が、NEPADのプロジェクトに出資することを約束した。しかし、その後2年経っても、投資した会社は一社もなかった。彼らの言い分は「アフリカの政治家の腐敗が片付かなくては、安全な投資が出来ない」であった。

こうして、NEPADは失敗した。そこで、「BRICS開発銀行」が登場したのであった。

2.BRICSの外交

BRICSは、外交の舞台では、ブロックになって急進的な発言、なかんずく「反帝国主義」のレトリックを使うことによって、国際社会を惑わしている。しかし、BRICSの本心は、先進国の仲間入り、あるいは補完物になろうとしている。決して、帝国主義・新自由主義と闘い、オルタナティブになろうとしているのではない。

また、BRICSの外交は一枚岩ではない。例えば、11−12年のIMF、世銀の総裁選挙、安保理常任理事国への立候補などでは、BRICS間は敵対した。安保理の常任理事国候補としてインド、ブラジル、南アフリカが立候補した。これに、常任理事国である中国とロシアが反対した。

また、09年、南アフリカのノーベル平和賞受賞者のツツ大司教の80歳の誕生パーティに、同じくノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマを招待した時、中国政府が、Nkozasana Dlamini-Zuma内相に、「ビザを発行しないように」と申し入れた。現在、内相が、「アフリカ連合(AU)」の議長であることを考えると、これは侮辱であった。

3.BRICSのアフリカ大陸への経済進出

アフリカの経済成長が目覚ましいことを誰も知らない。実は、世界で急成長を遂げている上位10カ国の内、サハラ以南のアフリカが7カ国いる。

アパルトヘイトが崩壊した94年、BRICSの対アフリカ貿易比率は5%であったのが、現在では20%に急増している。とくに中国の伸びは著しい。来る15年には、BRICSの対アフリカ貿易額は5,00億ドルに達し、その中で中国は60%を占めると予測される。この中で、重要なことは、GDPの成長率である。BRICSは、世界のGDPの成長率の半分以上を占める。

BRICSの首脳たちが強調するのは、5カ国が世界の人口の42%、GDPでは世界の5分の1、世界貿易では15%、外貨保有高では40%を占めるという点である。

しかし、BRICS間の貿易にも問題がある。

南アフリカを例にとると、中国との貿易は、しばしば、南アフリカ経済にとってマイナスになっている。安い中国製品が南アフリカの中小企業の破産を引き起こしている。それにもかかわらず、Marius Fransman副外相は、「南アフリカは、外国投資のアフリカ大陸への入り口(Gate Way)である。今後、10年間、アフリカは、インフラ整備に4,800億ドルを必要としている」と語った。このようなインフラ投資プログラムは、資源収奪を目指した非持続可能な開発である。
あまり知られていないことだが、南アフリカ企業の対アフリカ投資は、40%に上り、米国、EU、中国、インド、ブラジルの投資額を合わせたものより多い、ということである。これが、対「南部アフリカ共同体(SADC)」では、80%である。

中国のアフリカ進出は目覚ましいものがある。

Standard Bankによれば、中国とアフリカの貿易額は07以来2倍に増え、現在年間2,000億ドルに達しいている。投資額では200億ドルに上る。中国は、投資や融資に際して、西側のような構造統制プログラム、市場開放、民主化、汚職一掃などの条件を付けない。これが、アフリカ政府の歓迎を受ける理由である。

また、昨年中国は2億ドルのアジズアベバのAU本部の建設を支援した。さらに、中国はアフリカのインフラと製造業に2,000億ドルの融資を申し出た。

現在、アフリカに進出している中国企業は2,000社に上る。そのなかで、ザンビア、ニジェールで労働争議、スーダンとエジプトで誘拐事件、ナイジェリアとカメルーンで中国人経営者が殺された。中国政府はこれを「単なる理解の相違」だと片づけている。

習近平新主席は、ダーバン・サミットの前に、タンザニアとコンゴを訪問した。彼はタンザニアで、総額160億ドルに上る経済協力協定2件に署名した。さらに中国招商銀行が、160億ドルに上るBagamoro港の建設プロジェクト融資に署名した。

BRICSの対アフリカ投資は、必ずしも歓迎されていない。

ナイジェリアのLamido Sanusi中央銀行総裁は、3月11日の英紙『ファイナンシャル・タイムズ』に「中国はアフリカの工業化を遅らせ、低開発を助長している。中国は一次産品を収奪し、工業製品を売る。これは植民地主義と変わらない。アフリカにはBRICS5カ国に限らず、他の途上国も投資しているが、すべて自らの利益のためであって、アフリカの開発のためではない」と書いた。

中国をはじめ、BRICSのリーダーたちは、「亜帝国主義」という批判に怒った。中国の忠建華アフリカ特別大使は、『ロイター通信』に、「中国とアフリカは植民地支配と闘ってきたという共通の歴史がある。中国は、アフリカを侵略したことはない。これは中国の優位であり、欧米には不利である。中国政府は、企業に対して、アフリカ人労働者の雇用を増やし、訓練し、労働者の不満に耳を貸さねばならない」と言っている。

BRICSの対アフリカ投資は、市民社会から、原料資源の収奪、透明性の欠如、雇用増大につながらず、投資国に利益を還元しない、などの批判がある。これは、これまで先進国の企業に向けられてきた批判と同じだ。

10年度の統計では、アフリカ大陸にある20の大会社の中で、すでにAnglo American、De Beers、SA Breweries、Old Mutualなどの巨大会社が、アパルトヘイト以後、ロンドンに移転した後でも、南アフリカ系の企業が17社に上っている。

これらの企業は、新しい帝国主義だと非難され始めている。南アフリカのJeff Radebe法相によれば、アフリカでは、南アフリカの企業は、「現地の産業界、労働者、住民、そして政府に対してさえ、傲慢・不遜で、距離を置き、無視する態度をとっていると非難されている」と危惧を漏らした。

南アフリカ政府は、「新アフリカ開発パートナーシップ(NEPAD)」、「アフリカ・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)」、そして最近の「南アフリカ国家計画」などでもって、南アフリカの産業界のアフリカ投資を支援している。しかし、これらのプログラムは、ブッシュ大統領によって「哲学的」と褒められたが、実際にはほとんど失敗に終わっている。 

これらのプログラムを提唱したのは、南アフリカのムベキ前大統領であった。彼は、これらのプログラムを「アフリカのルネッサンス」と呼んで、自画自賛した。

アフリカ大陸では、中国、インド、ブラジルなどの企業が、南アフリカ、米国、ヨーロッパ、オーストラリア、カナダなどのこれまでの企業による富の収奪に参加している。そして、上記のプログラムは、鉱山、プランテーション、石油ガスなどの資源開発に不可欠な道路、鉄道、パイプライン、港湾など植民地時代のインフラを整備拡張することが目的である。

したがって、今回のBRICSのダーバン・サミットは、帝国主義列強がアフリカ分割を決めた「1885年ベルリン会議」の後続だと言えよう。

4.BRICS銀行の果たす役割

「アフリカ開発銀行」の設立によって、BRICSのアフリカでの企業間の資源開発をめぐる争いは激しくなるだろう。すでに、ブラジルのVale、Petrobras、南アフリカのAnglo-AmericanBHP、 Billiton(それぞれメルボルンとロンドンに本社がある)、SASOL、インドのTata、Arecelor-Mittal、CoalIndia Ltd、中国の国営企業のCNPC、SINOPEC、ロシアのGazprom、Lukioil、などが、進出先のアフリカで、労働者や住民と紛争を起こしている。

その例を挙げると、スイスのNGO「Public Eye」が、「ブラジルの巨大企業Vale社が、モザンビークで、数十億ドルの鉱山開発とインフラ投資をしているが、これは世界で類を見ないほどの環境破壊、人権侵害をしている」ことを暴露した。Vale社に対して、モザンビークの現地の住民が強制移住に抗議し、また労働者が賃上げを要求して、激しいデモを行った。Vale社のアフリカ担当のRicardo Saad取締役は、問題が起こっていることは認めたが、「新植民地主義と非難されるいわれはない」、「Vale社は、モザンビーク政府と契約を交わしている。不服があれば、政府にいってくれ」と語った。

ダーバンでのNGOの対抗集会「BRICS-From-Below」で、ロシアのBRICSアナリストAnna Ochkinaが、アフリカの市場を「ブラジルは農産物の売り込み、中国は安い労働による工業製品の売り込み、インドはハイテク産業の安い知識労働力の提供、ロシアは鉱産物、石油、ガスなどの売り込み、南アフリカは鉱産物の売り込み先と見なしている」と述べた。

旧植民地主義は地図に線を引いて、アフリカを分割して、領土とした。現在はアフリカは企業による市場分割になっている。これを「第2のアフリカ争奪」と呼んでいる。すでに、先進国が先乗りしているところに、新しくBRICSが参入しようとしている。BRICSの経済的規模を考えると、大きな影響力を及ぼすだろう。