世界の底流  
コペンハーゲンCOP15を終えて(その5)

2010年1月4日

カーボン取引について
 97年、京都議定書が締結されたときに導入された削減のメカニズムの1つである。提案者は当時のアル・ゴア米副大統領であった。ゴア副大統領は会議の最後の段階で議場に到着したのだが、それまでは、米国代表が、「拘束力のあるCO2排出削減」に署名を拒否して、会議の進行を混乱させていた。
 ゴアの出現は、会議の緊張を和らげた。ゴア副大統領は、議定書に署名すると言ったが、それには2つの条件をつけた。@ すでに提起されている排出目標を半分に減らすこと、A 排出削減を、「市場での取引」を通じて実施する。これは、企業や国の「汚染の権利」を認めることになった。これは皮肉にも「クリーン開発メカニズム(CDM)」と呼ばれる。
このゴアの第2の条件は、「Cap and Trade」と呼ばれる「カーボン(CO2)取引」の始まりであった。勿論、米国は京都議定書に批准を拒否し、その後、脱退した。
 一方ヨーロッパは、2005年以降、鉄鋼、電力、石油化学などの大量CO2排出企業に上限値(Cap)を設け、「カーボン取引」を実施している。これは「EU排出取引システム」と呼ばれ、英国のシティが本拠地である。
 これは、まず企業にそれぞれ排出の上限値を設定する。排出したCO2に価格をつける。そしてこの上限値より下回った企業はその分をクレジットとしてカーボン市場で売ることが出来る。一方、上限値を突破してしまったた企業は市場でこのカーボン・クレジットを買うだろう。そうすれば、この企業は非難されずに大威張りでCO2排出を続けることが出来る。
 さらに、企業が途上国の低炭素プロジェクトに投資した場合、それを本国政府や当該企業の削減量に加える(Off Set)ことが出来る。
 この「企業を優先」した措置の結果、先進国は約束した削減値に全く達しなかった。これはこの取引の重大な欠陥である。
 さらに、京都では、「原子力発電」と「バイオ燃料」が「クリーン」であるという「神話」が登場したことであった。原子力は核廃棄物と核廃炉と言う恐ろしいゴミをだし、バイオ燃料は、大規模農業プランテーションでの生産により、貧しい国の食糧危機をもたらす。
 これはさらに2007年のバリでのCOP13では、大規模な地球、海、空、さらに貧困までも「市場化」されたのである。
 カナダの作家ナオミ・クラインは、2009年12月17日付けの『ガーディアン』紙に、カーボン取引について寄稿している。彼女によれば、ヨーロッパは、早くから、域内でカーボン取引を実践してきたので、その規模に熟知しているが、一方、途上国は、そもそもCO2排出の制限を受けてこなかったので、このカーボン取引で、どの程度の価値を失うのかまだ知らない。途上国の温暖化への緩和と適応のために、先進国が2020年までに年間1,000億ドルを供与すると「コペンハーゲン合意」では約束したが、これは途上国が失うものと比較すると、ほんの僅かでしかない、と言う。
 ちなみに英国の経済学者Nicholas Sternは、カーボン市場の取引高は年間世界で1.2兆ドルに上ると言っている。
 カナダのトロント大学グローバル調査研究所は12月8日のブログに以下のような記事が載っていた。同研究所は、米国での「カーボン取引市場」に内在している危険性について、警告した。米国金融市場では、投機的なでリバティブ(Credit Default Swaps)が危機を引き起こしたことは周知の事実である。そして、「カーボン市場」でも投機的なデリバティブが参入するだろう。
 これによって、CO2の排出が減ることはなく、その上、このカーボン市場には大規模な詐欺とインサイダー取引が伴う。新たに米国のCO2の取引市場が始まれば、それは年間2兆ドルの規模となるだろう。