世界の底流  
パレスチナの国連加盟問題

2011年8月28日
北沢洋子

1.パレスチナ自治政府の国連正式加盟の問題

  パレスチナ自治政府が9月の国連総会に正式加盟を申請することについて、ニューヨークやジュネーブでは、大きな議論になっている。
  現在、パレスチナ自治政府は、オブザーバーの資格を持っている。これは、1970年代、南アフリカと南西アフリカ(ナミビア)の解放運動がオブザーバー資格を得たと同じ時期であった。その後、南アフリカはアパルトヘイトが解体され、ナミビアは独立したので、現在残っているオブザーバーは、パレスチナだけだ。
  実際には、正式メンバーとオブザーバーの違いはほとんどない。唯一の違いは、オブザーバーには投票権がないということだ。しかし、冷戦後、国連はコンセンサス(合意)方式をとっているので、投票することは滅多にない。一握りの大国を除いては、国連での一国の外交の優劣は、国連に出席する外交官の手腕にかかっている。
  たとえば、バチカンはオブザーバーであるが、有能な外交団の働きで、国連内ではかなりの影響力を持っている。一方、パレスチナの代表はジュネーブの国連では、非常に弱い。ニューヨークの国連のほうがまだましだ。パレスチナ代表団は常に“Big Brother”の役を演じたがるアラブの代表団の影でしかない。しかし、エジプトの外交官を除いては、他のアラブ代表団よりも、パレスチナ人のほうが有能である。
  パレスチナが正式メンバーになったとしても、アラブ代表団の影になっていることには変わりがないだろう。しかし、正式のメンバーとなることは、パレスチナ国家の正当性(Legitimacy)の象徴的な勝利であり、さらに、独自に国際裁判所に訴える資格を持つことになる。また、国連正式加盟はパレスチナ紛争の法的国際化をもたらす。パレスチナは国連、人権協定組織、国連司法裁判所などにおいて、イスラエルを提訴することが出来る。

2.加盟問題の3つのアプローチ

  (1)第1のアプローチは、米国、イスラエル、EU内の西ヨーロッパ勢(とくにドイツ)などが望んでいるもので、議題から外してしまうことである。とくにこの9月の国連総会には、あまりにも多くの、かつ複雑な中東議題がひしめいている。とくにこれは、カナダ、米国、ヨーロッパなどがパレスチナ代表に伝えた内容であった。アラブの代表団も、個人的には同じことを考えているに違いない。
  さらに、米国とヨーロッパ諸国は、ハマスが統一政府に加わったことを口実に、たとえそれが非政治的テクノクラートで構成されていようとお構いなく、パレスチナ自治政府に対する援助を打ち切った。米国とEUは、ハマスを「テロ組織」と見なしており、資金援助できないというのだ。
  パレスチナ自治政府は外国からの援助に依存しているので、この打ち切りは打撃である。
  これは、明らかに、脅迫である。パレスチナ側が正式加盟の要請を引き下げるならば、米国が「和平プロセス」と呼ぶ、イスラエル・パレスチナ間の短い交渉が、だらだらと9月一杯行なわれ、その間、正式加入問題は吹っ飛んでしまう、というシナリオである。

  (2)第2のアプローチは、これが最も可能性があるが、9月中にパレスチナ自治政府が国連に正式加盟を申請することである。これは、まず、パレスチナ指導部間の議論の結果によるが、またエジプト、トルコ、イランといった中東の大国の意見にも関わってくる。とくに、イランは今期国連総会の副議長で、国連の新規加盟承認といった手続き問題に大きな力を持っている。
  新規加盟問題を総会の議題にするには、「安保理事会の推薦による」ことが必要である。安保理事会では、投票で決める。これには、少なくとも、15カ国の中で9カ国が賛成し、また、常任理事国が拒否権を振るわないことである。もし、米国が棄権(拒否権ではない)をするならば、9カ国の賛成は堅い。そして、安保理の推薦を受け入れて、国連総会がパレスチナの加盟を決議するだろう。
  したがって、米国が拒否権を発動しないで、棄権に回るかにかかっている。ということは、米国をどのように説得するかが問題だ。

  (3)第3のアプローチは、米国が安保理で拒否権を行使した場合、国連総会は、現在「平和のために団結」として知られるメカニズムを発動できる。「平和のための団結」とは、1950年11月3日の国連総会決議377(V)で、当時のアチソン米国務長官の名をとって「アチソン計画」と呼ばれていた。
  これは、安保理事会が、国際平和と安全を維持することに失敗した場合、つまり常任理事国間で意見が一致できない場合、ただちに国連総会で議論できる。もし総会が会期中でなければ、臨時総会を開くことが出来る。
  「平和のための団結」メカニズムは1950年に導入されて以来、すでに10回発動された。ただし、これには加盟国の3分の2の賛成票(全員が出席した場合135カ国)が必要である。
  現在、112カ国が、「1967年以前の国境を持ったパレスチナ国家」を承認している。したがって、米国、イスラエル、ドイツなどが、135カ国の壁を打ち破ることは、困難である。