世界の底流  
ギリシア、アイスランド、ラトビアの金融破綻
2010年2月28日

はじめに

 2007年、グローバル資本主義は破綻した。その中心的な原因は、

  1. 米国での実質賃金が増加しなくなったため、労働者が負債を返済できなくなった。
  2. グローバルな生産過剰が始まった。
  3. 資金投機は爆発的に増え、銀行、他の金融機関、金持ちなどが過度にハイリスク・ハウリターンの投資に走った。
  4. 巨大な格付け会社が債権のリスクを、組織を挙げて、不当な格付けしたこと。
  5. 約4半世紀にわたって、政府が監督や規制をすることなしに、企業や金持ちに依存してきた。その結果、選挙資金提供者、企業ロビイストがはびこった。
  6. 政府の債務が急増した。
  7. 貿易や資本投資が極端に不均衡となった。たとえば、米国の巨額の貿易赤字、中国の貿易黒字など。

が挙げられる。しかし、資本主義の危機は、EUの外縁部で始まった。

1.EUの外縁部での金融破綻

 債務危機は、これまで途上国に限られていた。それが先進国のヨーロッパにも波及した。ギリシア、アイスランド、ラトビアというEUの外縁部で、次々と金融破綻が起った。
 IMFとEUは、これらの国に対してネオリベラルの厳しい緊縮政策を課した。
 しかし、これは正しい処方箋ではない。なぜなら、巨額の債務は政府の責任ではないからだ。例えば、ギリシアの危機の根源は、ドイツ経済の停滞を救済するために、ギリシアに低利子政策を押し付けてきたことにある。ギリシア政府の債務はGDPの120%にのぼっている。
 また、アイスランドとラトビアの債務は、政府ではなく、民間銀行の責任である。
 しかし、EUとIMFは、これらの国に対して、民間債務を政府の公的債務に転換し、その返済を国民に対する増税でもって充てること、財政支出を削減すること、そして、個人の貯蓄を召し上げる、といったネオリベラルな措置を押し付けた。
 当然のことながら、人びとの怒りは、このような危機をもたらした銀行に向けられたばかりでなく、自国の政府や、銀行・公共インフラの民営化の圧力をかけるネオリベラルな外国人アドバイザーや外国の債権者たちに向かった。

2.EUの共通通貨ユーロの破綻

ギリシア

 最初に反乱を起こしたのは、ギリシアであった。まず、政府はブルッセル(EU本部)の「賃下げ」圧力を拒否した。ギリシア社会主義運動党(PASOK)のPapandreou首相は「賃金労働者にこのような代償を払わせることは出来ない。賃金凍結や賃下げはしない。私は、ギリシアの社会保障制度を崩壊させるために政権についてのではない」と語った。 
 Papandreou首相がこのようにEUに対して“手袋を投げた”のは、EUやIMFがギリシアに対して、通貨を切り下げるといったIMF流の超緊縮政策を押しつけたせいだった。 
その結果は破壊的であった。
 まず通貨を切り下げすることは不可能である。なぜなら、ギリシアのユーロはEUのすべての国で流通しているからだ。そしてギリシアはIMFの緊縮政策を受け入れたために、債務を返済すべき財源がない。このようにIMFの処方箋は矛盾だらけである。誰もおおやけに言わないが、たとえギリシアであろうが、ドイツであろうが、本来的にユーロは機能不全に陥っている、ということである。
 ギリシアに続いてスペイン、ポルトガル、イタリア、アイルランドといったユーロ圏の外縁部でも経済危機が始まっている。

アイスランド

 アイスランドはEUに加盟するのを躊躇している。なぜなら、EUに加盟する条件として、アイスランドは、Landsbanki銀行のインターネットバンキング部門のIceSaveの破産で、損をした英国人やオランダ人顧客に返済することが条件付けられているからだ。
 ノルウエイ=フランス人の判事Eva Joly氏は、アイスランド政府の依頼で、銀行の破産を調査しているのだが、EUの条件は「脅迫状に等しい」と語った。彼女は「EUの条件は、アイスランドの国庫を空にし、アイスランド人が仕事を求めて全部国外に移住してしまうことになる」と語った。
 アイスランド経済は2009年第4四半期に7.2%のマイナスを記録した。これは史上最大のマイナスである。しかし、アイスランド議会は昨年12月、「IceSave法案」を通した。これで、アイスランドの総人口30万人に対して、英・オランダ人の預金は40万口にのぼり、アイスランドのGDPの半分近い34億ポンドを15年かけて年利5.55%という高利付で返済しなければならない。

ラトビア

  ラトビアはEUのメンバーだが、ユーロ圏に入っていない。ユーロに加盟するための条件を満たしていないからだ。EUとIMFは、ラトビア政府に対して、為替レートを安定させるために他国から外貨を借り入れるよう要求した。それは、外貨で債務を返済するためであった。
また、IMFは救済融資の条件として、財政の緊縮を課した。
 他の国は経済不況対策として、GDPの1〜10%にのぼる大量の財政出動を実施している。しかし、ラトビアは、38%もの財政削減と、増税をしなければならない。
 現に、2009年11月、ラトビア政府は、11%の財政削減を断行した。一方、ラトビア政府は、すでに増税しており、公共支出を削減し、何十もの公立学校や病院を閉鎖した。その結果、中央銀行は、「2009年のGDPは17.5%下落するだろう」と予測している。これではラトビア経済の再建は望めない。
 皮肉な見方をすれば、EU、IMFは、ポストソ連の国ぐにの経済自立をはかるのではなく、これらの国ぐにから利子を稼ぎ、キャピタルゲインを得る対象とでしか見ていないのではないか。

3.人びとの反撃

 人びとは決して沈黙しているわけではない。
 ラトビアでは、議会が政府の債務を議論していた時、何千もの学生と教師が「学校の閉鎖と60%もの教師の賃下げ」に抗議して、街頭でデモをした。「彼ら(政府)は魂を悪魔に売り渡した」「貧困反対」などのスローガンを掲げた。
 アイスランド議会では、IceSaveについての議論は記録的な140時間に及んだ。しかし、人びとは、政府の債務でないのに、債務返済をするべきではないとする世論が大勢を占めている。
 2009年12月3日付けの『The Daily Mail』紙は「2008年にアイスランドの経済が崩壊して以来、ブルッセルの帝王たちは、結局、アイスランドはEUに加盟することによって、安定と引き換えに独立を売り渡すことになる、と確信している」と書いている。
 しかし、最近の世論調査では、54%の人がEU加盟に反対しており、賛成派は29%であった。しかし、廃墟の中で学んだものは、独立が最も大切だということだった。たとえ、EUに加盟すれば、ヨーロッパ中央銀行が、債務帳消しをしてくれるという可能性があるにしても、、、、
アイスランド、ラトビア、ギリシアともにIMFとEUの条件を拒否している。

  経済学者のMarshall Auerbackは、以下のことを実行すればラトビアの債務問題は一週間で片付くであろうといっている。それは(1)政府は外国の債権者の電話を一切出ないこと、(2)銀行は破産宣告をし、対外債務を資本金に換えたのち、再び、銀行の業務を再開し、現地通貨での100%の元金補償を約束する、(3)労働者に現地通貨での最低賃金と健康保険を保証する、の3項目を実行することである。
 『International Business Times』誌のAmbrose Evans-Pritchard記者は、「ギリシアの経済再建には、アルゼンチンの例が模範になるだろう」として、「ギリシアは現地通貨ドラクマに復帰し、その通貨の為替レートを切り下げ、そして、国内のユーロ負債をドラクマ建てに換えるという法律を制定し、外国との契約を見直す、などといった、アルゼンチン流」の解決を提案している。

4.アルゼンチンの成功

 IMFに楯突くことは用意ではないし、例を見ないことであった。しかし、2001年、アルゼンチンは外国からの救済融資がなければ経済は崩壊すると予測されていたのだが、あえて、1,000億ドルの債務不払いを宣言した。その3年後の2004年秋には、アルゼンチン経済は回復した。しかも、外国の援助なしに。アルゼンチン経済は、これまで2年続いて8%の成長を記録している。輸出は増大し、通貨のペソは安定し、外国の投資家は戻り、さらに失業率は減った。
 これは、歴史的な業績である。ワシントンのCenter of Economic and Policy Researchの Mark Weisbrotは、『ニューヨークタイムズ』紙のインタービューに「これは、過去25年続いた誤りの経済政策に対する挑戦である。アルゼンチンは、周辺の国ぐにの経済が低迷している中で健全な経済成長を記録している。しかも、一切妥協することなく、そして外資は戻ってきた。
 アルゼンチンは開発資金を、外国投資に頼らずに、中央銀行が現地通貨ペソを発行し、ペソで融資をした。とくに通貨ペソが破綻した1995年と2000年には、地方政府が、地方債を発行して、これを地域通貨として流通させた。地方政府は、職員に、「債務帳消し債」と名づけられた紙幣で給料を払った。これは、アルゼンチン・ペソと同じ価値を持つものであった。
Mark Weisbrot氏は、2009年10月、IMFに債務を負う41カ国の調査報告を発表した。それによると、IMFによって財政削減、金融引き締めなどの緊縮政策を強いられた国の経済は、回復しないどころか、後退している、という。
 また、アルゼンチンと同時期、2001年に金融危機に陥ったトルコは、IMFの処方箋を忠実に実行した。その結果は、アルゼンチン経済は回復したが、トルコは慢性的な財政赤字、輸出の低迷、巨額の対外債務、政情不安、格差が増大している。
 勿論、ギリシア、アイスランド、ラトビアに比べると、アルゼンチンは国も大きいし、資源も豊かである。しかし、国は小さくても、技術開発によって、国を維持することが出来る。

5.ドバイの債務不履行

 2009年11月25日、アラブ首長国連邦の1つであるドバイが債務不履行に陥った。いよいよ湾岸産油国にまで金融崩壊が及んだのではないかと見られ、マスコミは「ドバイ・ショック」と呼んだ。
 しかし、これはドバイ政府の債務不履行ではない。また、湾岸の他の国に飛び火するものでもない。「Dubai World」という巨大な民間のデベロパー資本の破産であった。Dubai Worldは、債務返済のモラトリアムを宣言した。

 早速、同じアラブ首長国連合のメンバーで豊かな産油国のアブダビが、8,000億ドルを事業資金として提供を申し出た。しかし、Dubai Worldの負債は600億ドルであった。「Dubai World」という民間のデベロパー資本の破産であった。アブダビは、この申し出でもって、ドバイ政府と経済の改革を迫ったのであった。