世界の底流  
反政府デモ東欧(ハンガリー、ルーマニア)に広まる

2012年2月8日
北沢洋子

 ハンガリーとルーマニアで、反政府デモが起った、これは、ヨーロッパ大陸の東(旧東欧)に「Occupy」運動が広がった最初の兆候である。
 両国とも、人びとは、政府が強権的になったことに不満をもっている。ハンガリーは2004年、ルーマニアは2007年に、ヨーロッパ連合(EU)に加盟した。そして両国とも、現在、経済危機に見舞われている。

1.ハンガリーの反政府デモ

 今年に入って、さまざまな社会的、イデオロギー的背景こそ異なるが、ハンガリー、ルーマニアの人びとはともに街頭に出てデモをしている。彼らの要求は、政治制度の根本的な改革、エリートたちが貧困層を無視して、強権支配を行なっていることへの抗議などである。
 ベルリンの壁が崩壊した1989年に比較すると、抗議デモの内容が大きく異なる。ハンガリー、ルーマニア人口の80%が、国家が間違った方向に向かっていると認識している。彼らは、右翼の与党に対して幻滅しているだけでなく、政治制度そのものに反対している。
 さらに悪いことに、野党が無力であるばかりでなく、やる気がないことである。とくにハンガリーでは、2010年、保守のFidesz(フィデス=市民同盟)が選挙で3分の2の多数派を占めて以来、野党はだらしがなくなった。
 ハンガリーの抗議デモは今のところ平和的で、よく組織されている。首都ブタペストでは、1月2日のデモで、ノーベル賞受賞者を含めて、7万人が集まった。彼らは政府の保守的な憲法に抗議している。
 オルバン首相は、自国内のデモを無視しているようだが、EUからは金融、政治面での制裁を課すと脅かされている。EUは、ハンガリーの新しい憲法が、中央銀行の独立性を保障していないこと、並びにメディアの自由が認められていないことなどが、政府機関での政治的パージと弱体化につながっていると非難している。

2.ルーマニアの反政府デモ

 ルーマニアの反政府デモは、ハンガリーに比べると、自然発生的であり、しばしば暴力的である。そして、首都ブカレストだけでなく、国内各地でデモが行なわれている。デモの契機となったのは、政府が医療制度を民営化することを発表したことであった。
 憲法草案は撤回されたが、人びとの失業、生活水準の低下、腐敗、権威主義などに抗議するデモは続いている。
  人びとは、ルーマニアの政治制度を拒否している。これは昨年5月15日、マドリッドで起った「太陽の広場」を埋め尽くした「Indignados (怒れる人びと)」に共通している。
  2009年、ルーマニアは、IMF、世銀、EUから200億ドルの融資を受け、貨幣と銀行制度を安定化することが出来た。その代償として、ルーマニアは緊縮財政を受け入れた。「ルーマニアはIMFとEUの属国となった。それゆえ、民主的ルールは破棄され、政治は後退し、ルーマニアを指導しているのはマーケットだ」とルーマニア最大の左翼フォーラム「CriticAtac」のCiprian Siurianは言った。
  ルーマニア政府は社会的対話を拒否している。議会にはからずに法律を制定している。選挙を操作している。野党を買収して、分裂させている。労働者がもっとも被害を受けている。政府は臨時雇用制度を推進し、解雇しやすくしている。労働組合の幹部を解雇している。団体交渉権と最低賃金制度を廃止した。さらに公務員の給料を25%削減した。これは、経済に打撃を与えたことは言うまでもない。
  ルーマニアのバセスク大統領は、旧共産党支配に対して、グローバル資本と市場の自由の保護神として登場した。この点、ハンガリーのオルバン首相に共通している。