世界の底流  
イエメンのアルカイダ―その隠された真実

2010年1月16日

プロローグ
 昨年12月25日、クリスマスの日に、アムステルダム発のノースウエスト航空253号がデトロイトに近づいた時、1人のナイジェリア人が、ひそかに機内に持ち込んだ爆発物で飛行機を爆破させようとして、逮捕された。『CNN』放送や『ニューヨークタイムズ』紙によると、その男の名はAbdulmutallab(23歳)、そして彼はイエメンでアルカイダのテロ訓練を受けたと主張していると言う。
 この段階で、米国の「テロに対する戦争」の新しいターゲットとして、イエメンがクローズアップされるようになった。

1.米のイエメン戦略のエスカレーション
 イエメンはアラビア半島の南端にある不毛の地である。北はサウジアラビアと接し、西は紅海に面し、南はアラビア海に通じるアデン湾に面している。その先には、「アフリカの角」のソマリアがある。
 以上の記述から、イエメンが、世界の重要な石油ルートの要衝に位置していることが明らかになる。米国のペンタゴンとCIAは、ソマリアの海賊騒ぎとイエメンのアルカイダの脅威を口実に、この石油ルートを「軍事化」しようとしている。加えて、イエメンとサウジアラビアの国境沿いに、世界一といわれる石油の埋蔵を狙っている。
 しかし、米国が「テロ撲滅」の旗の下に、イエメンに対して、すでに数ヵ月にわたって空爆を繰り返しているという事実はあまり知られていない。たとえば、オバマ大統領にアフガニスタンへの軍の増派を進言したベテランCIAのBruce Riedel は、自分のブログに「クリスマスの航空機爆破未遂事件は、アルカイダのイエメン支部がグローバルなイスラム自爆テロ養成の中核になったということを示している。これに対するAli Abdalah Salin 大統領のイエメン政府は、国内の治安を守ることさえ出来ない。それゆえイエメンには米国が軍事的介入する必要がある」と書いている。

2.イエメンの複雑な政治情勢
 もともとイエメンは進歩的な南と保守的な北とに分かれていた。
 冷戦時代、イエメンの南部は、「イエメン人民民主共和国(PDRY)」として、ソ連の保護下にあった。1990年、冷戦の終わりとともにPDRYは、北部のイエメンアラブ共和国と内線状態にあった。それは、南部のPDRYが北部の腐敗したAli Abdullah Saleh大統領の取り巻き政治に対する反乱であった。南部の反乱は破れ、北のSalehが統一イエメンの大統領になった。
 南北が内戦状態にあるとき、北部のSaleh大統領は、イエメンのal-FadhliなどのSalafistsを軍にリクルートした。Salafistsたちのイスラムの解釈は保守的であった。彼らは聖戦戦士として、南部のマルキスト系「イエメン社会主義党」と戦った。1990年以前、米国とサウジアラビアは、南の共産主義化を封じ込めるために、Saleh大統領のイスラム化政策を支援してきた。Salehが大統領の地位に長くとどまることが出来た理由である。
 ところが、Saleh大統領とal-Fadhliとの間に軋轢が生じ、やがてal-Fadhliは、今度は南部の野党の「南部運動連合」に加わってしまった。その後、2009年4月28日、イエメン南部のLahji、Dalea、Hadramount各州で大規模なデモが起こった。これは、南北統一の代償として、南部で、解雇された兵隊や公務員たちが職と手当を求めて立ち上がったのであった。実はこの手のデモは2006年以来続いていた。
 2009年4月のデモには、はじめてal-Fadhliが公然と姿をあらわした。これは、南部の社会主義運動が、より幅広い「民族主義キャンペーン」に変容したことを示す。そして、Saleh大統領が、サウジアラビアや湾岸協力機構に対して、「全アラビア半島が影響を受ける」として、援助を要請した。
 さらに情勢を複雑にしているのは、北のSaleh政権が、シーア派のal-Houthi Zaydiから反乱を起こされているという事実である。2009年9月11日、『アルジャジーラ・テレビ』のインタービューでは、Saleh 大統領は「イラクのシーア派のMuqtada al-Sadrとイランが、同じくイエメンのシーア派Houthistの反乱を支援している」と非難する一方、「イランが仲介の労をとりたい、と申し込んできた」、また「イラクのMuqtada al-Sadrも仲介したいといっている」と付け加えた。
 イエメン当局は、Houthist派から奪った武器はイラン製であったと言っている。一方Houthist 派は、イエメン軍の武器はサウジアラビア製であったと、非難した。イランもサウジアラビアも否定している。

3.イエメンとアルカイダ
vイエメン南北が統一後、Saleh政権は20年になるが、すでに見たようにSaleh大統領は、ますます権力を失いつつある。イエメンの外貨の70%を石油輸出に依存しるので、2008年の石油価格の暴落で、政府の収入は劇的に悪化した。中央政府は北部のサナにありSaleh大統領が石油収入を一手に握っている。石油収入の減少は、Saleh? が反対派を買収する力がなくなることを意味する。一方、石油の産出地帯は南部である。
 そのような状態のところに、2009年1月20日、アルカイダのリーダーの1人Nasir al-Wahayashiが「ジハードのフォーラム」を通じて「イエメンとサウジアラビアに対する新しい基地をイエメンに設けた」という声明をした。彼は「これはアラビア半島を対象にしたアルカイダの統一組織である」と言った。そして、「グアンタナモ刑務所から釈放された囚人番号372のAbu-Sayyaf al-Shihriがal-Wahayashi の代理を務める」と発表した。
 数日後、Webでal-Wagayshi は「我々はここ(イエメン)から出発して、アルアクサ・モスク{エルサレム}で会おう」というタイトルで、ビデオを流した。それには「イエメンのSaleh大統領、サウジの王族、エジプトのムバラク大統領を脅迫し、イエメンからイスラエル、聖なるエルサレムとガザを解放する」と語った。さらに、同じビデオで、元グアンタナモ囚人番号333のAbu-al-Harith Muhammada al-Awfiが野戦司令官になっていることを明らかにした。アルカイダの出現は、al-Fadhli と幅広い南部運動にとって忌まわしいことであった。Al-Fadhli はインタビューの中で、我々はイエメンの南北すべてで、すべての聖戦戦士とつながっているが、アルカイダだけは別だ」と語った。しかし、Saleh大統領は「南部運動とアルカイダは1体だ」として、米国の援助を要請している。
 CIA情報では、「イエメン南部のアルカイダは200人程度」といっている。
 イエメン南部でのこの奇妙な少数でも派手なアルカイダの出現は、幅広い草の根の南部運動に対して、ペンタゴンがこの戦略的地域で軍事介入を行なうのに非常に都合が良い。オバマ大統領は「イエメン国内の争いはイエメン自身の問題だ」といっておきながら、一方では、イエメンに対する空爆を命じた。ペンタゴンは、12月17日と24日の空爆では3人のアルカイダのリーダーを殺したといっているが、真偽のことは判らない。
 デトロイトのクリスマスの爆弾男のドラマは米国が晴れてイエメンに軍事介入することを許可したようなものであった。

4.ソマリアの海賊たち
 ペンタゴンのイエメンに対する軍事介入がはじまるや否や、イエメンとアデン湾とアラビア海を挟んだ対岸のソマリアでは、多国間戦艦部隊が派遣されて、なりをひそめていた「海賊」が、再び劇的に活発化し始めた。12月29日、ロシアのインターネット通信『RAI Novosti』によると、「ソマリアの海賊がアデン湾でギリシアの船を襲撃した。また同じ日、英国の国旗を立てた化学積載船が襲われ、23人の乗組員が連行された」と報道した。
 1日中に起こった2つの漢族襲撃事件は、2009年の年間か海賊事件の中でダントツである。
 では、多国間戦艦部隊による海上パトロールが厳しい中で、海賊たちはどこから武器を手に入れているのだろうか。
 今年1月3日、Saleh大統領はソマリアのSheikh Sharif Sheikkkh Sharif大統領から電話をもらった。Sheikh Sharif大統領は、ソマリア情勢を述べた後で、「イエメンの安定と治安を乱すためにテロ攻撃がかけられるかもしれない」と語った。ソマリアの大統領は首都モガデシオにいるが、全く統治能力を持っていない。彼は「モガデシオ空港大統領」と呼ばれている。

5.石油ルートの防衛
 イエメンとソマリアはBab el-Mandab海峡という戦略的地域にある。Bab el-Mandab海峡は米政府が世界の7つの重要な石油タンカールートの中の1つである。米エネルギー情報庁は「Bab el-Mandab海峡が閉鎖されれば、ペルシア湾からスエズ運河にいたる石油パイプラインを敷くか、アフリカの南端を大回りしなければならない。Bab el-Mandab海峡はアフリカの角と中東、地中海とインド洋をつなぐ要衝の地である」と語った。
 2006年、米エネルギー庁は、Bab el-Mandab海峡を通る石油の量を330万バレルと計算している。
 これはBab el-Mandab海峡に米国やNATOが軍事介入するという口実になっている。たとえば将来、中国やEUが米国の外交に反対することがあれば、すぐに石油輸送を止めることが出来る。また、Bab el-Mandab海峡はサウジアラビアの石油輸出のかなりの部分が通過する。もしサウジアラビアが石油代金のドル決済を廃止したいと企てたとしても、米軍はBab el-Mandab海峡封鎖で阻止することが出来る。
 また中国はスーダンから石油を輸入している。スーダンの石油は、ポートスーダン港から積み出されるが、この港は紅海に面し、Bab el-Mandab海峡の北側にある。中国も重大な脅威を受けている。
 以上のようにイエメンは石油ルートの要衝に当っている。しかし、それだけではない。国際石油資本が、イエメンのMasila盆地とShabwa盆地地帯に世界級の石油の埋蔵を発見した。今までのところ、フランスとトタル石油やその他小さな石油会社が削掘を始めている。米国がにわかに、イエメンに軍事介入し始めたのには、石油が絡んでいるともいえる。