世界の底流  
コレラ発生の中でのハイチの総選挙

2010年11月30日
北沢洋子

 ハイチでは、2010年1月12日の大地震のために2月28日に予定されていた大統領選挙と議会選挙が延期になっていた。すでに1年近く、被災者たちは、1300ヵ所のテントで暮らしている。コレラが発生し、すでに死者の数は現在1,600名を超えた。
 このような混乱した状況の下で、11月28日、大統領と議会(上院は3分の1)の選挙が強行された。これには、米国、カナダ、そして国連の強い要請があったためだという。  
 しかし、ハイチの総選挙は、通常の意味での選挙とはほど遠いものであった。人びとは選挙の無効を訴えて、激しいデモを繰り広げている。
 ハイチの人権団体である「正義と民主主義研究所」はハイチの総選挙の混乱の原因を以下の3点挙げている。

@プレベル大統領が任命した選挙管理委員会が、最も人気の高い政党「ラバラス・ファミリイ(Fami Levalas−FL)」を非合法化したことから始まった。FLは、2004年、ハイチ軍と米国によるクーデターで捕らえられ、中央アフリカに亡命したアリスティード前大統領が率いる政党である。当時のラムスフェルド米国防長官は、「アリスティードを西半球に帰してはならない」と語ったという。

Aコレラ禍は依然として深刻である。飲み水、下水道、医薬品などが払底している。このように、地震の復興が全く進んでいない。

B首都ポルトープランスでは毎日のようにデモが起こっていた。このデモは政府が300万人に上る地震の被害者に無策なことを抗議する平和的なデモで始まるのだが、警察が発砲し、流血の惨事となってきた。それは、11月15日と16日、Cap Haitiens市で、国連軍とハイチ警察がデモ隊に発砲して、2人を殺した。ポルトープランスでは、崩壊した国家宮殿の前にある「Marsキャンプ」に向かって催涙弾を発射したため、女性や子どもたちに被害を与えた。

 同研究所は、国連の平和維持軍(MUNUSTAH)が投票所を護衛していることが、選挙を平和的に終わらせるのはなく、むしろ暴力を誘発したと非難している。さらに、人びとは、国連のMUNUSTAHが、住民の水源になっているArtibonite川に汚物を流し、これがコレラの原因だと非難し、国連軍の撤退を要求している。
 「米州保健機構(CDC)」は20万人が発病し、10,000人が死亡すると予測している。また10月27日付けの「AP通信」によれば、Katz記者が国連軍の基地に入ったとき、「今夏コレラが発生したネパール軍がハイチに配属した直後、コレラが発生した」と報道した。Katz記者は「基地の汚物タンクは満杯で、溢れ出していた。また、壊れたパイフから川に向かって汚物が流れ込んでいた」と言った。
 ハイチには10年前の2000年に、米州開発銀行が上下水道の整備のために5,400万ドルを融資している。しかし、ハイチ軍と米国が、民主的に選出されたアリスティード政権を覆し、米州開発銀行に融資をストップするよう圧力をかけたため、このプロジェクトは停止してしまった。
  今年3月、国際社会はハイチの復興にために53億ドルの援助を約束した。「ジュビリーサウス」は、これまでハイチが債務返済のために支払ってきた額に及ばないと、言っている。しかし、今日に至るまで、復興事業はほとんど進んでいない。