世界の底流  
IMF・世銀東京年次総会について

2012年10月23日
北沢洋子

1. 年次総会の議題

  10月9〜14日、東京で、IMF・世銀年次合同総会は、ユーロ圏の公的債務危機が深刻化する中で開かれた。@ 当然のことながら、公的債務問題は、今年の年次総会の主要なテーマであった。
  一方、タイムリーなことに、世銀がその看板文書、『世界開発報告』を発表した。今年のテーマは「雇用」であった。したがって、A 雇用問題は年次総会のもう一つの重要な議論のトピックになった。また、B 世銀の新しいキム総裁の蔵相会議での基調報告に関心が集まった。彼が世銀の改革について、どのような包括的な具体策を提起するかについてであった。
  IMFについては、ユーロ圏の公的債務危機において、IMFが「トリオ」、すなわちヨーロッパ中央銀行(ECB)、ヨーロッパ委員会(EC)のジュニア―・パートナーとして果たした役割について議論された。とくに、債務危機国を救済することに失敗し、経済危機、社会危機をさらに悪化させたという状況がある。
  IMFは、その能力以上の役割を果たそうとしている。最近、IMFのベテラン・スタッフの1人が「自分がはたした役割を後悔している」として、辞職した。英『エコノミスト』誌や『ファイナンシャル・タイムズ』紙などは、IMFは、トリオの積極的な参加者であるのではなく、「助言者」の役割に徹するべきだと書いている。
  IMFのスタッフと加盟国の蔵相たちが、「引き出し権」と「ガバナンス」について、折り合おうと努力したことは確かだ。なぜなら、IMFの機構改革は、2010年10月までに実施することになっていたからだ。
  新興国のBRICS(ブラジル・ロシア、インド、中国、南アフリカ)などは、IMFへの出資を劇的に増やしている。同時に、IMFは、融資額を劇的に増加している。BRICSは、IMFのガバナンス機構は、先進国、特にヨーロッパに偏重していることにある、と言う。途上国により多くの発言の機会と投票権もっとよこせと主張している。
  問題はIMFで最大の投票権を持つ米国の動向である。IMFの改革案は、米議会の承認を必要としている。そして、米議会は、大統領選中には機能しない。したがって、東京総会の廊下や理事会などで、代表たちが走り回り、ひそひそ話で忙しがっていたが、結局、米国の大統領選挙以後に見送られた。

2.世銀の開発委員会の議論

   10月1日に発表された、世銀の年刊『世界開発レポート』は、「雇用」を主要な議題にとりあげた。毎年、発表される報告書の中で、今年のは、もっとも包括的、かつ詳細な分析をしている。
  労働組合と市民社会は、報告書のなかのいくつかのメッセージ、すなわち「良い雇用(Good Jobs」と規定しているところを新著運だが評価している。ちなみに、国連では、これを「尊厳のある仕事(Decent Jobs)」と呼んでいる。
  しかし、言うは易く、実行は難しい。たとえば、世銀は、労働市場の規制緩和をすれば、雇用が増えるというが、これまでその証拠はない。
  また、私企業への融資を行う世銀の姉妹機関「国際金融公社(IFC)」が出した「ビジネスは続く(Doing Business Report)報告書」の結論に議論が集中した。結論としては、IFCの「雇用に対するアプローチや、労働市場の規制緩和」については、否決された。
  総会における世銀の正式な議論の場は「開発委員会(Development Committee)」である。ここでは、「土地の略奪」と「食糧価格」問題が議題から抜けてしまった。しかし、そもそも、世銀の「世界開発報告書」には、今年の食糧価格の急騰は記録的だと書いてある。この問題は世界のもっとも貧しい人びとにとって基本的な関心である。NGOのなかには、「世銀の融資による土地の取引を6ヵ月モラトリアムにせよ」というキャンペーンをはじめている。なぜなら、世銀が融資する場合、巨額なプロジェクトになるからである。
  また、IFCの鉱山開発に融資の問題も議論されなかった。最近では、IFC融資の鉱山で、
労働者の激しい抗議デモが起こっていることを忘れてはならない。

3.IMFの国際通貨金融委員会(IMFC)について

  これは、IMFの最も重要な議論の場である。にもかかわらず、IMFのスタッフは、問題の内容について議論出来なくしてしまった。たとえば、事前に用意された議案には、「成長」問題が全く抜けていた。これは、IMFC内で、激しい議論を呼び起こした。
  IMFは、年次総会に向けて、「世界経済展望(World Economic Outlook)」を発表した。ここでは、財政の"健全化"と緊縮政策がその国の「成長」にネガティブな影響を及ぼしていることを過小評価していた。 IMFでは、最も熱く議論されたのは、経済予測の誤りであった。
また、同じく問題になったのは、IMFの資本規制であった。これについても、スタッフにより、削除されていたので、議論は深まらなかった。

 結論から言えば、IMF・世銀の東京総会は、世界中の蔵相、中央銀行総裁、政府代表、ジャーナリスト、銀行家たち、市民社会組織を2万人も集めて、8日間もかけて議論したにしては、内容のない会議であった。中でもIMF・世銀がこれから仕事をどのように遂行するのかについては、全く具体性に欠いている。