世界の底流  
核武装に走る中東

2010年12月6日
北沢洋子

 核をめぐる中東情勢は悪化している。60年に及ぶイスラエル・パレスチナ紛争が、核競争を促進しているからだ。それは、
 第1に、イスラエルが核不拡散条約(NPT)への加入を拒否している。
 第2に、中東を「非核地帯」と宣言するのを米国が阻止している。そして、
 第3に、アラブ諸国が核競争に走っている。
 そして、イスラエルとパレスチナの直接対話を図ろうとする米国の外交は頓挫した。
 一方、国際原子力機関(IAEA)は、ウイーンでの9月24日の総会で、イスラエルを核不拡散条約に加入させることと、イスラエルが核施設の必須監査を受け入れさせること、に失敗した。イスラエルは中東で唯一の核保持国である。
 アラブ諸国、非同盟諸国、そして一部の西側諸国が共同で提出したイスラエルのNPT加盟要求に対して、米国が強く反対した。アラブのイニシアティブは「エジプトが提案している2012年までに中東の大量破壊兵器フリーゾーンを宣言するという提案の妨げになる」と言うのが、米国の理由だった。さらに、米国はこのような提案はイスラエル・パレスチナ和平交渉に悪影響を及ぼす、とも言った。
 イスラエル自身も、IAEAの総会で、イスラエルを対象にしたアラブ諸国の提案は中東の安全保障にとって致命的な打撃となる、と述べた。
 IAEA総会では、アラブ案についての激しい外交交渉の末、IAEA加盟国151カ国の中で、51カ国が反対、23カ国が棄権し、46カ国が賛成した。この結果を受けて、アラブ連盟のAmre Mousa事務局長は、ニューヨークで「イスラエルをNPTに加盟させられなかったことは、IAEAの存在基盤を揺るがすもの」と述べた。そして、今後もアラブ案を提出し続けると語った。
 NPTは1970年に発効し、現在189カ国が批准している。その中にはイランも入っている。イスラエルはNPTに加盟を拒否しているだけでなく、NPTの核についての3つの柱である、「核非拡散、核軍縮、核の平和的利用」をも拒否している。
 最近、トルコが中東の核競争に加わった。7月13日、トルコ議会は、ロシアとの原子力発電所についての協定を承認した。それは、Mersin州の海岸沿いにあるAkkuyu市に建設する予定である。このプロジェクトは、トルコとロシアが共同で運営する。総額200億ドル、4年間で建設する。一方、トルコはアラブと非同盟諸国が提案する「中東の非核地帯宣言」を支持している。9月21日、トルコのAbdullah Gul大統領は、「国連がこの提案を採択すべきだ」と語った。
 クエートは、9月21日、ロシアと核開発協力の覚書に署名した。クエートはすでに4月にフランスと協定を結んでいる。Ahmed Bishara原子力平和利用委員会事務局長は、「ロシアとの協定は、クエート国内に原子力発電所のネットワークを作るためだ」と語った。クエートは2022年までに4つの原発を建設する予定である。
 ヨルダンは、ウランを埋蔵している。最近、フランスの大手Areva社、日本の三菱、それに韓国と、原発を建設する協定を結んだ。これはヨルダン初の原発となるだろう。
 カタールとモロッコはフランスと原子力協定を結んでいる。エジプトはロシアと原発建設の協力協定を結んでいる。
 スーダンは、8月22日、原発を建設すると宣言した。
 トルコの参加でもって、中東13カ国+イスラエル、イランは核競争を加速させている。それは、アルジェリア、エジプト、トルコ、イラク、ヨルダン、モロッコ、クエート、カタール、サウジアラビア、シリア、チュニジア、アラブ首長国連邦、スーダンなどである。
 今年5月3〜28日、ニューヨークの国連本部で「NPTレビュー会議」が開かれた。ここで米国は、アラブ側の「核フリーゾーン(非核地帯)」の提案に対して、イスラエルとの和平とイスラエル国家の承認が前提だと言った。しかし、その見返りにアラブに何を約束するのかについては曖昧だった。
 ここでは、また、エジプトが代表となって、アラブ諸国が提出した「報告書」に対して、米国は強い圧力をかけた。これには、トルコと非同盟諸国が強く支持した。
 アラブの草案は、このレビュー会議で、1995年に採択された国連の「中東の核フリーゾーン」決議を再確認することと、そしてこれを確実に実行することを要求するものだった。また、アラブ提案には、すべての国がすべての核施設についてIAEAの必須監査を受けることを呼びかけている。さらにアラブ草案は、イスラエルが直ちにNPTに加盟することを呼びかけている。
 このレビュー会議の1週間前、エジプトの外相が「すべの国がNPTに参加する」ことを呼びかけた。そのときのエジプトの提案は以下のような原則にもとづいている。
 第1に、大量破壊兵器を保有することは、中東のいかなる国の安全保障を保証するものでない。
 第2に、イスラエルが核兵器について立場を明確にしないことは、中東の安全保障を揺るがすものである。
 第3に、あらゆる種類の大量破壊兵器の完全な撤廃には、いかなる例外も設けない。
 第4に、中東の大量破壊兵器の撤廃を行なう際には、国連の関連機関の立会いのもとに行なわれる。
 終わりに、イスラエルのNPT加盟拒否が続く限り、イランとの核交渉は進まないし、イスラエル・パレスチナの和平交渉も進まないだろう。