世界の底流  
シカゴの工場占拠中の労働者が協同組合で自主管理

2012年4月15日
北沢洋子

  ウォール街で始まった占拠(Occupy)運動は、世界的規模で広がっているが、一方では、様々な異なった形態の占拠運動が起っている。
  その代表的な例として、3年前から工場を占拠している労働者たちが、今年3月3日、工場を協同組合方式で運営することになった。
  このニュースを聞いて、Occupy Chicago、ARISE、the Chicago Worker’s Collaborative、Jobs with Justice、Stand Up Chicago などシカゴのOccupy運動のメンバーたちが、ピザやテントを持って支援に駆けつけ、労働者が警察とスムーズに交渉できるように、工場の入り口を封鎖した。

(1)08年12月2日の第1回占拠

  Republic社はビニールの窓を製造する工場であった。ここの労働者260人の内200人は、United Electric Radio and Machine Workers (UE)Local 1110のメンバーだった。
  08年12月2日、会社は破産を突然宣告した。リーマン・ショックの3ヵ月後のことであった。Republic社の破産宣告は、250億ドルの公的救済資金を連邦政府から受取った直後であった。主要な取引銀行であるバンク・オブ・アメリカはRepublic社の手形を不渡りにした。
会社が労働者に対して解雇の言い渡したのは破産の当日であった。これは、労働者の解雇は50日前に予告しなければならないという法律に違反していた。退職金も支払われなかった。当時、米国内では月間50万人が解雇されていた。
  UE Local 1110、直ちに集会を開き、満場一致で闘うことを決議した。そして、工場の占拠がはじまった。この偉業は、米国全土の人びとを勇気付けた。
  世論に押されて、バンク・オブ・アメリカは、会社に買収先を探すための時間を与えることにした。そして、工場はSerious Energy 社に買収された。

(2)第2回占拠から協同組合で自主管理

  新しい所有者も操業を続ける意思はなかった。再び工場閉鎖を決定した。それは、今年の2月28日、事前の通告も退職金も支払わないという暴挙であった。UE Local 1110 は、直ちに工場占拠を始めた。この労組支部のLeah Fried委員長は、3年前には、占拠するのに6日間かかった。しかし今回は「24時間もかからなかった」と語った。あえてマスメディアを呼ぶ必要もなかった。というのは、占拠の模様がビデオに撮られ、インターネット上で、全米に流れた。
  このような状態の中で、Serious Energy社が90日間の猶予を発表した。
  Fried委員長は、ここ数年間、社会運動に変化が起こっている。人びとは「直接行動」戦術をとり始めている、と言っている。この間、UELocal 1110 のリーダーたちは、全国スピーチ行脚を行なった。また、自由な議論を売り物にしているケーブルテレビのGRITtvでは、「No Logo」を書いたNaomi Kleinやカナダのドキュメンタリーフィルム作家の Avi Lewsと対話をした。KleinとLewsはアルゼンチンでの工場占拠を撮影したドキュメンタリー・フィルム「Take 」を放映した。これは、単なる労働者の工場閉鎖に抗議して占拠するというだけでなく、シカゴの例と同じく、労働者自身がオーナーとなる、というケースであった。ブエノスアイレスの6人の男女が、「Desde el Pie(足の下)」という名の 靴の製造を協同組合方式ではじめた。やがて、これは30人の規模にまで発展した。ブエノスアイレスには、靴工場が多いが、労働者は1日15時間働かされ、残業代も支払われない、という過酷な労働条件のもとにあるが、協同組合のDesde el Pie では、すべての労働者全員が参加する総会ですべてを決めるという参加型民主主義をとっているので、労働者の搾取はない。日本の「ワーカーズ・コレクティブ」に似ている。
  そして、アイルランド、英国、フランスなどで、直接行動戦術による工場占拠と続く労働者の自主管理という直接行動が始まっている。

(3)労働者の直接行動

  シカゴの小さな工場で始まった実験は、「グランド・ゼロ」となるだろう。最初はリーマン・ショックの08年、労働者が工場を占拠したばかりでなく、その後の全国スピーチ行脚で、公的資金による救済融資のインチキを暴露した。この時期はオバマ大統領が選出された時期にあたった。オバマはRepublicの闘争を支持した。今回は、オバマ再選の年だが、労働者たちには、オバマ支持は要らないだろう。彼らは、労働者の協同組合方式で工場を経営していくだろう。