世界の底流  
気候資本主義VS気候正義

2011年1月27日
北沢洋子

1.カンクンの気候資本主義(Climate Capitalism VS Climate Justice)

  カンクンの国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第16回締約国会議(COP16)は、昨年12月12日未明に「カンクン合意」を採択して閉幕した。
採決に当たっては、ボリビア1国が反対した。ボリビアの代表のPablo Solon大使は、「カンクン合意は、前進ではなく後退である。なぜなら、協定が拘束力を持っていないからだ。そればかりではない。2020年までに、CO2排出を15%削減することに同意したが、これでは気候変動を阻止することが出来ない。」と語った。これが、カンクンで聞こえた唯一の気候正義の声であった。
 「カンクン合意」は、国際的に拘束力を持たない決議である。すべては、今年12月の南アフリカのダーバンでのCOP17のサミットに先送りされた。
 このような結果となったのは、09年のコペンハーゲンCOP15で先進国を声高に批判した途上国を、この間狙い撃ちにして、猛烈な賄賂作戦をかけたからである。南アフリカのNGO「南ア環境民主主義の対話(South African Dialogues on Ecological Democracy)」のSoumya Dutta代表は、アフリカの債務に苦しんでいる国が先進国からのREDDなどの話しに飛びついた」と語った。
 「ウイキリークス」が暴露したところでは、EUのConnie Hedegaard 気候変動交渉代表が、10年2月11日に米国務省に送った電信に、「小島嶼国同盟(AOSIS)は、援助欲しさに、我々の最良の同盟になるだろう」と書いた。
  また2月23日付けの電信では、モルディブのAbdul Ghafoor Mohamed 大使が、米国のJonathan Pershing気候変動交渉代表に対して、「モルディブは相当分の援助がもらえれば、他の島嶼国を説得するだろう」と語った、と報じた。
  しかし、先進国が300億ドルを資金供与するという約束も疑問である。これは、贈与でなく融資だからだ。
  カンクンに政府代表団を上回る企業のロビイストたちの“活躍”した。彼らは、カネにまかせて、会議の進行に対して、NGOよりも影響力を強めたのであった。
 明らかに、カンクンではカネが支配した。これを気候資本主義と呼ぶ。その典型的な例がREDDとCDMである。いずれも、先進国が途上国のCO2排出削減の援助をした場合、その分を先進国の削減分と見なすというものである。これを「炭素取引」と呼ぶ。
 しかし、この炭素取引でも、先進国が有利で、途上国は買い叩かれている。例えば、削減した炭素は1トン当たり50ユーロの費用がかかるのだが、2008年、EUは、30ユーロ、2009年には10ユーロで取引した。
  ちなみに、これは、97年にゴア米副大統領が京都議定書の批准と引き換えに提案したものであった。

2.コチャバンバの気候正義(Climate Justice)

  カンクンで反対投票したボリビアのモラレス大統領は、REDD とCDM反対の急先鋒である。彼は、取引市場の閉鎖を要求しており、代替として「気候債務」の考えを提起している。
昨年3月30日、ボリビア大統領の呼びかけで、350.Org(大気中のCO2の濃度を100万分の1に減らすことを目指すNGO)、Rainforest Action Network、Green Peace、Frend of Earth、 IEN(先住民環境ネットワーク)、Grassroots Global Justice、Movement Generationなど気候正義を提唱するNGOがボリビアのコチャバンバに集まった。
  「気候変動とマザー・アースの権利についてのコチャバンバ世界人民会議」と呼ばれるこの会議は、参加者数が3万5,000人というマンモス会議であった。

  そこで決議された内容は

  1. 2017年までに二酸化炭素の排出量を50%削減すること。
  2. 地球の温度を1度の上昇に、また二酸化炭素を100万個中300に抑えること。
  3. 先進国は気候債務を負っている事を認めること。
  4. 人権と先住民の権利を完全に尊重すること。
  5. 自然と共存するために「マザー・アースの権利」の普遍的宣言すること。
  6. 気候正義のための国際法廷を設立すること。
  7. 「炭素取引市場」とREDDによる自然と森林の商品化を拒否すること。
  8. 先進国の消費パターンを変えることを進めること。
  9. 気候変動を緩和させる技術の知的所有権を廃止すること。
  10. 先進国はGDPの6%を気候変動対策に拠出すること。

    であった。

    これらの要求は、過去数年にわたって、人びとが闘ってきたテーマである。それは、カナダのアルバータ州のタールサンド開発、エクアドルのアマゾン石油開発、サンフランシスコの製油所建設、ニジェール・デルタの石油開発、バージニア州西部の山林開発、そして、オーストラリアや南アフリカなどの炭鉱開発などに対して闘ってきた経験にもとづいている。