世界の底流  
ソマリア問題のロンドン会議

2012年4月
北沢洋子

 今年2月23日、英国政府の招集により、ロンドンでソマリア問題の国際会議が開かれた。この会議は、主として「国際ソマリア・コンタクト・グループ(International Somalia Contact Group−IGC)」と「ソマリア沖の海賊問題についてのコンタクト・グループ( Contact Group on Piracy off the Coast of Somalia−CGPCS)」のメンバーなどが参加した。IGCは2006年、国連によって設立され、米国、ノルウエイ、イタリア、スエーデン、タンザニア、英国などがメンバーであり、それにEU、AU,アラブ連盟、国連などの国際機関が参加している。
 ソマリアは、典型的な「失敗国家」である。1991年に内戦が勃発して以来、無政府状態にある。全土を実行支配する中央政府、国会、裁判所など基本的な国家機構が存在しない。
 また統一した領土もない。北東部の「プントランド」は油田があるので、1998年以来「独立国」を宣言している。1991年以来、旧英領の「ソマリランド」は独立国になっている。中央部は「シャバブ」と称するイスラム勢力が支配している。国連が設立した「暫定連邦政権(TFG)」はケニアと国境を接する南部と首都モガディシオを押さえているに過ぎない。
 1993年、クリントン政権の時代、国際的なマスメディの大群を従えて、米海兵隊がモガディシオに侵攻したが、失敗した。海兵隊8人が戦死し、その中の1人の死体が町中を引きずりまわされるという事件が起こった。これは米国にとって「ソマリアのトラウマ」となった。
 今回のロンドン会議もまた、これまでの国際会議と同様、ソマリア内戦の根源と20年に及ぶ統一政府がないことの原因を議論することがなかった。つまり、会議は失敗に終わったのである。
 ロンドン会議に招待されたソマリアの代表のリストも問題であった。国内でいくらか発言力をもっている人は呼ばれなかった。そしてエチオピア軍占領時代の国会議長で、その後追放された悪名高いSharif Hassan Sheikh Adan が登場した時には、みなが驚いた。
 会議のコミュニケには、長期の戦略ではなく、当面の政策が羅列されているにすぎない。しかも、このコミュニケは会議が始まる前に記者発表された。つまり、ソマリア社会の意見はおろか、Mary Robinson のような人権擁護では国際的なリーダーたちにも相談していない。また、AMIOMよりソマリア軍への資金の配分を主張しているジブチのIsmail Omar Ghelle 大統領も呼ばれていなかった。
 しかも、英国は、会議の外でAMISOMの資金の増額について述べた。さらに、2月22日には、国連安保理でAMISOM12,000人を17,781人に増やすことを対案し、決議した。これで年間の経費は5億5,000万ドルにのぼる。
 コミュニケには、いくつかの緊急な課題について故意に触れていない。たとえば、ソマリアの領土の統一問題や、ソマリア海岸での不法漁業、有害廃棄物の投棄などについても、触れていない。また、AMISOMによる民間人への攻撃、あるいは、エチオピア軍による度重なるソマリア侵入事件などにも触れていない。

コミュニケの要約は次の通り。

(1)UNPOS

 「ソマリア国連政治局(UNPOS)」は、評判が悪い。にもかかわらず、内戦、分離主義、社会的不安定、そして外国の干渉などが蔓延している中で、UNPOSに憲法策定の権限を与えている。とくにスイスは「連邦国家」案を推進しているが、状況判断が間違っている。

(2)現在の暫定連邦政府(TFG)

 暫定連邦政府の任期を2012年8月20日までとする。しかし、コミュニケには、その後の政治機構についての記述はない。

(3)国家建設のプロセス

 国家的レベルと地方的レベルでの並行した復興に取り組む。しかし、国家と地方との関係は明らかでない。

(4)「新安定化基金」の創設

 この基金で、地方の復興に取り組む。先に釜山で開かれたG20サミットで採択された「脆弱な国家」の地方の復興に対する資金援助を行なう。

(5)ソマリアランドの独立問題

 ソマリアランド(旧英領)は、ソマリアに属しておらず、また暫定連邦政府の支配地域ではないことを再確認する。これから3年間、ソマリアランドは、英国政府から1億500万ポンドの開発援助を受ける。

(6)これまでの合意の尊重

 例えば、2008年6月、「ジブチ協定」では、暫定連邦政府と反対勢力との間の休戦に合意した。このほか、「カンパラ合意」「ロードマップ」「Garowe 原則I・II」などを挙げている。しかし、これらは、「暫定連邦憲章」に違反しており、真の政治プロセスを妨害している問題の協定である。

(7)「合同金融管理理事会(JFMB)」の新設

 これもまた、暫定連邦憲章に違反する。JFMBは外国人であるので、透明性、説明責任がない。フランス、英国、EU、世銀が当面のメンバーとなる。暫定政府の首相、蔵相が暫定連邦政府を代表して、JFMBに参加する。これもまた。暫定連邦憲章に違反しており、ソマリア政府の大蔵省、監査総長、中央銀行の機能を奪っている。

(8)地域海運能力の向上

 これはセイシェルズに本部を置く。しかし、ソマリア人はこのイニシアティブについて、何も知らされていない。これは、ヨーロッパの海運能力の向上である。

(9)地域レベルの反海賊捜査能力の向上

 8に同じく、セイシャルズに本部を置く。ソマリア人ではなくヨーロッパの船舶が恩恵に浴する。

(10)金融行動タスク・フォース

 内容は、資金洗浄やテロ資金を捜査する。健全な中央政府の存在なしに、捜査を強行すれば、民間人が犠牲になる恐れがある。

(11)グローバル・テロ対策フォーラムとの協力

(12)モガデシュオ復興・安定計画の実施

(13)ジブチ行動計画、及び排他的経済ゾーン(EEZ)の実施

 ソマリアのような失敗国家には、11、12、13のような計画を実施する能力がない。したがってこれらは絵に描いた餅のようなものである。

(14)「支援国のコア・グループ」の設立

 国連、AU、「政府間開発機構(IGAD)」に協力する。
以上見たところ、ロンドン会議はソマリアの統治能力の向上、領土の統一など開発政策の主体の育成に国際的に協力することなしに、あまりにも多くの項目を優先順位なしに並べている。これは、明らかにソマリアの主権の侵害であり、ソマリアの発展を妨害する。