世界の底流  
スペインの銀行救済と緊縮政策

2012年8月17日
北沢洋子

  ユーロ圏財務相会議は、スペイン政府の債務危機を救うために、1,000億ユーロの融資に合意した。これで、ひとまずユーロ圏の危機は回避された、と市場関係者やマスメディアは言う。しかし、この話には嘘がある。そもそも、スペインの債務危機は、作られたものだからである。そして、実際には、スペインの銀行や証券会社に貸し出されるのだが、直接の受け取り手はスペイン政府である。したがって、これは、そっくり政府の債務になる。つまり、返済するのはスペインの銀行でなく、納税者になる。
  ユーロ圏の債務危機はすでに3年目に入るが、その原因は2つに大別される。第1は、アイルランドやスペインのように、銀行が不動産のバブル投機に失敗したケース。第2はギリシャやポルトガルのように、政府が銀行の危機を救うために多額の国債を発行した。その結果、政府が債務危機に陥ったのであった。いずれも銀行や証券会社などの金融機関が、無責任な投機を行った結果である。決してマスメディアが言うような、政府の放漫な財政支出によって引き起こされたものではない。
  これはユーロ圏の債務危機ではなく、始めから終わりまで一貫して、銀行の危機であった。しかし、銀行は一向に、反省しないどころか、経営者たちは、巨額のボーナスを受け取ってきた。
  一方、スペインのサパテロ社会労働者党政権は、すでに2年前から、緊縮政策を実行してきた。その結果は悲惨であった。40万家族が家を失った。そして、スペインの人口の4人に1人の割合で失業した。これは若い家族では、2人に1人の割合になる。
  カトリックの慈善事業であるCaritasの調査によると、スペインの所帯総数の22%が貧困ライン以下の生活を強いられており、これに、貧困ラインの予備軍は30%に上る。
  つまり、1,100万人が突然、貧困ライン以下に陥る危険性が出てきたのであった。これは、まさに30年代の大恐慌の再現であった。
  さらに政府は、5月、Cajas と呼ばれる地方の貯蓄銀行であるBankiaを国有化した。その買い上げに45億ユーロを要したのだが、すぐに運営費として190億ユーロが必要であることが判明した。これは、政府が教育、医療部門の予算の中で削減した額の2倍である。国有化したBankiaのMatias Amat役員に早期退職金として620万ユーロを支払ったのである。さらにもう1人の役員Aurelio Izquierdoに140万ユーロを支払うことになっている。
  これまでCajaには、政府の規制がなかった。そのため、米国のサブプライム・ローンを証券化した「毒入り資産」を大量に買い入れた。この資産は現在でもBankiaの資産のなかに大量に残っている。
  銀行危機に政治家たちも共犯である。たとえば、Caja de Ahorros del Mediterraneo (
CAM) はバレンシア政府に2億ユーロを融資したが、これは、CAMの破産の2日前のことだった。バレンシア政府は、現ラホイ民衆党(PP)が支配している。一方ラホイ政権はCAM の経営陣を支配している。国会でBankiaの捜査をPPが妨害しているのも驚くべきことではない。
  EU・ヨーロッパ中央銀行(ECB)、IMFのトリオは、今回のスペイン政府に対する1,000億ユーロの融資に、条件(緊縮政策)を付けない。これは、銀行家たちを喜ばせたようだ。一方、トリオは銀行と政府の腐敗に目をつぶる気でいる。
  また、直接EUが腐敗の捜査をしないとしても、それに代わって金融市場が実行するだろう。
  1,000億ユーロがスペイン政府の債務になるということは、スペインは「持続可能な債務」を超えることになる。格付け会社がスペイン国債のクレジット・ラインを引き下げる。そうなれば、スペイン政府の資金繰りが悪化するのは必至である。そうなれば、スペイン政府は“自発的”に緊縮政策を実行するだろう。