世界の底流  
イランの核開発をめぐるオバマ政権と米議会の攻防

2012年8月4日
北沢洋子

 ワシントンにある外交政策のリベラルなシンクタンクである「Foreign Policy in Focus」に6月13日に掲載されたStephen Zunesの論文によれば、議会はイラン問題で与野党を問わずタカ派で、軍事攻撃についての決議を採択した、という。

1.米議会568号決議を採択

 6月13日、米下院は、401対11という超党派・圧倒的多数で、イラン問題についての決議「HR568号修正案」を採択した。これは、オバマ大統領に対して「イラン封じ込め」政策を許さない、つまり、「イランに対する軍事攻撃以外の選択肢を採ってはならない」という意味であった。

 すでに5月11日、米下院は「米国・イラン間のいかなる外交交渉も禁止する」という法案を採択した。これも超党派で圧倒的多数の賛成票で採択された。今回は、それに対して一段とエスカレートした修正案であった。

 米下院の第568号修正決議は、対イラン戦争、または軍事力の行使以外の政策は受け入れられない、とするものであった。これは、米国とEUが進行させているイランとの外交交渉の妨害を目的としている。

同時に、議会は、イランに対して、「オバマ大統領は脆弱な政権であり、国内では孤立しており、交渉のテーブルにつくことが出来ない」、「なぜなら、タカ派の議会が大統領の政策を否決することが出来る」というメッセージを伝えたのであった。

2.「核兵器能力」をめぐって

 しかし、下院決議は、同時に、イランに対して、「核兵器の保有」、あるいは「核兵器開発プラグラム」ではなく、「核兵器能力」の放棄を要求している。これは、イランに対する要求のトーンをいささか弱めている。

 この決議の「能力」という言葉を巡って、議会の中でも超保守派議員たちは、「イランはすでに核兵器開発の技術をもっているのだから、すでにイランは「核兵器能力」を保有していると主張した。コネチカット州選出の無所属超タカ派のリーバーマン上院議員は、「能力の定義は人それぞれの解釈による」といった。

 ハト派のケンタッキー州選出の共和党ポール上院議員は、568号決議は、「対イラン戦争宣言、あるいは軍事力の行使を意味しない」という修正案を提出したが、あっさり超党派で否決された。

 パウエル元国務長官の参謀総長であったウィルキンソン大佐は、「この決議は、イラク戦争に突入したときに演奏したのと同じ楽譜だ」といった。

 リベラルなシオニスト・グループ「Americans for Peace Now」は、568決議を、「イランに対する制裁が功をあげず、イランが自発的に核開発プログラムを放棄せず、科学者の頭脳から記憶を取り去らなければ、オバマ政権にとって、軍事力だけが唯一の選択肢になるだろう」と書いている。

 下院の決議は法的拘束力を持っていない。しかし、オバマ大津領にとって、これは大統領のイラン政策を限定するものである。

3.オバマ大統領に対するタカ派の圧力

 2008年、オバマ大統領は「イラクからの撤退」を公約に当選した。彼は、イラクからの撤退の公約を果たしただけでなく、中東の石油政策を切り替えると約束した。

オバマの非軍事外交に対して、このように議会が猛然と法律を制定してまで、束縛しようとするのは、はじめてのことであった。キューバ・ミサイル危機に際して、議会はケネディ大統領を、議会決議でもって軍事力の行使を強制することはなかった。

最近、大陸間弾道ミサイルという運搬手段を持たない途上国が小規模の核兵器を持ち始めた。一方では、米国の軍事力の抑止力を認めないネオコンの「先制攻撃」戦略が台頭している。これが議会の超党派多数の決議につながることは、危険な兆候である。

 その上、イランに対しては、イスラエルが先制攻撃を強行しようとしている。

 イランは、地政学上イラクとアフガニスタンに国境を接している。この2つの国は今世紀に入って、米国が侵略した国々であり、アフガニスタンでは、戦闘が終わっていない。