世界の底流  
湾岸産油国の脱ドル化の動き
2010年2月26日

 石油は、20世紀はじめに国際貿易の対象となった時から、米ドルが基軸通貨であった。石油の国際市場価格は、米国のウエストテキサス・インターメディエート(WTI) で産出される石油がニューヨークでの取引される価格が、国際市場の石油価格になる。サウジアラビアのような世界最大の産油国でも石油価格を決定できない。また産油国は石油輸出の代金として米ドルを受け取らねばならない。
 個人レベルから連邦政府レベルにいたるまで、大規模な借金を抱え、同時に巨額の貿易赤字を出している米国の通貨米ドルを、湾岸産油国が抱えているのは不安である。現在、サウジアラビアなどの湾岸協力会議諸国が保有している石油ドルは2兆1,000億ドルという巨額な額にのぼる。
 このようなドル依存を脱出しようとして、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、オマーン、カタール、バーレーンの湾岸産油国6カ国で構成される「湾岸協力会議」が、中国、ロシア、フランス、日本、ブラジル、インドなど湾岸産石油への依存率が高い輸出相手国と、これまでに、しばしば、財務相と中央銀行総裁による会合を秘密裏に開いてきた。
 この秘密会議のテーマは、2018年をメドにして、これまでの米ドル建てを廃止して、石油の取引に、日本円、中国元、ユーロ、金、それに湾岸協力会議が新しくつくる通貨などを混合した「バスケット通貨」にしようというものであった。最近、これにロシアのルーブルが加わる可能性もある。そして、イランはすでに石油代金をユーロで支払うことを要求している。(2003年、イラクのフセイン政権が石油代金をユーロで受け取ることを決めた途端、米英連合軍がイラクに攻め入ったことを覚えているだろう)
 この記事は、2009年10月7日付けの英『インディペンデント』紙に掲載された。同紙の記者が、湾岸協力会議筋と香港の中国の銀行筋にインタービュしたものである。このことは、金の価格が急騰したことによっても裏づけられる。しかし、また、9年以内にドルからバスケット通貨に移行しようというが、容易いことではない。
 一方、米国は、この会議が開かれたことは知っているが、まだ内容を掴んでいない。米国がこのような国際的陰謀を知った時は、サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国や日本など忠実な同盟国の裏切りを決して許さないだろう。
 また、中国の孫必幹前中東特使は、『Asia and Africa Review』に対して、「中東政治と石油を巡って、米国と中国の間に、対立が起る危険性を避けることは出来ないだろう」「中東の石油と安全保障について、中国は妥協出来ない」と語った。
 これは将来、中東で中国と米国の間に石油戦争が起ることを予測させる。たしかに、中国は、経済成長のために、米国よりもはるかに中東石油に依存している。なぜなら中国経済の省エネが進んでいないからだ。中国の銀行筋によると、ドルからの移行通貨は金だといっている。
 昨秋、イスタンブールで開かれたIMF・世銀の年次総会で、ゼーリック世銀総裁は、「グロ−バルナ金融・経済危機は世界の経済の力関係を変えてしまった」と語った。確かに、中国は、強大な金融勢力となった。そして、それ以前から石油産出国と石油消費国が、国際金融界での米国の干渉ぶりに怒ってきたこともあって、このような秘密会議が開かれるようになった。
 中国の石油の輸入依存率は60%に達している。それは主として中東とロシアからである。したがって、最近、中東での中国の動きは活発化している。中国はイラクの石油開発権を獲得したにもかかわらず、米国の反対でストップしている。さらに、2008年以来、中国はイランと、80億ドルにのぼる石油精製とガス田開発権を獲得している。また、中国は、スーダンの石油開発権を得ているし、リビアとも石油開発権について交渉中である。これらの開発権はすべて相手国政府との合弁事業である。
 中東での中国製品の輸出も目覚しい。多分10%を超えているだろう。その内容は、自動車、武器をはじめとして、食品、衣料品からおもちゃの人形にまで多岐にわたる。
 このような中国の進出ぶりについて、Jean−Claude Trichetヨーロッパ中央銀行総裁は、中国に対して、ドルの低下に伴う元の切り上げを要求した。これによって、中国の米ドルに対する依存率を抑えようとするものである。これはまた、ユーロ高を抑えることが出来る。
 オバマ大統領は、このような脱ドル化を阻止するためには、米国経済を8年間で再建させねばならない。