世界の底流  
コペンハーゲンCOP15を終えて(その6)

2010年1月4日

1.市民社会の闘い

 コペンハーゲンには、気候行動ネットワーク(CAN)、気候正義Now(CJN)、先住民コーカス、国際労連(ITUC)、女性コーカスなどのNGOのロビー団体が参加した。

 インターネットを使ったグローバル市民運動のツールである「Avaaz.org」によると、12月16日、首脳会議(17〜18日)の直前、グローバル市民社会が1,300万人の署名をコペンハーゲンCOP15の議長に提出した。さらに、何百回もの電話、インターネットが出席している政府代表に送られた。COP15の会場内では、若いNGOが陳情書に署名した人びとの名を読み上げていた。
 コペンハーゲンでは、首脳たちが、これまで何年もの間合意出来なかった協定書の作成に取り組み、全力を投じて、合意の採決をはかっていた。英国のブラウン首相は、会議場内でVigil(苦しめられている人びとのためにキャンドルに火を灯して、1晩中祈る)中の3,000人のAvaazメンバーを前にして、「首脳たちが集まるこれからの48時間が歴史を変えるだろう」と、熱のこもったスピーチをした。ノーベル平和賞の受賞者である南アフリカのデズモンド・ツツ大主教は、「南アフリカで、我々は行進した。そしてアパルトヘイトを倒した。我々はベルリンでも行進した。そして壁は崩壊した。我々のコペンハーゲンでの行進は、真の協定をもたらすだろう」と叫んだ。
 コペンハーゲンでは協定は採決されなかった。しかし、市民社会の功績は否定できない。

 12月12日土曜日、全世界で大規模なデモが行なわれた。コペンハーゲンでは、警察の発表によると、6〜10万人が、Christianborg Stotsplads(城前広場)から南に向かって会議場のベラ・センターまでの長い道のりを行進した。「Bla,Bla,Bla,今こそ行動のときだ」というのがデモの共通語であった。会議場であるベラ・センターは厳重に防備されて、近づくことも出来なかった。
 このデモは何百もの環境団体、人権団体、気候活動家、反資本主義者など幅広い連合が組織し、平和的デモであった。しかし、コペンハーゲン市の他の場所で発生したラジカルな抗議デモでは、600〜700人が逮捕された。
 翌日曜日、AP通信によれば、前日逮捕されたのは968人で、起訴されたのは13人だった。その中で、2人のデンマーク人と1人のフランス人が警官に暴力を振るったとして、裁判にかけられた。また翌日日曜日には、Christiania 地区付近で散発的なデモが行なわれた。ここでは200人が逮捕された。
 このような大規模のデモに励まされて、スーダンのLumunba Stanislaus Di-Aping大使を先頭に 低開発国の政府代表が、抗議を表すために、会議場から退場(Walk out)した。
12月16日水曜日、午前11時、市民社会は、ベラ・センターとつながっている地下鉄の駅前で、大規模な「ピープルズ・アセンブリー」を開いた。その中の数百人が会議場に入ろうとして、機動隊ともみ合い、260人が逮捕された。会議場内では、登録したNGOたちがデモを行ない、また大きい音を立てて、議事を妨げようとした。

2.Via Campesinaの声明「我々は農地をあとにして、コペンハーゲンに来た」

Kilmaforum(デンマークNGO主催のフォーラム) における
Henry Saragihのスピーチ2009年12月7日
Via Campesinaの総コーディネーター

 今宵、社会運動と市民社会が開催したKilimaforumは特別に重要である。我々国際農民運動であるVia Campesina は、農地、家畜、森林、そして家族を残して、5大陸からコペンハーゲンにやってきた。

ここに来ることがなぜ重要なことなのだろうか?それにはいくつかの理由がある。

  1.第1に、気候変動がすでに我々に大きな影響を及ぼしていることを告げるためだ。

気候変動は洪水、旱魃、そしてペストの流行をもたらし、収穫を減少させている。このような収穫量の減少は、農民たちが引き起こしたのではない。それは、汚染者たちが排出し、自然のサイクルを狂わせたのだ。汚染者たちが引き起こした誤りを、我々小農民は支払わない、ということを告げにやってきた。排出者に対して、その責任を問う。

  2.第2に、農業において温室効果ガスを排出しているのは誰かということについて、皆

さんとともに考えたい。最近のデータでは、工業型農業とグローバル化した食糧システムが、温室効果ガス排出の44%〜57%を占めている。もう少し詳しく述べると、@ 農業が11〜15%、A 土地開発と森林伐採が15〜19%、B食品加工、包装、運輸が15〜20%、C 有機物の廃棄が3〜4%などとなっている。つまり、現在の食糧システムが排出の最大源になっている。

  3.今答えなければならないことは、農業部門が全排出量の半分を占めていて、気候激

変やそれに伴う飢餓をどのようにして解決するのか、そして、農民たちにより良い生計の道を保証できるのだろうかという問いである。我々は巨大な工業型農業やアグリビジネス(多国籍農業資本)モデルこそが問題の根源だと考える。なぜならこのような%は、巨大な農業資本が、原生林を伐採し、モノカルチャーのプランテーションに転用しているからだ。決して家族農業のせいではない。農業から排出する膨大なメタンは、世銀が推進した「緑の革命」によって、石油化学肥料の尿素を使用してきた結果である。同時に、FTAやWTOが推進する農業部門の貿易自由化が、食品加工、農産物の運輸による温室効果ガスの排出を増大させている。

  4.もし真剣に気候変動に取り組むなら、工業型農業をやめることだ。アグリビジネスは

気候の変動をもたらしているだけでなく、世界中の小農民を虐殺している。何千万もの農民が毎年、土地を奪われている。また、幾百万もの人びとは、土地をめぐる紛争で、アフリカ、アジア、ラテンアメリカでは暴力に晒されている。小農民と土地なき農民は、10億人以上の飢えた人びとの大多数を占めている。南アジアでは、自由貿易のせいで、多くの小農民が自殺している。工業型農業に終止符を打つことによって、我々は前進できる。

  5.カーボン取引メカニズムに依存している現在の気候交渉は、気候変動を解決するだろ

うか?カーボン取引メカニズムは排出国や企業に奉仕し、途上国の小農民や先住民を苦しめる。REDD(途上国の森林破壊や劣化を防ぐことで、CO2排出を制限)メカニズムは、途上国の先住民や小農民の土地を奪っている。カーボン・クレディトを売るために、農地が植林プランテーションに転換されている。

  6.2007年、バリ島で開かれたCOP13では、Via Campesinaは、土地なき農民や小

農民の気候変動に対する提案として、「小規模な、持続可能な農業が地球を冷やす道」だと述べた。そして、今回COP15では、それが、グローバルな温室効果ガスの排出を50%削減することにつながると、数字をもって再提案する。その数字の内訳は、@ 土の中の有機物を回復するだけで20〜35%、A 工場化した農地での食肉生産をやめ、家畜生産と農産物生産を統合することによって5〜9%、B 地域の市場で新鮮な食料品の提供を食糧システムの中心に置くことにより10〜12%、C 土地の開拓や森林破壊を止めることによって、15〜18%を削減できる。つまり、農業を、アグリビジネス資本から小農民の手に取り戻すことによって、温室効果ガスのグロ−バルな排出量を半分に減らすことができる。これは「食糧主権」である。

  7.我々は、これらを達成するために、他の社会運動をともに現在交渉中の誤った解決方

法を止めさせるために闘う。これは、やらねばならないことである。そうでなければ、より大きな悲劇に直面するだろう。我々社会運動は、独自の議題を提起すべきだ。それは、我々が気候の犠牲者であり、気候難民であるからだ。「気候正義」を実現しなければならない。

  8.1996年FAOの食糧サミットにおいて、政府は、2015年までに飢餓を半減する

と公約した。しかし、事実は、最近飢えた人びとの数は劇的に増えている。我々は、気候サミットにおいても、同じようなことになるのを許さない。
コペンハーゲンに集まったすべての社会運動が「気候正義」を達成するために頑張ろう。

Vis Campesinaは、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ30家国から約100人の代表がコペンハーゲンに集結した。