世界の底流  
シカゴ教員スト

2012年9月26日
北沢洋子


1.シカゴで30年振りの教員スト

 70年代、ベトナム反戦時代、ソカゴでJames Weinstein が創設した米国のミニコミ週刊誌「In These Times」は健在で、現在Web Siteに載せている。ダニエル・エルスバーグやノーム・チョムスキーなどが協力した。現在、精力的にシカゴの教員ストを報告している。

 9月10日(日)朝、シカゴ市内で貧困層の多くが住んでいるサウスサイドにあるWilliam H. Ray小学校のすべての入り口で、シカゴ教員組合(CTU)のメンバーがピケをし、ストに入った。しかし、ピケに加わったのはCTUだけではなかった。生徒、そして彼らの両親、この地域の住民たちなどが加わった。
 シカゴCTUは米国で最初に生まれた教員組合であった。現在、シカゴ支部には29,000人が加盟している。ここでのストは25年振りのことだった。そして、ストに入ったCTUのメンバーは、ドラムを叩いたり、ドーナツを頬ばったり、また道行く車のドライバーに手を振ったりしていた。とくに市のごみトラックのドライバーたちは、連帯のしるしにクラクションを鳴らして通り過ぎた。ストのメンバーたちが歌っていたのは、「嘘もトリックも親と教員を対立させることが出来ない」という歌だった。
 CTUは、これまで1年近く、労働契約について市当局と交渉を続けてきた。いくらかの前進が見られたが、CTUが要求した主要な項目は拒否された。それで、ストの前日の日曜日の夜、CTUのリーダーたちはストに入ることを決めた。
 CTUのKaren Lewis委員長は、シカゴ公立学校(CPS)が「健康保険制度をやめる、廃校とチャータースクールの開校が進む中で雇用を保障しない」と言ったことを公表した。チャータースクールとは、公的資金で、教師、親、地域住民とで学校を運営するのだが、CTUは、組合活動が禁じられていることに反対している。また、CTUは、生徒のテストの結果だけを見て教師の評価する制度の導入にも反対している。
 またLewis 委員長は、今年CPSが導入した残業手当を含めて、賃金については、労使ともにあまり対立はないと述べた。しかし使用者側に意見の相違が見られる。例えばEmanuelシカゴ市長は、組合に対して、向こう4年間に16%の賃上げを提示したというが、Vitale CPS理事長は初年度に2%、その翌年から3年間に年3%の賃上げをすると言う。
 CTUが要求している重要な項目は、賃上げではない。それは、「企業型の改革アジェンダ」と呼ばれ新しい制度である。それは、教員に対して「協調的」ではなく「競争的、あるいは懲罰的な関係」を強要することである。例を挙げれば、学業の遅れを教員や組合のせいにする、私立だが資金面では公費で賄うチャータースクールを促進する、テスト重視、あるいは、社会保障費を削るなどである。
 CTUが要求しているのは、小規模な学級、カリキュラムの向上、設備と施設の改善、公正で十分な資金の供与、カウンセラーとサポートスタッフの増員、地域のインフラ設備に回された資金(Tax Increment Financing ―TIF))の返還、さらに教師の職業に対する尊敬、学校における教員の発言権の拡大などである。
 これらの点で、CTUは、学校当局、市長、そしてオバマ大統領のAene Duncan 教育長官とも対立している。DuncanはDaley前市長時代の教育局長だったときに「企業型の改革アジェンダ」を発案した。組合が強く反対しているのは、そのような「改革」である。ちなみに、全国教員組合は、不本意だが、以下後CTUを支持している。
 残念なことに、市長やチャータースクールなどが振り撒くデマを跳ね除けることが出来ない。何が正しくて、なぜ要求しているかについて、明確に説明していない。
 イリノイ州の新条例では、教員組合は賃銀以外の政策面について、交渉することを禁じている。エマニュエル市長は教員の中で不評判である。これが、UNITE-HEREのような大きい労組の支持を得た原因である。U−Hは、第3次産業の労働者を組織する組合で、2004年に合併して出来た。例えば、学校給食で働く人びともCTUのピケに参加した。
 エマヌエル市長は、ストのことを不必要で、歓迎されない、間違っている、そして、「ストはChoice(必要性のない)だ」と言った。CTUには賃上げなど教師の生活上必要に迫られた項目でしかストは許せない、と語った。
 これは、まさに市長に返したいセリフだ。民主党員の市長は、教師に対して、悪口を言ったり、無礼な態度をとったり、教員に相談せずに重要な変更を一方的に押し付けたり、また、公立学校を敵視したりすることから、CTUはストが「Choice」 であるのは当然だと、教師の1人は言った。そして、教師とCTUは、逆に、学校の理事会の選出、長い勤務時間の導入、カリキュラムの作成、山のようなテストについて、Choice することが出来ない。これこそ、CTUがChoiceしたいところだ。学校の理事会は、ホテルのオーナーPenny Prizkerなど大金持ちで占められている。そのほとんどはTIFの受益者である。彼らは、学校の予算をインフラ投資に横流しをしている。そして彼らの子どもたちは、公立学校でなく、高い授業料の私立学校に通っている。
 シカゴの教員ストに対して、市当局は、3分の1の教員を契約解除(解雇)すると言っている。それは、全国的にもあてはまるが、標準化されたテストの結果でもって、教師を評価するシステムである。これは、機械的にテストだけが評価の基準となる。これには、教師の意見は入れられない。
 テストを受ける生徒が置かれている家、コミュニティ、そして、学級といった生徒を取り巻く環境を考慮していない。生徒がお腹をすかせて、草臥れて、怯えて、そして親が家を追われる度に転校する、家で予習する暇もなく学校に来る場合、テストが役にたつだろうか。教師たちはこのように問い質している。
 また生徒をテスト漬けにすることは。機械的に暗記と反復に頼ることになり、教育に重要な要素である想像力の力を奪ってしまう。これは民主主義にとって、危険な兆候である。
 シカゴの教員たちがあえて民主党の市長に対して、ストをはじめたのは、まさにこの点なのだ。市長は、先の選挙の際、チャータースクールの公的資金から横流ししたカネを受け取ったと言われている。
 シカゴの教員のストは、「Occupy 」運動の延長そしてとらえられている。