世界の底流  
米国の対外援助大幅削減

2011年9月25日
北沢洋子

1.7月20日、米下院は、一連の対外援助削減を決議

まず下院は「米州機構(OAS)」への拠出金の削減を決議した。OASは過去60年にわたって西半球における米国の覇権の象徴であった。最近では、もっぱら選挙の監視役を務めている。

同時に、国連に対する拠出金の25%削減を決めた。国連で50%以上の比率で、米国に反対した国に対する援助を禁止した。パキスタンについては、テロリスト支援を止めたと国務省が判断しない限り、援助を停止することを決定した。

翌日21日、ワシントンは38度の暑さに見舞われていた。明らかに温暖化の影響である。にもかかわらず、途上国の温暖化対策のための基金への拠出金を、6億5,000万ドル削減した。また、たとえHIV−AIDS患者であろうと、中絶を推進、実施、情報を提供する国、あるいはNGOに対する援助を禁止した。アルゼンチン、ベネズエラ、ニカラグア、エクアドル、そして南米1の貧困国であるボリビアへの援助を禁止した。

なぜこのような大幅な削減を断行したのか。下院外務委員会で、オバマ大統領が提出した国務省の2012年対外援助費総額510億ドルを、少なくとも60億ドル削減したからであった。

これは、あくまで下院案である。民主党優位の上院で採択されるのは難しいし、またオバマ大統領が確実に拒否権を振るうだろう。

下院の西半球問題小委員会の議長であるフロリダ選出の共和党Connie Mack議員は、OASに対する拠出金を年間4,850万ドル減額するという修正案を提出した。これは、小委員会では、22対20で採択された。中東に対しても、同議員は、イスラエル寄りを明確にしている。イスラエルに対する援助は軍事援助と借款で、毎年30億ドルを無条件で供与するが、アラブに対しては、すべて条件つきである。さらに、米大使館をエルサレムに移す費用も盛り込んでいる。

OASから脱退を提案したMack議員の修正案に対して、民主党の長老Gary Ackerman議員は、「これは馬鹿げている。それだけでなく、危険だ」と批判した。またMack議員は、ベネズエラに対する援助禁止を唱えたばかりか、ベネズエラと同盟する国ぐにに対しても、援助停止を主張している。

同じく、フロリダ選出の共和党Ileana Ros-Lehtinen下院議員は、とくにエジプトとイエメンに対する援助は、「外国のテロリスト組織」または「その同調者」に支配されていないという証明を必要とするという条件を付けた。エジプトには、それに、1979年の「キャンプ・デービット和平協定」を尊重することと、ガザに武器を密輸しているトンネルを破壊することを条件にした。レバノンとパレスチナ自治政府については、ヒズボラとハマスのメンバーが、政府の閣僚、あるいは政策策定にある職にいないことを条件にした。また、ガザにおける「過激派のインフラ」を完全に破壊することを条件にした。これらすべては、オバマ大統領が証明書を議会に提出しなければならないことになっている。

共和党はすべての対外援助を2010年レベル以下という上限とテロ条件を設けることによって、被援助国がテロリスト組織のメンバーあるいは支持者と縁を切ることになる、と主張した。

これらは、共和党の考えを良く表している。そして、来る2012年の選挙では、共和党が上院で多数をとることは確実だし、ホワイトハウスにも送り込む事だってあるだろう。下院の外務委員会の民主党の有力議員Howard Bermanは、この世界を敵にした共和党の対外政策を、第2次世界大戦の参戦に反対した「要塞アメリカ」思想の再現であると警告している。

2.援助を削減して軍事費に

米政府は総額14.46兆もの債務を抱えている。そのため、警察官、消防署、図書館、教師、そして連邦・州政府のサービス機関の労働者を解雇している。金融危機が発生した2008年以来、政府機関からの解雇者は、40万人に達している。これが、失業率を9.2%という高いレベルに押し上げている。

一方、米政府は、毎年1,260億ドルもイラク・アフガニスタンの戦争に使っている。

最近、オバマ大統領は、2001年以来、2つの戦争で1兆ドルを使ったといったが、これは、少なすぎる。ノーベル経済賞のスチグリッツ教授やハーバード大学の研究者の調査によれば、3〜4兆ドルという天文学的な数字が出ている。一方、米国の同盟国たちは、イラクとアフガニスタンから目立たないように、うまく軍隊を撤退している。

アメリカ国民は、2つの戦争に飽き飽きしており、膨れ上がる政府の債務を心配している。

1970年、先進国は途上国に対して公的援助(ODA)をGDPの0.7%にすることを約束した。また、2000年、国連で「ミレニアム開発ゴール(MDG)」が採択された時、先進国はODAをGDPの0.56%にすることを約束した。2002年には、先進国は2,000億ドルを拠出した。これは、これまで最大の額であった。しかし、国連の調査によれば、北から南へのカネの流れよりも、南から北のほうが大きい。2003年10月、当時のアナン国連事務総長は、「北から南に資金は流れているべきだが、実際には、その逆のことが起こっている」と述べた。

米国を例にとると、国連の予算に対する最大の拠出国だが、一方では、2004年、米企業は国連の総事業費の24%(3億1,600万ドル)を請け負っている。これは、「費用対効果率」では米国はプラスになる。

また途上国への援助でも、「対テロ戦争」「対麻薬戦争」「米国製武器の購入借款」などの名目がついている。とくに、これは、イスラエル、エジプト、イエメンの例では顕著である。