世界の底流  
アフガニスタンが「リチウムのサウジアラビア」になるか?
2010年7月23日

 6月13日付けの『ニューヨークタイムズ』紙は、第一面に、米国防総省の調査メモだとして、「アフガニスタン各地に1兆ドル規模の鉱物資源が埋蔵している」と報じた。鉄、銅、コバルト、金、モリブデンなどのほかに、リチウム、ニオブなどの稀少金属も大量に埋蔵されている。天然ガスの埋蔵もある。これは、少なめの計算で1兆ドル、実際には3兆ドルと言われている。国防総省は、「これらの地下資源は現代の産業に不可欠なものであり、アフガニスタンは世界で最も重要な鉱物資源のセンターになるだろう」と言っている。
 1980年代、米国防総省が、旧ソビエト侵攻の際に、ソ連が6億5,000万ドルもかけて作成した鉱脈図を手に入れたことにはじまる。これは、ソ連軍が撤退した時、現地の地質学者がこの書類を隠し持っていた。そして、タリバン政権が倒れた後、2004年に米軍がこれを入手した。
 2006年、これを元に、米国の地質調査所(USGS)が、アフガニスタン内の7割以上の土地を航空写真でもって調査した。その結果、鉄、銅、コバルトなどの巨大な埋蔵のほかに、南部では大規模な金の鉱脈が確認され、さらに中部のガズニ州付近の塩湖には巨大なリチウムの埋蔵が発見された。
 リチウムの埋蔵量は、現在、世界一のボリビア、チリに匹敵すると見られ、米国防総省は、「リチウムのサウジアラビア」と呼んでいる。リチウムは現在最先端産業であるパソコン、携帯電話、電子自動車用の電池の原料である。さらに、超伝導物資の原料となるニオブもある。
 昨年、すでに国防総省はアフガニスタン復興の「特別チーム」を現地に送り、アフガニスタン政府に対して、採掘権管理の指導を始めた。しかし、鉱業の歴史がないアフガニスタンでは採掘技術の習得や社会基盤整備には時間がかかる。
 オバマ大統領は、これが、治安と経済復興に役立つと考えているようだが、そんなに単純ではない。
 まず、タリバンが資源確保を目指して支配地域の拡大をはかるだろう。
 そして、鉱物資源を抱える地域の軍閥と中央政府との「資源をめぐる争い」も起るだろう。採掘権をめぐる汚職や環境破壊も予想される。アフガニスタンには世銀の指導でつくられた「鉱山開発法」があるのだが、これを尊重するものはいない。また鉱業が発達していないアフガニスタンには、環境保護法もない。
 さらに、すでにアフガニスタンのヘルマンド州Aynak 銅鉱山(年産150万トンと言われる)の開発権を保有している中国が、他の資源の獲得にも手を伸ばしてくる恐れもある。2009年、中国の銅鉱山の開発権をめぐって、Mohammed Ibrahim Adel 前鉱山相が中国から3,000万ドルの賄賂を受け取ったことが発覚した。その結果、大臣は更迭された。
 西側の多国籍鉱山会社はアフガニスタンの地下資源の開発に興味を持っているが、暴力、腐敗、インフラの欠如など投資のリスクがあるので、実際に手を付けかねている。ある多国籍鉱山会社の取締役は、「まず戦争が終わることが条件だ」、「わが社の調査チームをカンダハルに送った後で、彼らの妻を呼んで、貴女の夫は撃たれて死にました、というのか。冗談じゃない。お断りだ」と語った。
 しかし、ハイリスクを恐れない“勇敢”なJP Morganなどはすでに現地に鉱山技師のチームを送り、開発可能なプロジェクトを探っている。JP Morganの鉱山専門家Ian Hannamはロンドンで「将来アフガニスタンは銅、鉄、金、リチウムの有力な産出国になるだろう」と語った。
 アフガニスタン政府も乗り気だ。Wahidullah Shahrani 鉱山相は「6カ月以内に開発権の落札を始める」と言っている。7月20日、ロンドンで開かれた「アフガニスタン支援国会議」には、200人もの鉱山開発の投資家が招待された。世銀の鉱山開発の専門家Craig Andrewsは、「まず、バーミヤン州のBajigak の鉄鉱石の開発をしてはどうか」と鉱山相に助言した。
 また、鉱山開発契約の専門家を抱える国際会計事務所が、アフガニスタン政府に雇用されたという話もある。
 米国防総省は、アフガニスタンの鉱山省に対して、今秋にも鉱山開発権の国際入札を始めるよう要請している。
 アフガニスタンの鉱物資源の埋蔵は全土に散らばっている。そのなかには、タリバンの根拠地である南部と東部のパキスタンとの国境地帯も入っている。ここは現在、米軍とタリバンとの激戦地になっている。
 現在、アフガニスタンのGDPは120億ドルである。これは主として、麻薬の原料であるけしの生産と密輸、さらに外国の援助金で賄われている。
 これら地下資源の発見は、アフガニスタンにとって大きな好機であった。なぜなら、米海兵隊によるマルジャ攻撃はほとんど失敗に終わった一方、カルザイ政権の汚職と縁故主義に対する国際的な非難が高まっていた。カルザイは米政権との間に距離を置き始めていた。
 すでに2007年、ワシントンで「米・アフガニスタン商工会議所」の会議が開けれた時、このニュースが伝えられた。しかし、当時は無視されたと言う。今日、オバマ大統領にとって、アフガニスタン戦争では、良いことは何もない。そこでこの天然資源埋蔵のニュースは、米軍がアフガニスタンに留まる良い口実になるだろう。