世界の底流  
スモール5がビッグ5の拒否権に挑戦

2012年6月15日
北沢洋子

1.シリア情勢と国連
2.スモール5が安保理改革提案

  9月は、国連総会が始まる月である。総会では、加盟国193カ国が、安保理事会常任理事国5カ国に対して、「大量虐殺、戦争犯罪、人道に対する犯罪を予防、または終わらせようとするいかなる決議にも拒否権を行使しない」ことを要求する決議案が提案されている。
これは、国連常任理事国(ビッグ5)に対する、コスタリカ、ヨルダン、リヒテンシュタイン、シンガポール、スイスという世界で最も小さい国ぐに(スモール5)の共同提案であった。この決議案の狙いは、安保理の説明責任、透明性、有効性を高めることにあった。決議案には、20項目に及ぶ長い勧告のリストが付帯している。
  これに対して、常任理事国5カ国は、国連の最高の政策決定機関である「総会は、安保理に対して勧告をする権利はない」と発言している。しかし、安保理は、国連総会の下に
ある諸機関の1つに過ぎない。
  途上国の代表たちは、「これは歴史的な決議案である。あたかもスモール5という蟻のビッグ5という象に対する戦い」だと評している。
  この決議案に対して、国際NGOは大賛成である。例えば、「保護責任の国際連合(ICRP)」や「国政刑事裁判所連合(CICC)」などは、「総会の決議には、安保理決議のような加盟国に対する拘束力はない。しかし、このような決議が採択されれば、計り知れない政治的、道義的な効力を持つだろう」と語った。
  今回S5の決議案が採択されないとしても、以後、提案し続けるだろう。もし、総会で採択され、安保理がこの20の勧告を聞き入れたならば、安保理は大きく変わるだろう。そして、今後30年間にわたって、幾百万もの命が救われ、多くの戦争が避けられるだろう。
  そして、総会が安保理の活動に介入する権利がないというのは間違っている。例えば、国連総会は、2年ごとに10カ国の安保理の非常任理事国を選出している。また総会は、毎年、安保理の予算を採択している。この2つのことからして、P5が総会には安保理に口を挟む権利がないということは出来ない筈だ。
  P5に挑戦したS5の勇気は称賛された。S5の5ページにわたる決議草案は、P5に対して多くの勧告をしている。例えば、安保理常任5カ国は、拒否権を行使、あるいは行使する意思を示した場合、国連憲章とそれに基づく諸種の国際法の目的と原則に従って、その理由を明らかにしなければならない。そして、その理由は、すべて文書にして、安保理15カ国すべてに配布しなければならない、と書いてかる。
  明らかにS5の決議案は、昨年、ロシアと中国が行使した2つの拒否権を意識して書かれたものだ。とくに、シリア政府の民間人の虐殺に対して制裁措置を呼びかけた西側の決議草案に対するロシアと中国の拒否権を指している。国連の発表では、昨年3月に始まった反政府デモに対して治安部隊が発砲して、すでに7,500人の死者をだしている。
また、安保理は、1994年に起ったルアンダの虐殺に対しても、迅速に行動することが出来なかった。その結果、50万人の人びとが虐殺された。確かに、94年4月、安保理は、殺戮を非難した。しかし、これを「虐殺」と呼ぶことに失敗した。明らかに、この虐を許したのは、安保理の怠慢である。
  国連憲章第24条には安保理の「任務」と「権限」が記載されている。第1項には「国連加盟国は、国際の平和と安全に関する主要な責任を安保理に負わせる」とあり、第2項には「安保理は、国連憲章の目的と原則に従って行動しなければならない」とある。
  当然のことながら、安保理の常任理事国が拒否権を行使する場合でも、国連憲章の目的
と原則に従って行動しなければならないことは言うまでもない。しかし、毎年、そして現在も、安保理の決議は、常任理事国の拒否権が行使される時に、国連憲章の目的と原則に従って行動していない。
  S5が拒否権の行使についての決議草案を提出した際、全加盟国に手紙を書いた。それによると、すでに1年前に、この決議案は国連総会に提出された、と書いてあった。そして、この決議案は「安保理と建設的な対話が行なわれることを望んできた」とし、この1年間、安保理のP5と交渉を続けてきたが、「国連総会に直接提案し、加盟国すべてが、この草案について、議論する時機が来たと判断した」と書いてあった。そして、S5には、自己の利益を追求する意思はなく、国連がより良く機能することだけを願っている」、そして「10カ国の非常任理事国、2年毎に大陸別に、国連総会で選出される。しかし、ほとんどの国が、生涯1度たりとも選ばれることはない。現在安保理の中で行なわれている改革とメンバーの拡張についての交渉が加盟国全員に知らされ、議論に参加するべきである」
と手紙に書いてあった。 
  S5の共同決議案には、現在進行中の安保理の改革について言及していない。これは安保理の改革であると同時にメンバーの拡大である。これには、国連憲章の修正の問題も含まれている。