1.ギリシャの総選挙
6月17日、ギリシャで2回目の総選挙が行なわれた。その結果は、新民主主義党(ND)が第1党になった。前評判では、第1党と見られていた急進左翼進歩連合(SYRIZA)が第2位になった。全ギリシャ社会主義運動(PASOK)が第3位となった。
ギリシャの議会選挙のルールとして、親緊縮派のNDは128議席、SYRIZAは72議席にとどまった。しかし、得票率で見るとNDとSYRIZAとは、ND29.5%、SYRIZAは27.1%と僅差であった。そして、最近まで政権の座にあり、緊縮政策を推進してきた中道左派のPASOKは12.3%、33議席、第3位に留まった。
組閣は、第1党のNDと第3党のPASOKの連立になったので、ユーロ圏加盟国政府、金融界は、緊縮政策に賛成な政府が誕生したことに、ひとまず安堵したようだ。
ギリシャの選挙ルールで、第1党にボーナスが付くので、第2党のSYRIZAとの差は大きく見えるが、投票率では僅差でNDに迫り、さらに投票日の前日まで、SYRIZAが第1党という下馬評もあった。これらのことは、EU、ヨーロッパ中央銀行、IMFのトリオの「緊縮政策」を脅かすものである。
2.アレクシス・チプラス党首のSYRIZA
急進左派の連合体であるSYRIZAは2004年に結成された。これは「緑の党左派」をはじめ、社会民主主義、コミュニスト左派、ユーロ・コミュニスト、毛派コミュニスト、トロッキスト、アナーキストなど左翼13団体プラス無所属政治家などの寄り集まりである。中には、商店や銀行の破壊、警官への投石など暴力行為を行う者もいた。
SYRIZAは過去3回の総選挙に参加したが、せいぜい13議席ぐらいにとどまっていた。今回支持が多かったのは、「緊縮政策反対」の旗を高く掲げたことと、その党首アレクシス・チプラスの若さと人気の所為だろう。
ロイター通信によると、「歯切れのよい弁舌」「巧みな戦術」「細身に短髪」「37歳という若さ」「ノー・ネクタイ」「I padやスマートフォンを駆使」などにより、ギリシャの若者の怒りの代弁者として、「熱狂的な支持を得た」と報じた。彼は、CNNのインタービューに、「マダム・メルケルは、緊縮政策を強いることで、ユーロ諸国を地獄に落とそうとしている」と真っ向から批判した。ロイター通信はこの記事に「セクシー・アレクシー」という見出しをつけた。
チプラス党首が国際メディアの注目を集めるようになったのは、今回の第1回投票で、PASOKを破って、2位に躍進した後である。
3.SYRIZAの選挙綱領
「危機からの出口」
1.ギリシャ社会を危機から守る盾の創造
すべての市民に、最低収入、失業手当、医療保険、社会保障、住宅、公共サービスを保証すること。
債務に苦しむ家族を救済すること。
物価を安定し、物価を引き下げること。付加価値税(VAT)を引き下げること。最低日用品へのVATを廃止すること。
2.国家の債務の処理
公的債務は、階級関係の産物であり、本質において非人道的である。債務は金持ちの脱税、国家資金の簒奪、過重な兵器の調達によって、生み出された。
ただちに債務返済をモラトリアムに。
社会保障・サービス資金を確保し、債務の検査を行なった上で、債務救済交渉に臨むこと。
残りの債務返済に当たって、経済開発、雇用の資金を確保すること。
ヨーロッパ諸国の債務につての規制。
ヨーロッパ中央銀行の根本的な改革。
銀行の投機的行為を禁止すること。
ヨーロッパ域内の金持ちの課税、金融取引、利潤の規制。
3.所得の再分配、金持ちの課税、不必要な消費を止めること。
徴税メカニズムの再編、確保。
100万ユーロ以上の財産と過大な収入に対する課税。
法人の利潤に対する課税を45%まで段階的に引き上げること。
金融取引に対する課税。
ぜいたく品に対する特別な課税。
船主とギリシャ正教会に対する税免除を廃止すること。
銀行や商店の取引きの公開、脱税と社会保障への不参加を止めさせること。
オフショア銀行の金融取引きを規制すること。
第2次世界大戦のドイツの賠償金などによるヨーロッパの基金などを洗い出すこと。
軍事支出を減らすこと。
4.生産的・社会的・環境保全の復興。
銀行の国有化、あるいは公的所有にすること。開発を促進するために、銀行を労働者管理にする。
スキャンダルまみれの銀行への資金投与を即時停止
これまで民営化された戦略的に重要な企業の国有化。国有企業の運営は透明性、社会的管理、民主的な計画に基づいて行なう。
公共財に対する支援。
協同組合、中小企業の保護と健全化
エネルギー、製造業、ツーリズム、農業部門などのエコロジカルな移行を優先する。
科学的研究と生産的な応用を開発。
5.充分な給料と社会保障のある安定的な雇用
労働権の絶え間のない悪化と安い給料は、投資、開発、雇用を生まない。
代案として、以下のことを要求する。
充分な給料、規制のある、保証された雇用。
最低賃金の即時制定と3年以内に実質賃金の制定。
団体労働権の即時制定。
雇用を守る強力な管理メカニズムの導入。
レイ・オフや労組関係の悪化に反対すること。
6.民主主義の深化。
すべての人に、民主的な政治・社会権を。
ギリシャには民主主義が不足している。ギリシャは強権てきな警察国家に変容している。
人民の主権の回復と、政治制度としての議会の強化。
均衡のとれた選挙制度の確立。
諸権力の分離。
閣僚の特権は廃止。
議員に対する経済的特権の廃止。
充分な資金を伴った地方政府を確立した地方分権化。
直接民主主義の導入と労働者による自主管理の確立。
政治的、経済的な腐敗に対する制裁。
民主的、政治的、および労組の権利の確立。
家族、職場、公共機関における女性と青年の権利の強化。
移民労働の改革。
亡命制度の早期確立。
(亡命についての)ダブリンII条約の廃止と移民労働者に対する旅行許可証の配布。
移民の社会的統合と平等な権利の保護。
公務員の積極的な参加をもって公共機関の民主的改革。
警察と沿岸警備隊の非軍事化と民主化。
特殊部隊の解体。
7.福祉国家への復帰
(トリオによる)反保険法や社会サービスの廃止、社会部門の予算支出の急激な低下などが、かつて福祉国家であったギリシャを変容させた。
年金制度の即時回復
現在、3者負担システム、および別々の年金基金になっているのを、統一した、普遍的な社保証制度に代えていく。
失業保険の給付を給料の80%に引き上げる。すべての失業者に失業保険を給付。
最低収入の保証
社会的に弱い人びとに総合的な社会保障を確立する。
8.健康は公共財であり、社会的な権利である
健康保険は無料であること。
健康保険は公共健康システムによる支出でもって賄われる。
病院の支援と改善。
社会保険機構(IKA)の健康部門のインフラを改善すること。
病気治療を第1位にまで向上させること。
レイ・オフの禁止によって人的、物質的に治療の向上をはかる。
ギリシャ国内に住むすべてにオープンな無料の治療を。
低所得の年金生活者、失業者、学生、慢性の病人などに無料の薬と治療を。
9.「メモランダム(トリオによる緊縮政策)」から、公共教育、研究、文化、
スポーツを守ること
普遍的な、無料の公教育の確立。
14歳までの義務教育。
Diamantopoulou法の廃止。
大学の自治の確立。大学のアカデミックな、かつ公的性格を維持。
10.自立した外交政策
EUの中の大国と米国に従属した外交を辞め、独立、平和、安全保障を確立する。
多角的な、平和外交。
NATOからの脱退。外国軍事基地の撤退。
イスラエルとの軍事協力を辞める
キプロスの人びとの国家統一を支援する。
国際法と紛争の平和的解決の原則に基づいて、ギリシャ・トルコ関係の改善に努力する。 |