1.G8サミットからG20サミット
今年のG8サミットは、6月25〜26日、カナダのトロント北方200キロにある保養地ムスコカで開かれた。続いて6月26日夕べから27日、同じムスコカでG20が開かれた。
このことは、長い間、世界の最も金持ち国として君臨してきたG7(米、日、独、英、仏、カナダ、イタリアの主要先進7カ国)が、「リーマンショック」以来、自分たちだけではグローバルな金融危機を解決できなくなったことを示している。
そもそもG20というグループは、WTOの議論の中から生まれた。WTOの最大の争点である農業協定、工業製品の関税引き下げなどをめぐって、南北が激しく対立したので、途上国が圧倒的な数を占めるWTOの全体会議をバイパスして、「主要な南北の少数の国」の間で合意しようという意図で生まれたのが「グリーンルーム」会合であった。これは、WTOの「事務局長のお友だち」、すなわち、事務局長によって恣意的に招待された会合であった。したがって「グリーンルーム」は、WTOの全体会議で選出されたものではなく、アドホックな存在である。
今回のG20も、その中に入っている途上国は、途上国全体を代表するものではなく、また国連の途上国集団「77グループ」で選ばれたものでもないアドホックな存在である。
また、G7のメンバーも、恣意的に集まったもので、同じくアドホックな存在である。G8、G20ともに、国連とは無関係なグループである。したがって、ここでの合意は、国際法上、何ら効力をもっていない。また、パリに事務局を置く「経済協力開発機構(OECD)」も、先進国クラブと呼ばれているが、G8と同じく、国連外の国際組織である。しかし、OECDの中にある開発行動委員会(DAC)は、「パリ・クラブ」と呼ばれ、途上国の2国間債務を牛耳る恐るべき存在である。
「リーマンショック」を機に、新たに設けられたG20は、世界人口の80%を占め、全世界のGDP総額の80%を占めている。2008年11月以来、これまで3回の蔵相クラスの会合がもたれてきた。
G7サミットは、70年代、石油ショックを機に開かれるようになった。最初からG7でなく、米、英、仏、独から日本、カナダ、イタリアの順にきわめて恣意的に拡大してきた。のち、ロシアが加わって、G8と呼ばれることになったが、主要な議論はG7間で行なわれ、ロシアは儀式的な部分にだけ参加している。
今回、カナダでG8サミットに続いて、G20サミットが開かれたことは、注目すべきことである。G8は、高い成長を続ける中国やインドを除外して、グローバルな金融危機を議論することが出来なくなった。
現に、中国のGDPは、世界第3位のドイツを抜き、近い将来、日本を抜いて第2位になる可能性がある。これまで、中国は「世界の工場」と呼ばれて、先進国の下請けに甘んじていたが、最近の産業構造の高度化は著しく、先進国と競合するようになった。
2.景気を刺激する「財政出動」か、財政再建のための「緊縮政策」か
今回、G8、G20のサミット開催国のカナダは、保守党政権に交代した。当初、G8サミットでは「途上国支援(国連ミレニアム・ゴールの達成)」を、G20サミットでは、「経済」を議論すると計画していた。しかし、ギリシャで財政危機が発生し、その脱出策をめぐって米国とヨーロッパの間に根本的な対立が明らかになった。そこで、カナダ政府は直前になって、G8サミットの議題に「金融危機からの脱出策」を加えることを各国に通知した。
ギリシャの財政危機は、ギリシャ政府の国債を多く持っていたドイツの銀行やヘッジファンドが、国債市場に大量に売り出したことに始まる。ギリシャはユーロ圏に入っているので、為替切り下げのような独自の政策をとることができず、結局、緊急融資と引き換えに、EU、IMFの財政緊縮政策を飲まざるを得なくなった。
これは、公務員の解雇や賃下げ、教育、医療、福祉予算の削減と付加価値税の増税などといった民生に犠牲がしわ寄せられる緊縮政策であった。これは債務危機に陥った途上国にIMFが押し付けた悪名高い「構造調整プログラム」と同じ政策である。しかし、ギリシャの強力な市民社会は、今もなお、これに対してストやデモによって反撃している。
ギリシャの危機は、同じような財政危機を抱えているEUの周辺国に飛び火する危険がある。それは、ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインなどであり、「PIIGS」と呼ばれる。危機の蔓延を恐れる英国やドイツなどEU主要国は、財政赤字を減らすために、緊縮財政と増税が出口政策だと主張している。
一方、高い失業率、低い購買率という不況から脱出しようとしている米国は、景気を刺激するために財政出動を継続するべきだと主張している。
両者の政策の違いは根本的なものである。
しかし米国のドルが世界通貨だということも考慮に入れなけばならないだろう。米国は巨額の財政・貿易・個人の3大赤字を抱えている世界一の債務国だが、ドル紙幣を増し刷りし、国債を世界中の政府に買わせることで、破産を免れている。米国にとっては、EUが緊縮政策の結果、市場の需要が減り、かつユーロ安になることは、その輸出にとって打撃である。とくに今秋、中間選挙を控えているため、オバマ政権にとって、これは死活問題である。
一方、EUの経済大国であるドイツは、第1次世界大戦後、巨額の賠償金の支払いによって、超インフレに襲われ、ナチスの台頭につながったをいう恐怖感が根強い。したがって、借金による財政出動に対して敏感に反応する。また、保守党政権に交代した英国では、各省庁の予算を一律2割削減し、GDP比11%の財政赤字を2015年までにほぼ解消するというドラスチックな荒療治を行なう構えである。
G8サミットでは、米国のオバマ大統領がまとめにかかった。それは「経済成長は重要である」ことをまず確認し、「成長させるための手段で各国が悩んでいる」どいう「問題意識をシェアする」という、わけのわからない「常識」をコミニケに記載することで終わった。
3.G20サミット
G20サミットは、一様に金持ちであるG8に比較すると、国の発展レベルがとてつもなく異なっている。そこで、今回のG20サミットでは、経済を安定させるという単純な課題にも答えが見つからなかった。まして、金融危機、食糧やエネルギー、開発援助、気候変動などグローバルな課題について、議論することが出来なかった。
G20サミットは「宣言文」を採択した。まず、ここではオバマ大統領が狙った景気回復のための財政出動という案が退けられた。しかし、経済成長を、西側の輸出市場と外国資本投資に依存しているインドなどは、オバマ案に賛成だったが、緊縮財政を主張するヨーロッパ勢に寄り切られた。しかし、これまでのインドへの外国資本投資は、多国籍企業による広大な土地と資源の略奪を前提としたものであった。
ヨーロッパは、自国民に危機をしわ寄せするか、あるいはグローバルな経済ヒエラルヒーでの優位な地位を失う危険を冒すか、という2つの選択肢にたたされた。そこで、議長であったカナダのJim Flaherty 蔵相が介入し、「財政赤字を退治」という戦闘的な言葉の代わりに、「財政の健全化」という表現を「宣言文」に盛り込んだ。また「持続的な回復が鍵である」という文言も挿入した。「健全化」という言葉は、「宣言文」27ページの中に、19回も出てくる。そして「健全化」という言葉の前に「成長に優しい」という形容詞がついている。そして、カナダは、「金融規制」ということばを注意深く除いた。
また、WTO、IMF、世銀などでマントラとなっている「貿易の自由化」という言葉も盛り込まれた。これは米ヨーロッパの輸出補助金か、あるいは途上国の工業製品の関税引き下げを指すのか明らかでない。
「健全化」と「自由貿易」のほかに「宣言文」で触れている課題は、そんなに多くない。
(1)たとえば、「ハイチ地震に対する援助」が謳われているが、その額は、先進国政府が銀行救済に注ぎ込んだ額に比べるとはるかに少ない。
(2)気候変動に関する「コペンハーゲン合意」については、国連事務総長の「ハイレベル諮問グループの気候変動融資」報告の発表を待つ、と書いてある。そのための融資は、「革新的な資金に依存する」と述べている点が興味を呼ぶ。
(3)メキシコ湾での石油流失汚染に関連して、「沖合い石油採掘のモラトリアム」についは、G20には荷が重過ぎたのか、全く触れていない。
(4)バングラデシュ、ルワンダ、ハイチ、トーゴ、シエラレオネに農業開発に対する無償援助2億2,400万ドルを決めた。このような慈悲深い援助だが、実はG8,G20の警備費用総額の5分の1に過ぎない。実際、G20の「宣言文」は1ページ当たり3,700万ドルが費やされたことになる。
4.G20サミットにおけるIMFの役割
G20は、2008年11月、誕生以来、IMFに、技術的助言、監視、調査といった3つの部門を委任してきた。
IMFは、「技術的助言」の名の下に、これまでG20に多くの介入を行なってきた。このIMFの役割は、IMF協定条項では、認められていない行為であり、また加盟国にとっても、従う義務はない。また、IMFの「透明性」政策に照らし合わせると、IMFの「技術的助言」の内容が公にされることはない。
IMFはこの「技術的助言」の名目で、G20の「相互評価プロセス」のいわば調整機関の役割を果たしてきた。2009年9月、ピッツバーグでのG20のサミットでは、G20は「強力で、持続可能な、均衡のとれた成長の枠組み」を発足させた。
この「成長枠組み」条約は、G20国の政策が相互に適合しあっているか、より持続可能な、均衡のとれた成長であるのかを追求しているか、共通の目的に沿った行動をとっているか、などを評価するときの「契約(Compact )」である。
このIMF主導の「成長枠組み」評価のプロセスは、まだ1年しか経っていないが、G20は、これを毎年の評価プロセスにしたいと考えている。
「成長枠組み」の年次評価プロセスは、IMFのスタッフが作成し、2009年12月、IMF理事会が承認され、2010年1月に公表された。それに沿って、G20国はそれぞれ国内及び地域の経済政策の枠組みを1月中に作成した。これにもとづいて、今年4月、ワシントンで開かれたG20蔵相会議で、IMFは最初の評価を行なった。次にIMFは、石油価格、銀行の利子率などが共通しているかをチェックした。そしてG20国がたてた経済政策の枠組みが、成長目標や、金融の安定化につながっているかを評価する。最後に、IMFのスタッフが、これら経済政策について、変更する点があるかチェックする。このようなプロセスを通して、IMFの考え方や分析のツールをG20国に受け入れさせることになる。
IMFは、情報の公開については最も遅れている。したがって、この評価プロセスもまた公開されることがない。したがって、IMFが果たしている役割についても公開されない。しかし、IMFの規則によると、IMFのスタッフの技術的助言の費用はG20国が支払うことになっている。
IMFの監視業務にかんしては、G20は金融危機についての特別報告の作成を依頼していた。報告書は、2010年6月のG20サミットに提出された。同時に、この監視業務はIMFの通常業務に入れられた。たとえば、2008年の石油価格のスペキュレーションに対する分析については、IMFの看板出版物である2009年4月の『世界経済アウトルック』に転載されている。
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