世界の底流  
コンゴの虐殺の真相
2010年9月19日

1.国連特別報告書

 9月9日の『インターナショナル・へラルドトリビューン(IHT)』紙によると、「民主コンゴ共和国(旧ザイール)の東部(ゴマ州とブカブ州)での重大な人権侵害についての報告書」のコピーを手に入れたと報道した。
 報告書は、ジュネーブに本部を置くNavanethem Pillay国連人権高等弁務事務所長が、1993年から2003年にいたる11年間、コンゴ東部に起った暴力事件を詳細に調査したものである。この報告書は、7月に、コンゴ東部に軍隊を派遣しているルアンダ、ウガンダ、ジンバブエ、アンゴラ、ブルンディなどに対して、コメントを書くように配布してあった。そして、コメントがあれば、報告書と一緒に発表されることになっていた。これは人権高等弁務官側の最大の譲歩であった。
 ルアンダとウガンダは、報告書の内容を問題にする前に、受け取りを拒否した。とくにルアンダのカガメ大統領は「この報告書を発表するなら、スーダンのダルフールに派遣している3,600人のルアンダ平和維持部隊を引き上げる」と脅かした。
 潘基文国連事務総長は、妥協の産物として、10月1日まで報告書の発表を遅らせることにした。これは、ダルフールの軍隊を撤退しないようにルアンダを説得するために時を稼ごうというのであった。ダルフールでの平和維持部隊は、国連とアフリカ連合(AU)の協定に基づいてアフリカ諸国の軍隊によって成っている、その中でも最大規模はルアンダ軍であった。
 第2の理由は、今年はじめ、潘基文事務総長は、国連の新設である「ミレニアム開発ゴール顧問グループ」の共同代表に、スペインのサパテロ首相とともにルアンダのカガメ大統領を任命したばかりであった。したがって、ルアンダの虐殺行為を暴く報告書の発表には、躊躇せざるを得なかったのである。
 第3の理由は、カガメ独裁政権が、米国の最大の同盟国であるという点にある。米国の黒人左翼の情報誌『ブラック・アジェンダ・レポート』のGlen Ford 記者は、ルアンダは「アフリアにおける米国の利益の雇い兵だ」と言っている。
 もし、この国連報告書が発表されれば、誰が虐殺と暴力の最終受益者であるか、明らかになる。
 それは、レイプ事件が集中している場所が、不法に採掘された鉱産物の中継地にあたっているということにある。この非合法な取引をしているのは、隣国ルワンダである。そして、これらの鉱産物の最大の買い手は米企業である。
 すでに、1994年10月11日、国連「ルアンダ問題専門家パネル」に対して、Robert Gersony難民高等弁務官事務所が、フツの難民がコンゴからルアンダに安全に帰国することが出来るか、という質問に、次のように証言した。
 「ルアンダ愛国戦線(カガメ政権)」軍は、ルアンダ国内で、フツ族住民にたいして、系統だった、永続的な虐殺を繰り返している。」と証言している。したがって、今回の報告書は、初めてでない。しかし、国連は、この証言を秘密文書扱いにした。
 今年8月26日、『ルモンド』紙、『ニューヨークタイムズ』紙などが報告書をリークして、その内容を発表した。545ページにわたる報告書は、コンゴにおける500件の残虐行為を調査したものである。これらは、コンゴ東部に侵入したルアンダ軍とそれに付属する現地の反乱軍が何万人ものフツ族を殺した、と書いてある。

  1. ルアンダの大虐殺の歴史的背景

この事件には歴史的な背景がある。
1994年、ルアンダでは、多数派のフツ族過激派がツチ族と穏健なフツ族を、約1週間の間に、100万もの大虐殺をするという事件が起こった。すると、それまでタンザニアに亡命していたツチ族の「ルアンダ愛国戦線」が国境を越えて攻め込み、首都キガリを占領し、カガメ政権が誕生した。
 今度は逆に、多くのフツ族が、報復を恐れて、隣国のコンゴ東部に逃げ込んだ。その中には、当然のことながら、1994年の大虐殺の犯人たちも含まれていた。
 ルアンダのカガメ政権は、ルアンダ軍をコンゴ東部に送り込み、のフツ族難民に対して、広範な攻撃を開始した。今回の国連報告書は、これら「虐殺の罪」を調査したものである。

3.国連安保理事会での証言

  9月7日に開かれた国連安保理では、Arul Khare平和維持副局長ともう1人の国連本部の高官が、「北キブ州では257人の女性がレイプされた。その中には28人の未成年女児がいた。犠牲者の中の150人は13の村に集中していた」証言した。
今年7月から8月の2ヵ月間で、北キブ州と南キブ州で約500人の女性がレイプされた、と述べた。
 続けて2名は「国連の平和維持の活動は充分ではない。その結果、この地域の住民に対するとうてい受け入れられない暴力が振るわれている」と述べた。国連の平和維持部隊は、レイプの現場から30キロという近いところに駐屯していた。しかし、国連の部隊は、今年の8月2日まで、誰もレイプの現場を訪れたものはいなかった。
 また、最近国連が設けた「武力紛争地での性的暴力担当局のMargot Wallstrom局長は、安保理に対して、「北キブ州でのレイプ事件は、孤立した出来事ではなく、広く、かつ体系的にレイプと略奪が戦闘の武器になっている」と述べた。

4.コンゴ東部の鉱産物の不法採掘と密輸

 ルアンダ政府軍はコンゴ東部で不法に採掘されたコルタン、金、カシテリテ、ウルフラマイトなどの稀少金属鉱石をルアンダに密輸し、これを国際市場で売りさばいている。この密輸はルアンダに何百万ドルもの利益をもたらす。
 2000年、デンマークのBjorn Witlum記者が、ルアンダ・ナショナル銀行から手に入れた統計では、ルアンダ国内ではコルタン鉱石の採掘高は83トンであるにもかかわらず、輸出高は603トンになっていることを発見した。同時に、彼は、当時、米軍から訓練を受け、資金も出してもらっていたルアンダ軍が、コンゴから不法に採掘したコルタンなどの稀少金属鉱石を、年間2億5,000万ドルの利益を得ていたことも発見した。
 その10年後、「国連ルアンダ問題専門家パネル」は、「2009年民主コンゴにおける不法な天然資源の収奪」と題した報告書を発表した。報告書によれば、これらの鉱産物をコンゴで不法に採掘しているのは、最も凶悪な “民兵”であり、それから買い付け、国際市場に密輸しているのはルアンダ政府軍である。ルアンダ政府軍はここから莫大な利益を得ており、多分、そのうちのいくらかは、彼らの背景にいる米軍に流れている。また、西側の巨大な鉱山会社や鉱産物ブローカーがこの「資源戦争」に間接的に資金を提供している。バイヤーたちは、これら鉱産物がルアンダに届くのを待つだけでよい。
 国連のパネルが発表したのはこれが初めてでない。これまでパネルは2001年、2003年にすでに報告書を発表している。NGOの「国際レスキュウー(IRC)」は、1990年代に始まった「資源戦争」により、500万人、その大部分はコンゴ人が、殺された、と言っている。
2008年、NGOの「草の根和解グループ」のSasha Lezhnev 代表は、ルアンダ駐在の米大使に会い、この「資源戦争」について、質問したところ、「何のことを言っているのか判らない」と答えた。しかし、米国も、コンゴ東部で起っている悲劇に無感心ではいられなくなった。2009年米上院は「コンゴ紛争鉱産物法」を採択した。これは米国の企業が、コンゴ産のコルタン、カシテリテ、ウルフラマイト、金などの鉱石を使う時、それが紛争地域で産出されたものでない、ということチェックする制度を設けることを決めた法律であった。しかし、この法律はルアンダのカガメ政権の役割に一切触れていない。
 NGOの「Enough Project」のDavid Sullivanは、ブッシュ政権時代にホワイトハウスでコンゴ問題のPRを担当していた高官が、ブッシュ時代が終わるとともに、フリーポート・マクモラン社の職に天下った。同社は、コンゴ東部で、銅とコバルト鉱山を経営している。
米国がコンゴの鉱産物に依存しているのは最近のことではない。