世界の底流  
ガザ封鎖を突破する国際船団群

2011年6月14日
北沢洋子

1.ラチェル・クリェ精神号

 5月15日夜10時54分、パレスチナのガザに向けて人道援助を積載した貨物船が、ガザのいわゆる「治安海域」にさしかかったところで、イスラエルの海軍パトロールの攻撃を受けた。この船は、2003年3月、ガザで、パレスチナ人の家を破壊しようとしたイスラエルのブルドーザーの前に座り込んで、轢き殺されたアメリカ人のRachel Currie(23歳)の名をとって名づけられた「ラチェル・クリェ精神」号であった。本来の船名は 「FINCH」号であった。
 5月11日、ラチェル・クリェ精神号は、ひそかにギリシアのピレアス港を出発した。この船は、マレーシアの元マハティール・モハマド首相が代表を務める「Perdana Global Peace Foundation( PGPF)」 がスポンサーとなった人道援助団体がチャーターしたものであった。
この船には、反戦活動家やジャーナリスト(マレーシア人7名、アイルランド2名、インド2名、カナダ1名)が乗船していた。カナダのトロント大学のグローバル・リサーチ・センター(CPR)も主催団体の一員で、Julie Levesqueが乗船していた。
 この貨物船は、75キロメーターのUPVCを積んでいた。これは破壊されたガザの上下水道を復興するためのものであった。

2.イスラエル海軍の攻撃

 ラチェル・クリェ精神号は、近代的なコミュニケーション技術を持ったイスラエルのレーダーに気付かれることなく、ガザの領海に入った。この計画は何ヵ月も前から準備され、1948年、70万人のパレスチナ人が難民となった「ナクバ」の記念日にガザに到着する予定であった。
 皮肉なことに悪名高いイスラエルのモサドもこの船の情報をつかんでいなかった。イスラエル海軍にとっては、不意打ちのことで、事前の何の指示を受けていなかった。一方、船が攻撃された時、支援船の乗船者たちは、公海上にいると思っていた。しかし、船は、ガザ領海に1マイル入ったところにいたことがわかった。ガザ国際連帯運動は、これを「重要な成果であった」と評価した。
 2隻のイスラエル海軍が船に近づき、2発を発射した。船側が、「非武装の民間船である。国際法違反の行為」だと応酬すると、イスラエル海軍は「違う。単なる警告だ」と言い張った。
 そこに、エジプトの海軍が現れ、イスラエル海軍に「撃つのを止めろ。ここはエジプトの領海だ」と警告した。
 これまでは、イスラエルとエジプト海軍は協力関係にあった。しかし、今回は明らかに「ラチェル・クリェ精神号」の味方をした。そして、船は無事にエジプト領海に入った。そして、ガザ領海に近いAl Arish港に、錨を下ろした。

3.ガザ復興のために人道的援助を

 今こそ、ラチェル・クリェ精神号の快挙を世界に広めるべきである。というのは、ガザの復興のために、人道的援助を最も必要としているからだ。
 2008年12月27日以来、イスラエルは空と陸からガザを爆撃した。このとき、1,400人のパレスチナ人が犠牲になったばかりでなく、上下水道などの最も重要なインフラが破壊された。イスラエルが陸上でガザへの建設物資の配入を妨害しているので、インフラの修理は不可能である。
 「Emergency Water, Sanitation and Hygiene (EWASH)」の報告によると、毎日、8,000万リットルの未処理の汚泥が地中海に捨てられている。

4.続く支援船団

 「ラチェル・クリェ精神」号の快挙に続いて、次々とガザに向けた海上からの支援活動は続く見通しだ。
 6月末、10隻の支援船団がガザに向かう予定になっている。乗船者総数は1,000人を超える。出発する港は明らかにされていない。
 今回は、国ごとに乗船者が分かれており、スペイン、カナダ、スイス、アイルランド、米国などが入っている。米国の船には34人が乗っており、作家のAlice Walkerや両親をホロコーストで亡くしたHedy Epstein(86歳)という女性もいる。米国の船はオバマ大統領の本のタイトルを借りた「Audacity of Hope」号と名づけられた。そのコーディネーターは活動家のLeslie Caganである。彼女は、「われわれの行動は、ガザの封鎖を止めさせるだけでなく、パレスチナ全土の占領を止めさせるために、米国政府は積極的に動くべきだ、というメッセージ を送ることにある」、「今その時期は熟している」と語った。
 2007年にハマスがガザの政権を取って以来、イスラエルはエジプトの協力を得て、ガザ封鎖を行なってきた。今でもイスラエルは海上封鎖を続けているが、昨年、トルコの支援船を攻撃して以来、国際的な抗議の声の前に、封鎖を少し緩めた。さらに先週、エジプトはRafahの国境を開いた。そのため、パレスチナ人の出入りは楽になった。
 ワシントン駐在のイスラエル大使館のNoam Katzは「船団は、イスラエルの破壊を狙っているハマスを支持する政治集団だ。」と声明した。
 米国人乗員側は、「パレスチナ人を支持しており、ハマスではない」といっている。そして、50年前、キング師の直接行動「フリーダム・ライダー」の戦略をとっている。
 Epsteinは、「なぜ船団に参加したのか」という問いに対して「米国のユダヤ人委員会もイスラエルもともにすべてのユダヤ人を名乗っている。しかし、私については、代表できないはずだ」と語った。