世界の底流  
米国のコロンビア計画

2010年5月13日
北沢洋子

1.コロンビア計画のはじまり

 コロンビアは、南米大陸の北西部の端にあり、南米大陸全体が左派あるいは中道左派政権で、米国に対して一定の距離を置いているのに反して、唯一親米・保守政権である。このコロンビアの立場は、中東におけるイスラエルに似ている。そのために、米国は「コロンビア計画(Plan Colombia)」と名づけられたプログラムを発足させた。
 コロンビア計画が始まったのは、1999年、コロンビアではパストラナ政権、米国ではクリントン政権時代であった。コロンビア計画とは、(1)左翼ゲリラを制圧する、(2)コカインの栽培と密輸を絶滅させるもので、そのために米軍が直接軍事介入すると同時に、コロンビア軍を訓練し、極右の民兵組織を育成する、というものであった。
 米軍による対ゲリラ作戦とコカイン栽培対策は、60〜70年代、米軍が南ベトナムで行なったゲリラが潜んでいる森林を空から枯葉剤を撒くという「枯葉作戦」の再現であった。
 2006年、米国とコロンビアの間に「自由貿易協定」が締結された。これは、コロンビアに米資本が流入するのを保証するものである。これは、以下に述べる、米・コロンビア新軍事協定のさきがけとなった。

2.新たな米軍基地の建設

 09年10月30日、米国とコロンビアは、軍事協定の10年延長に合意した。新軍事協定にもとづいて、コロンビア国内に新たに7ヵ所の米軍基地が建設された。その中の1つは、マグダレナ川の川岸に沿って、牧場や農場が点在する緑の谷にあるPalenquero米軍事基地である。ここには、コロンビアでもっとも長い滑走路(1万フィート)で、3機が同時に離着陸できる。100機の空軍機が滞在している。C−17型機は多くの兵士を給油なしで南米どこでも運べる。この基地には、米陸軍、空軍、海兵隊を含めて2000人の米兵が駐留している。ここには米軍専用の劇場、スーパー、カジノなどの施設がある。建設費は4,600万ドルで米国が払った。
 新協定でも、米国とコロンビア双方とも、米軍基地はコロンビア国内の左翼ゲリラとコカイン栽培・密輸を一掃するためだと言っている。しかし、米空軍の資料では、「南米地域のさまざまな脅威に対して全面的な作戦を展開することを可能にしている」と記されている。勿論、この脅威の中に、反米政府を含んでいる。
 米国防総省がコロンビアと新しく基地協定を結んだ理由には、エクアドルのコレア政権が、マンタにあった米軍基地貸料をキャンセルしたことにある。しかもコロンビアでの米軍の戦闘能力は、「マンタ基地をはるかに凌ぐものがある」と、コロンビアの人権団体や南米の左派政権は警告している。
 悪いことに、新軍事基地協定が締結されると同時に、コロンビア軍の「Falsos Psitivos」スキャンダルが発覚した。コロンビア軍が男の子や青年を、一説では1600人を地方に仕事があると称して集め、大量殺戮したというものであった。そして、死者はすべて左翼ゲリラ(FARC)であると報告した。彼らは、これを手柄にして、ボーナスを貰い、休暇旅行をした。
コロンビアでの米軍基地の新設は、南米大陸で戦略的なコントロールをはかるものである。コロンビア以外の南米の政府は、コロンビアの基地協定の延長に反対している。その中で、隣国のベネズエラは強硬に反対している。チャベス大統領は、南米大陸で「戦争の火種に風を吹くものだ。この協定によって、コロンビアは国家の主権を米国に売り渡した。コロンビアは米国の植民地になった」と、テレビ放送された閣議において述べた。
 エクアドルのコレア大統領も、新基地協定は「ラテンアメリカの平和に対する脅威だ」と語った。
 これらの批判に対して、コロンビアのウリベ大統領は『ワシントン・ポスト』のインタービュゥに対して、「コロンビアの暴力を封じ込めるには、米国の協力が必要だ。これは政治ゲームではない。コロンビア社会に流れる血を止めようとしているのだ」と語った。
 しかし、米軍基地の拡張は、南米大陸に対する戦争の準備で、脅威である。大陸中に血が流されることは、間違いない。
 さらに、コロンビアの米軍基地のすべては、米軍がコロンビア以外の国の軍隊の訓練にも使用される。これは、ラテンアメリカの国ぐにが、現在、国家主権、自治、独立を求めていることに対する挑戦でもある。

3.ゲーツ米国防長官のコロンビア訪問

 今年4月、ゲーツ国防長官がコロンビアを訪問した。彼は「コロンビアは左翼ゲリラとコカイン栽培・密輸に対して勝利した。これは他のラテンアメリカの国にとって学ぶべき良い先例であり、コロンビアはその経験を分かち合うべきである」と語った。さらに彼は、「ペルーとメキシコが、コロンビアの軍事訓練を受けた」と述べた。しかし、そのとき、ホンデュラスの26の市長・副市長とMadrid内相の代表団がコロンビアを訪問していたことには触れなかった。
ホンデュラス代表団の訪問は、1月にコロンビアのウリベ大統領がテグシガルパに立ち寄って、Pepe Loboの大統領の就任式に出席してくれたことの返礼であった。ウリベの行為は、正当なソラヤ大統領を倒したクーデタを合法化することに手を貸すことになった。
 ゲーツは、彼がCIA長官でウリベが上院議員であった1991年に、彼が国防総省に提出した報告書の中で、「ウリベはメレディン・カルテルの熱烈な協力者である。ウリベはコロンビア麻薬王といわれた(故)Pablo Escobar Gaviriaの個人的な友人である。しかもウリベは米国内の麻薬取引にも関与している。ウリベはまた、米国とコロンビア間の犯人引渡し条約に反対した政治家の1人である 」と書いたことを忘れたようだ。
 ゲーツ長官はコロンビア計画を成功だと称賛したが、実際には、米国は何十億ドルものカネをつぎ込んでも、麻薬の取り締まりに成功していない。しかも、農民たちは、枯葉剤の空中散布で、バナナや牛、鶏、そして子どもたちが被害を受け、一方、コカ畑はますます生産量を上げている。
 コロンビア計画と民兵の「死の部隊」による暴力によって、コロンビアはスーダンに次ぐ、国内難民が多い国になってしまった。