世界の底流  
BRICS銀行とは何か?

2012年4月13日
北沢洋子

1.BRICSサミットの「デリー宣言」

  米、日、ヨーロッパなどの先進国が経済不況から抜け出せないでいる今日、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国(BRICS)は、めざましい経済成長を遂げている。11年には、5カ国を合計したGDPは世界全体の約2割、総額13兆6,577億ドルに達した。今後10年間には、倍増するとの予想がある。その場合、BRICSのGNP総額は、米国、EUを上回るだろう。
  BRICSは、国際社会でこのような実力に見合う発言権を得たいと考えている。そのBRICSの首脳たちが、今年3月29日、インドのニューデリーでサミットを開催した。ここで採択された「デリー宣言」の中に、「BRICS銀行の設立を検討する」という文言があった。

2.BRICS銀行設立の呼びかけ

  BRICS銀行は、これまで先進国主導による途上国の開発に融資してきた世銀の枠組みに対抗するもので、途上国の開発を支援する「開発銀行」である。BRICS銀行は、BRICSなどの新興国やその他の途上国に対して、道路などのインフラ整備の資金を貸し出す。「デリー宣言」では、今後1年間で、蔵相を中心とした会合を開き、設立についての検討を行い、その結果を来年のBRICSサミットに報告することになった。
  これまで、新興国、途上国ともに、債務危機に際して、IMF・世銀による構造調整プログラムに苦しめられてきた。2000年には、重債務貧困国の債務を帳消しにするというジュビリー・キャンペーンが起った。一方、2005年末から、ブラジルなどの新興国は、IMFに対する債務を前倒して返済した。いずれも、IMF・世銀が押し付けた構造調整プログラムからの解放をめざした。
  2008年のリーマン・ショック以来、先進国8カ国(G8)のサミットの外に、BRICSを含む20カ国(G20)のサミットが開かれるようになった。
  ヨーロッパ、とくにユーロ圏17カ国では、政府の債務危機に陥った。そのための「安全網」となる「ヨーロッパ金融安定化基金(EFSF)」や、IMFの出資増のための資金をBRICSに求める始末であった。
  これに対して、BRICS側は、IMF・世銀での発言権の拡大を求める一方、経済成長に伴って、蓄積した豊富なドル建て外貨で、自ら開発銀行を設立しようとしている。

3.BRICSの誕生

  2009年、ヨーロッパや米国が経済不況に陥った頃、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国が首脳会議(サミット)を開いた。これが、新しい時代の始まりの兆候であった。昨年には、アフリカ大陸のマーケットと資源に興味を持っている中国が南アフリカを加えることを主張し、BRICS5カ国となった。
  BRICSは、最近、成長にかげりが出てきたとはいえ、依然として、世界で最大の経済成長を遂げており、また個々の国はグローバルな影響力を持っている。しかし、BRICSはブロックとして、地政学的な同盟を維持するには、相当の努力が要る。まず共通の目的で一致し、同時に、共通の行動で合意しなければならない。
  例えば、BRICSは、ブロック内の貿易を増やし、また世界の多極化を求めるならば、まず、相互のライバル争いや紛争を解決しなければならない。例えば、インドは中国がインド企業に対して、貿易、資本投資、金融などの市場を充分に開放していないと、不満を述べている。
  BRICSは、政治体制も異なっている。ブラジル、インド、南アフリカの3カ国は民主主義の国であり、独自に3極同盟を結んでいる。一方では、ロシアはプーチンの独裁政治に変容しつつあり、中国は共産党独裁下にある。
  BRICSの内部対立の例には、ダライ・ラマ問題がある。またイランの核開発をめぐって、5カ国の歩調は一致していない。国連安保理の常任理事国にインドが立候補しているが、中国に妨害されている。
  世銀の総裁の選出を巡って、BRICSは統一候補を出せなかった。BRICSに共通した目的は、先進国主導の「国際金融システム」の改革である。そのため、BRICSは、設立以来、世銀に対抗する独自の開発銀行の創設を議論してきた。その議論は、ともすれば、その開発銀行の中で、中国が支配することになるのではないかという疑いによって妨げられている。中国は、世界1の外貨保有を抱え、ドル支配を脱却して、「人民元」を世界の基軸通貨にしようとしている。これについても、BRICSの中に中国を警戒する雰囲気がある。