世界の底流  

パレスチナのベドウィン

2011年9月3日
北沢洋子

1.国連ベドウィン報告書

 イスラエルは、パレスチナの中の少数民族である西岸とネゲブ砂漠のベドウィンに対して、生計の手段を破壊するという政策を長いこと採ってきた。イスラエルは、これら先住民族であるベドウィンの暮らしの伝統を破壊し、人道的危機をもたらした。これは将来のパレスチナ国家にとっても危機である。
 パレスチナ・ベドウィンの困難は、地域によって異なるが、イスラエルがベドウィンから政治的発言を奪い、少数派の中の少数派を抹殺しようとしていることは確かだ。
 8月はじめ、国連人道問題調整事務所(OCHA)は、この問題の解決は一時的な援助ではなく、イスラエルの政策の根本的変更、つまり、「ベドウィンを移住させ、伝統的な暮らしを奪うという政策を止めさせることが、必要だ」という報告書を発表した。
 OCHAは、西岸のC地区の13のベドウィン村を調査し、「C地区では、明らかに強制移住が行なわれている。これはイスラエルの基本的な政策だ」と記した。
 ベドウィンたちは、「国連は、ベドウィンの窮状を良く知っていながら、やっていることは、あまりにもわずかだ」と、言っている。またベドウィンは国連に発言の場を求めている。
 パレスチナ自治政府のベドウィンを担当する「C地区局」は、予算がなく、サービスは保健と教育部門に限られている。
 ベドウィンには、家や学校を建てることを許可するイスラエルの土地局(ILA)の許可をもらえない。そればからか、常時、彼らの家であるテントが出来ない。なぜなら、イスラエルはC地区の70%の土地をユダヤ人入植地に変ええようとしている。あるベドウィンの学校は4回も壊され、そのたびに再建した。
 「イスラエルの政策により、C地区の住民は、常時、不安と危険な状態に置かれている。彼らは、次世代には、確実に消滅するだろう」と国連の報告書は結論付けている。

2.西岸のベドウィン

 1993年のオスロ合意にもとづいて、1995年、西岸はA、B、Cの3地区に分割された。C地区に関しては、教育と保健部門を除いて、イスラエルが支配権を握った。C地区は西岸の面積の60%を占める。C地区に住むパレスチナ人は15万人に減った。その中で、27,000がベドウィン、または、遊牧民である。
 C地区に住むユダヤ人入植者は、30万人にのぼる。イスラエルは入植地を拡大するために、C地区すべてを空き地にしようとしている。
 C地区ベドウィンのMohammad Al Korshan 代表は、「イスラエルは、ベドウィンをC地区から追放し、都市部のAまたはB地区に移住させようとしている。数年のうちにベドウィンは砂漠からいなくなるだろう。すでに多くのベドウィンが伝統的な生計の手段である家畜を売ることを余儀なくされている。もはや、家畜を養う土地がないからだ。国連は食糧や雇用など、一時的な援助をしてくれるが、根本的な解決策を持っていない」と語った。
 エルサレム駐在のMaxwell Gaylard OCHA代表は、「C地区は、将来のパレスチナ国家にとって決定的に重要である」「イスラエルが、ベドウィンの声をなくすことで、パレスチナの将来の国家建設を妨げようとしている」と語った。
 とはいっても、現在の緊急の課題は、貧困と栄養失調の根絶である。これは、国連によると「ベドウィンにとっても、他の遊牧民にとっても、人道問題である」と言っている。 
「西岸で、ベドウィン代表するのは誰か」との問いにたいして、Gaylard 代表は、「今のところ、ベドウィンを支援しているアラブとイスラエルのNGOだ」と答えた。

3.ネゲブ砂漠のベドウィン

  イスラエルの南部に広がるネゲブ砂漠には、数万人のベドウィンが住んでいる。しかし、イスラエル政府は彼らの存在を認めていない。ネゲブ砂漠のベドウィンは、西岸と同じような困難を抱えているが、置かれた政治状況は異なる。ネゲブ砂漠のベドウィンはイスラエルの市民だとして、イスラエルの市民と対等の扱いを受けていないにもかかわらず、パレスチナ自治政府は取り上げてくれない。ここでも、ベドウィンは強制退去、テントの取り壊しなど、西岸と同じ弾圧を受けている。このようなことは、ユダヤ人には、決して起らない。
 ネゲブ砂漠のAs-Sira 村(イスラエルは認めていない)の住民で、ベドウィンの権利を擁護する活動家であるKhalil Alamour は、「我々は、取り壊しの脅威に晒されている。いつでも起りうる状態だ。ベドウィン固有の文化や生活様式などは、とうからず消えてしまうだろう。状況は悪くなる一方だ。にもかかわらず、誰もベドウィンを代表するものはいない」と語った。
 イスラエルが認めているLaqia 町に住むJihad el-Sanaは、ベドウィンの権利のために闘っている活動家だが、「ネゲブ砂漠に住むベドウィンの大半は貧困ライン以下の生活をしている。これは、先進国入りをしたイスラエルの皮肉である」と語った。彼は、ベドウィンが、承認された村と承認されない村に住んでいるということで、統一した声を挙げることが出来ない、ということを認めている。また、ベドウィン村そのものが、あるものは土地を所有し、他のものは持っていないといった、異なった条件で分かれている。その上、国連が、ネゲブ砂漠のベドウィンには、手を差し伸べてくれない。
 7月末、イスラエルは、あるベドウィンの村を、取り壊し費用として50万ドルの損害賠償を訴えた。なぜなら、村を取り壊すたびに、ベドウィンが、再建するからだというのがイスラエルの言い分である。