世界の底流  
「リオ+20」の「グリーン経済」

2012年4月4日
北沢洋子

  今年6月20〜22日の2日間、ブラジルのリオデジャネイロで、120人を超える国家元首が集まる「国連持続可能な開発サミット(リオ+20)」が開催される。これは、1992年、同じくリオで開かれた歴史的な「地球サミット」で採択された「アジェンダ21」の20年間の検証が行なわれる筈である。

1.米国などが最も基本的な権利に反対
  
  しかし、市民社会には、リオ+20について悲観的な見方が多い。これが大統領や首相たちの大法螺祭典に終わると見ている。サミットの準備会議に結成された「NGO連合」は、OXFAMインターナショナル、グリーンピース、国際労働組合総連合(ITUC)、Council for Canadians、CIVICUS、「共通の将来のためのヨーロッパ女性」など、67カ国、400の国際NGOが参加している。
  その中のOXFAM英国のTim Gore は、「この会議には、限られた地球の資産と環境の中で、最も貧しい人びとのニーズを満たすグローバルな経済を再構築するためのビジョンとリーダーシップが必要だ。しかし、そのような指導者は1人もいない」と語った。
  しかし、リオ+20サミットに政治的リーダーシップがないばかりでない。すでに準備会議の段階で、サミットで採択される「行動計画」草案をめぐって対立している。「NGO連合」は、準備会議で「水・衛生、エネルギー、食糧、開発」などの「権利」についての記述に強固に反対する政府がいると、非難している。これらの権利は、すでに1992年に、アジェンダ21に明記された基本原則であると、主張している。地球サミット以来、国際社会が同意してきた「汚染者側が支払う原則」、「共通だが異なる責任(Common But Differentiated Responsibility)」についても、反対する国がいる。また米国は、「均等(Equity)」という言葉が出てくるたびに「包括(Inclusive)」に置き換えることを要求している。
  確かに1992年のリオの地球サミットに比較すると、今回は非常に低調である。ある人は、これを金融危機のせいにしている。また、国家元首が話し合う時間があまりにも短いためだと言っている。あるいは、新興国の台頭のせいにするものもいる。
それは「南北や貧富の対立のせい」なのかという問いに対して、Council for Canadians のAmil Naidoo 代表は、「私の見るところ、準備会議での紛糾は、カナダ、米国、ニュージーランド、英国などが、グリーン経済を商品化するという誤った理解と、人権や平等に対する攻撃によるものである。一方、彼らは民間資本による投資を大いに推進している」と語った。
NGO連合は、潘基文事務総長、リオ+20の沙祖康事務局長(中国)、加盟国193カ国の国連代表に公開状を送った。
  NGO連合は、リオ+20が失敗に終わるのは不可避だとして、国連会議に並行して、6月15〜23日、リオの下町にあるフラミンゴ干拓プロジェクト公園(Aterro do Flamengo Park)で、「オールタナティブ・ピープルズ・サミット」を開催する、これには、5万人が参加すると予想される。

2.「グリーン経済」について

   国際NGOや財団などが、「グリーン経済」について、「持続可能な開発と貧困根絶の枠内で(in the context of Sustainable Development and Poverty Eradication)」という条件付きで認めている。
  これに対して、「ビア・カンペシーナ(La Via Campesina)」は、以上の国際NGOなどの路線とは異なり、よりラジカルな態度を表明している。今年2月16日、「リオ+20とその後」と題する声明を発表した。
  「ビア・カンペシーナ」は、リオ+20は「これまでの20年間を検証し、将来に対する政策を公約すべきである」と言っている。しかし、今回のリオでの議題の大部分は「グリーン経済」に終止するだろう、と述べている。これでは、これまでと変わりのない成長志向の経済であり、気候のカオスとその他の社会・環境危機を生み出してきた資本主義モデルである。
  ビア・カンペーシナは、この歴史的な会合に対して、幾百万の農民、先住民を動員し、その声を代表して、「食糧主権と天然資源の擁護」を要求していく、と述べている。
  地球サミット以来の20年間、この地球に住む大多数の人びとにとって、生き難くなった。飢えた人びとの数は10億人に達した。これは地球上で6人に1人が飢えているということを意味している。最も影響を受けているのは女性、小農民たちである。環境は破壊され、種の多様性は消滅し、水資源は枯渇し、または汚染されている。気候は危機下にある。我々の未来は閉ざされ、貧困と不平等が蔓延している。
  1992年の地球サミットで提起された「持続可能な開発」は、「開発」と「環境」を組み合わせたものだったが、問題を解決できなかった。それは、人と資源を犠牲にして利益を追求する資本主義を止めることが出来なかったせいである。
  食糧システムは大企業の手中にある。彼らは、人びとを食べさせることより、利益を追求することを選ぶ。
  種の多様性条約では、人びとが共有できるメカニズムを作ることに成功したが、最後の瞬間に、民間企業が種の資源を資本化することを認めてしまった。
  気候変動条約は、先進国にCO2を削減させることに失敗した。それだけでなく「炭素取引メカニズム」という利益のある、新しい投機的な商品を創りだした。
  「持続可能な開発」という概念は、依然として、農民や農業を遅れたものとみなし、天然資源の枯渇や環境を悪化させる要因だと見ている。これまでと変わらない開発のパラダイムが繰り返され、「グリーン式工業化」という手段で、資本主義的開発を持続させる。
  リオ+20サミットの前夜、突然持ち込まれた「経済のグリーン化」は、これまで、地球をさんざん破壊してきたロジックとメカニズムと変わらない。
  グリーン経済には、すでに失敗が明らかになっている古い「グリーン革命」の要素が復活している。たとえば、種子の統一化、企業の特許種子、遺伝子組み換え種子などである。
天然資源と人間の過度の搾取にもとづく資本主義経済は決して「グリーン」にならないだろう。すでに制限なき成長戦略は限界に達しており、これまで価格の札がついていない、あるいは公共部門の管理下にあったので、残った資源の商品化をはかっている。
  金融危機の時代に、グローバル資本主義は新たな蓄積方式を求めている。たとえば、地方自治体、や共有地である森、川、土地などが資本の主なターゲットになっている。「グリーン経済」とは「グリーンの仮面」をかぶった資本主義である。
  「グリーン経済」は、持続可能な開発を実施すると売り込んでいるが、その対象となった国ぐには、多くの貧困、飢えの人口を抱えている。言い換えれば、「グリーン経済」は「グリーンな構造調整プログラム」に他ならない。
  「グリーン経済」の名の下に、すでに推進されているのは、グローバルな土地収奪、輸出向けや農業燃料に向けた農産物生産などがある。しかもこれは、資本主義の投機の対象とさえなっている。また資本による「持続可能な集約農業」は「気候にスマート(やさしい)」な農業として、「グリーン」のラベルを獲得できることになっている。
  「グリーン経済」は、WTOの「ドーハ・ラウンド」に沿ってすべての貿易障害を除き、世銀や米国国際援助局(US−AID)の融資を受けるだろう。これは、悪名高い国際機関を正当化することにつながる。
  「ビア・カンペシーナ」は、6月18〜26日、リオ市内で「ピープルズ永続総会」を開催する。そこで、「反資本主義」の立場をアピールする。
  「ビア・カンペシーナ」は、1993年に結成された、農民、中小生産者、土地なき農民、農村女性、先住民、農村青年、農業労働者などが参加した国際組織である。すべての政治、経済組織に属さない自立している。70カ国、150組織が加盟している。国際事務局はジャカルタにある。viacampesina@viacampesina.org