世界の底流  
IMFと雇用問題

2012年10月6日
北沢洋子

 IMFは、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、イタリア、スペインなど債務危機国家に対して緊縮プログラムを押し付けている。しかし、この緊縮プログラムが、不況を長引かせ、失業を増大させていることは、明らかである。 
  最近になって、ようやく、IMFは緊縮プログラムが労働市場にネガティブな結果をもたらしていることを認識したようだ。しかし、IMFは、言っていることと、実際にやっていることとは、ずいぶん違う。
  今年6月、リオデジャネイロで開かれた「RIO+20」サミットにおいて、ラガルド専務理事は、首脳たちに「環境危機、経済危機、社会危機」というトリプル危機を克服するための戦略として、「雇用問題と取り組むことを最優先する」ことを呼びかけた。
  このIMFの政策の変化について、152カ国、1億7,500万の労働者が加盟している「国際労働組合総連合(ITUC)」の4月の報告書に書かれている。報告書には、IMは「労働市場の規制緩和が失業を増大させたことを公式には認めているが、実際の行動では、旧来の政策を全く変えていない」と述べている。
  また、同報告書によると、2010年、オスロで、IMFは、国際労働機構(ILO)と共同で会議を開いた。この会議で、IMFは、「たとえ一時的な現象であっても、失業は長期間、経済、社会にネガティブな影響を及ぼす」また「労働者の団体交渉に対する支援、労働時間の短縮、失業手当の改善、賃金に対する補助金、あるいは賃金の税控除」といったプログラムを提案した。
  このようなプログラムは失業を減らすことに効果がある。しかし、ITUCの報告書によると、「EUの債務危機に対するIMFの救済融資の条件には、オスロでIMFが提案したプログラムは全く入っていない」。IMFのプログラムには「経済の競争力」や「財政赤字の解消」などが優先課題になっている。まさにこれは、緊縮政策である。
  ギリシャを例にとると、今年3月にギリシャに1,300億ユーロの融資が決まったが、その中で、IMFの融資は280億ユーロに上る。この融資の条件には、2010〜2015年間に公務員を15万人解雇することが入っている。これは、公務員総数の22%に上る。また、IMFの条件には、最低賃金を12年1月の水準から22%を引き下げることが入っている。 ITUCの報告書には、ギリシャに対する過去2年間のIMFの融資の結果、失業者が2倍に増えた。2010年第1四半期には、10%だったギリシャの失業率は、2012年第1四半期には21%に増えた。一方では、失業手当や年金も減額した。
 IMFの緊縮プログラムは各方面から批判されている。今年5月、ルーマニア政府は、世論に押されて、IMFと再交渉した。その結果、公務員の賃金を、2010年の水準から25%賃下げることが条件だったが、それをもとに戻すことに成功した。