世界の底流  
エルサルバドルの鉱山開発に対する抵抗
2010年7月20日

1.エルサルバドルの外国資本の闘い

 エルサルバドルでは、今年1月8日、地方都市トリニダッドで、何千人もが集まり、「鉱山会社に抵抗した殉教者たち」に対する追悼式を行なった。
 デモの中には、伝統的な革命歌を奏でるバンドがいた。同時に近くのサンイシドロからやってきたラップ・グループが社会正義を訴える歌を演奏した。また若い神父が「我々の家族や友人が殺された。環境破壊が始まっている。コミュニティの融和が壊れてしまった。これらはすべて、外国のPacific Rim鉱山会社の犯罪行為の結果である」と語った。
 エルサルバドルでは、昨年以来、外国の鉱山会社に対する戦いが起っており、すでに5人が命を失った。
 Pacific Rim社はまさに神父の言うとおりの悪行為をはたらいているにもかかわらず、「米・中米自由貿易協定(CAFTA)」という協定で守られている。CAFTAは、米国の貿易政策の道具の1つである。

2.CAFTAとは?

 エルサルバドルは、2004年12月17日に、中米で最初のCAFTA加盟国になった。当時、エコノミスト、左派の「マラブンドマルティ民族解放戦線(FMLN)」、社会運動などがこれに反対した。
「この協定はサルバドルの貧困を増加させ、労働条件を悪化させ、国家の主権を損なうものである」というのが反対の理由であった。
 協定の締結に至るまでの数ヵ月、エルサルバドルでは協定反対の闘いが繰り広げられた。これは弾圧を受けた。また政府は協定キャンペーンのために数百万ドルを使った。議会が協定批准の採決を行なったのは、夜中すぎだったが、多額の買収が行なわれ、また機動隊が議会を取り巻いて、デモ隊を近づけないようにした。
 CAFTA加盟から5年後の今日、生活費は急騰し、中心産業であった農業部門が衰退した。
CAFTAの第10条には、「外国の会社が利益を損なった時、現地政府を告訴する」ことが出来るという「投資者保護」の条項がある。これは以前からエコノミストたちが、「国家主権の侵害にあたる」と警告していた条項であった。「政府が、市民を守り、労働者を守り、環境を守ろうとするならば、外国投資会社は、政府を告訴する」ことが出来る。
 Pacific Rim社は、2009年4月、この条項にもとづいて政府を告訴した。これは、エルサルバドルに投資していた外国企業のなかで、最初の告訴であった。しかし、Pacific Rim 社はカナダに籍を置く多国籍鉱山会社であるので、CAFTAは適応されない。そこで、告訴直前にネバダ州のリノの会社を買収して、米国の会社にした。

3.エルドラド鉱山会社

 エルドラド金鉱は、サンイシドロにある。2002年にPacific Rim社が買収した。同社に開発権を発行したのは、経済省と環境・天然資源省であった。同社は、開発技術を、社会的に、環境的に責任のある技術と称し、「グリーン鉱山」というマスメディア・キャンペーンを行なった。しかし、これは同社のPRに過ぎなかった。
 2005年になると、トリニダッド市のカバナス地区の住民が、「グリーン鉱山」技術について調査を始めた。彼らは、Pacific Rim 社と同じ「グリーン鉱山」技術を使っているホンデュラスのValle de Siria 鉱山を訪れた。そこで発見したのは、恐ろしい健康被害であった。幼児死亡率は国の平均値の12倍であった。この情報でもってサンイシドロの住民たちは、鉱山反対のキャンペーンを始めた。
 Pacific Rim 社の報告書によると、金鉱山の開発には1日あたり、24万ガロン(1ガロンは3.8リットル)もの水を使う。これはエルサルバドルの1家族が20年間に使う水の量に匹敵する。エルサルバドルは、ラテンアメリカの中でも安全な水にアクセスできない人の率が最大である。エルドラド金鉱山は、エルサルバドル最大のLempa 川の流域に位置している。この川は首都サンサルバドルの飲み水の約半分を供給している。この川が重金属などの毒で汚染されている。
 カナバス地区の住民の粘り強いキャンペーンが効果を発して、Pacific Rim社に対する闘いは全国的になった。そして、2009年カバナスの3人のリーダーの残虐な殺害事件が起こり、これは全土的な怒りを呼び起こした。
 現在エルサルバドル全土には、29の鉱山開発プロジェクトがある。これらすべてで住民の闘いが始まっている。
 一方、外国の鉱山会社がPacific Rim社に続いて、政府を告訴する構えを見せている。Pacific Rim 一社の訴訟でも、重い債務を抱えているエルサルバドル政府にとって、重圧である。まして28社があとに続くとなると、どうなるか。
 オバマ大統領は、選挙キャンペーン中にはCAFTA、NAFTAの改正を掲げていた。しかし、今だに手をつける気配はない。